19Still※またまた18〇入ります、ご注意ください。

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19Still※またまた18〇入ります、ご注意ください。

◇◇◇ 今日は祭日だが、俺以外はみんな仕事だ。 キッチンで適当な物を出して食ったら、部屋に戻ってぼんやりと過ごす。 ゆうべはろくに眠れなかった。 また寝不足だ。 ウリの事は忘れよう……。 無理矢理忘れる事にした。 当たり前に三上の事も。 だけど……あんなに楽しみだったのが、どんよりとした憂鬱な気分になる。 テツは多分、翔吾に内緒で俺に手を出した事を悪いと思ってる。 三上の事は一度疑いはしたが、あれ以来疑ってこない。 木下はテツに打ち明けろとアドバイスしてくれたが、昨夜俺は、あの2人が元から仲が悪いという事を知った。 三上は過去にテツに殴られた事を根に持っているが、それはあくまでも組絡みの件で殴ったわけだ。 俺の事は単なる私情になる。 私情だからテツは尚更腹を立てるだろうし、私情で手酷く制裁を加えたりしたら……それはあの世界のルールに反するんじゃないか? 一体どうしたらいいのか。 三上はムカつく事ばっかし言うが、俺が今、こんな風にテツと会う事を楽しみにしたり、ヤクザ相手に文句を言ったり出来るのは、テツと付き合うようになってからだ。 悔しいが、だから三上の言った事を全面的に否定出来なかった。 テツとの関係は……。 翔吾には悪いが、切るなんて事は不可能だ。 だとしたら……切るんじゃなく、そこのところをリセットして最初に戻ってみたらどうだろう? そしたら、何か違ったものが見えてくるかもしれない。 午前11時を過ぎた頃、テツから電話がかかってきた。 車を家の前につけていいと言ったら『あれだけ嫌がってたのに、何故急に許可するんだ』と訝しんでいたが『家族がいない時限定です』と言ったら、ぶつくさ言いながら納得した。 テツが迎えに来るのは12時過ぎだ。 時間までに服を着替えて髪にざっとクシを通し、ショルダーバックに必要な物を詰めた。 12時前になり、そろそろ来るかと思って部屋の窓から下の道路を眺めていると、右側から黒いレクサスがやって来た。 テツだと思ったが、まだ予定より早い。 なので、俺は暫く様子を見ていた。 レクサス=テツとは限らないから、ある程度近くに来なきゃわからないからだ。 車はうちの家の門扉の前で停車した。 やっぱりテツだったと思って下へ降りようと思ったが、車のドアが開いてテツが車から降りてくるのが見えた。 家の前に来る事は許可したが、前に『車の中で待っててくれ』と言ったのに何故降りてくるのか分からない。 しかも、テツはまた門扉を開けて玄関に向かって歩いて来る。 前とおんなじだ……。 俺は慌ててショルダーバッグを肩にかけ、家の鍵を握り締めて部屋を飛び出した。 急いで階段を駆け降りていると、途中でピンポンが鳴った。 下まであと数段というところで階段を飛び降り、玄関にダッシュして鍵を開けたら、ドアが開いて足元がよろついた。 「わっ……」 「へへー、迎えに来てやったぜ、おめぇ、ピンポン押したらすっ飛んで来るな」 テツがニヤついた顔で目の前に立っている。 面白がってわざとやってるようだが、俺は悪ふざけに乗る心境ではなく、今朝決意したように気持ちを新たにしていた。 「テ……、いや、矢吹さん、やめてください、車で待つように言ったでしょ」 思わずいつものように話しかけたが、すぐに話し方を切り替えた。 「ちょっとしたジョークだよ、それより今……矢吹さんって言わなかったか?」 テツは眉を顰めて聞いてくる。 「気にしないでください、早く行きましょう」 リセットするっていうのは、出会った頃に戻すって事だ。 お構い無しに引き続き丁寧な言葉遣いで言った。 「お、おお……」 テツは怪訝な顔をしたが、兎に角、玄関の前に立たれていては目立つ。 テツを促し、焦るように靴を履いて玄関の外に出た。 テツは先に車に乗り込み、俺は手早く家の鍵をかけて助手席に乗り込んだ。 「飯、まだだろ?」 「はい」 俺は即座に車を出して欲しかったが、テツは車を止めたまま話しかけてくる。 「なにか食いに行こう」 ちょうど昼時だし、食事を奢ってくれるつもりらしい。 「いえ、食欲がないから……コンビニでいいです」 気持ちは嬉しいけど、今はそういう気分になれなかった。 「コンビニ? お前、せっかく人が連れてってやるって言ってるのに、またコンビニか?」 「はい、それでいいです」 「ちょっと待て……、電話した時も気になってたが、おめぇ言葉遣いおかしいぞ、何故敬語を使う、ふざけてるのか?」 突っ込まれるのは覚悟していた。 「これからは、これでいきます」 「はあ? お前……、何言ってるんだ?」 何を言われてもかまわない。 何気なく道路に目を向けたら、俺の家とは向かい側の並びの家に人影が見えた。 うちの正面に建つ家から2軒先の家だ。 確か田中という名前で年配の夫婦が暮らしている筈だが、旦那さんと思われる白髪頭の男の人が、庭に立ってフェンス越しにこっちを見ている。 「あの……、とりあえず車を出してください、見られちゃマズいので」 うちの家族は仕事で殆ど家にいない為、あの旦那さんと話をする機会はないと思うが、万が一という事がある。 「ん、おお、ジジイがこっちを見てやがるな」 テツを急かしたら、呑気に白髪頭の旦那さんの方へ目を向けた。 旦那さん側からは距離があるし、フロントガラスが反射してテツの姿はハッキリ見えないと思うが、殺気でも感じたのか、旦那さんは慌てたように家の方へ引っ込んで行った。 「矢吹さん、早く」 「苗字で呼ぶな! テツと呼べ」 焦ったが、テツは俺の言葉遣いが気に食わないらしく、文句を言ってなかなか車を出そうとしない。 「いや、あの……今はそれどころじゃ、また誰かに見られたらマズいし、兎に角早く車を出してください!」 「ちっ、ったくよー……」 強い口調で言ったら、不満げな様子で車を出した。 その後、テツは不貞腐れて黙り込んでしまったが、急に他人行儀な言い方をしてるんだから、テツが怒るのは当たり前だろう。 車が住宅地を離れた辺りで俺から話しかけてみた。 「あの、脱毛はまだですか?」 出来るだけ自然に……と、意識しながら話しかけた。 「まだだ、来週やる」 しかし、テツは無愛想に短く答える。 「で、今日はどちらへ?」 「アパートだ」 めげずに聞いたらアパートへ行くと言ったが、ふと大事な事を思い出した。 「あ、だったら……前に寄ったコンビニとは別のコンビニにしてください」 「同級の奴に見られたからか?」 「はい」 堀江に見られたコンビニは、一応避けた方がいいだろう。 「分かった、他の店に寄ってやる、それよりもおめぇのその態度だ」 テツはすんなり承諾してくれたが、やっぱりそこに触れてきた。 「はい」 「いつまで続けるつもりだ、悪ふざけも大概にしろ」 「ふざけてるわけじゃないです」 「じゃ、どうして急に他人行儀になるんだ」 「俺と矢吹さんは元々タメ口をきいていい仲じゃない、だから元に戻そうと思っただけです」 「何かあったのか? 若がお前に何か言ったのか?」 「いえ、なにも……、俺は矢吹さんに拉致られて今のような状態になりました、だからもういっぺん初めに戻してみようと思っただけです」 「こないだ会った時は普通だったじゃねーか、昨日1日あけただけで何故そうなる、おかしいじゃねーか、俺が何か気に食わねー事をしたか? それとも……今頃んなって拉致られた事に腹を立ててるのか?」 「違います、そんなんじゃなくて……、俺は本来の自分を見つめ直してみようと、そう思っただけです」 「それで敬語か?」 「はい」 「ふー、何を考えてるのか知らねぇが、ガキの気紛れをいちいち真に受けてちゃキリがねぇからな、俺は気に入らねぇが、おめぇがそうしてーなら、好きにしな」 「はい」 俺は話せる範囲で自分の気持ちを明かした。 テツは納得したというより、諦めたといった感じだったが、一応俺の主張を認めてくれた。 車はそのままアパートへ向かったが、途中で前とは別のコンビニに寄った。 適当な物を買って店から出た時に、俺と入れ替わるように若い男が店に入ろうとしたが、見覚えのある顔にギクッとした。 「あれ? 友也じゃん」 ───堀江だ。 こいつに遭遇しないように、わざわざ別のコンビニを選んだのに……まるで神出鬼没の疫病神だ。 「ああ……」 俺は嫌々立ち止まり、入り口にいたら他の客の邪魔になるから、とりあえず入り口の横へ歩いて行った。 堀江は興味津々に辺りを見回しながら、俺についてきた。 「あ、あの車だ、またあのお兄さんと一緒なんだ、へえ、真面目に付き合ってるんだね」 あの時は見られただけだからすっとぼけたが、今はそうはいかない。 「あのさ、一緒にいるからって、別に付き合ってるわけじゃねーから」 「じゃあ、なんでいつも2人きりなわけ? 2人で何してるの?」 「あの人は柔道やってて、教えて貰ってる、ただそれだけだ」 「マンツーマンでレッスン? やだあー、寝技とか? きゃはは!」 「あのな……、お前、どうかしてるぞ」 あながち間違ってなかったりもするが、適当な事を言って誤魔化そうとした時に、ふと堀江が話していた事を思い出した。 テツに借りを返してやると言った彼氏……。 そいつと一緒に来ているのかと思い、緊張感が走った。 「堀江、お前こそ誰と来てるんだ? 前に一緒にいた奴か?」 「ああ、今日は違う、これ内緒なんだけど、俺さ、今3人と付き合ってる、ミツマタ、ね、凄くない?」 堀江は自慢げにミツマタだと言ったが、俺は別人だと分かって安心した。 「ふーん、前に一緒にいた彼氏って、ヤクザなんだろ? バレたらやばくね?」 緊張感がとけ、気分がよくなったついでに聞いてみた。 「バレなきゃいいだけじゃん、大体さ、向こうだって遊んでるんだし、若いうちに楽しまなきゃ損だよ、友也は一筋?」 すると逆に聞き返され、聞かなきゃよかったと後悔した。 「だから、柔道の師範なんだって」 こうなったら、嘘を貫き通してやる。 「じゃあ、師範とどこ行くの? わざわざこんな町外れに来なくても、道場なら街にあるんじゃない?」 堀江は疑うように聞いてきたが、確かに……堀江じゃなくても、100人中100人が皆おかしいと思うだろう。 「あるんだよ、知る人ぞ知る修行の場が……町外れに、そこで鍛錬するんだ、薪割りや水垢離もするんだ」 けど俺は、火野さんの事を思い出し、馬鹿馬鹿しい嘘を大袈裟に口にした。 「えー、なにそれ、ドン引きー」 「何引いてんだよ、だから修行だって言ってんじゃん」 「あ、そ……、あっ! お兄さん、さっきから友也の事見てるよ、わっ、こっち向いた、どーも、こんにちわー!」 堀江は呆れた顔をしたが、テツが乗るレクサスに目をやると、テツに向かってはしゃぐように手を振った。 「ちょっと、よせよ……」 おねぇみたいな態度でテツにアピールするから、イラッときた。 「買い物するんだろ? 早く中に入れ!」 堀江の体を押して無理矢理入り口へ誘導した。 「ふふっ、ヤキモチ?」 「うるせー、いいから消えろ!」 「きゃははっ、わかったよ、じゃまたー」 楽しげに笑う堀江を店内へ押し込み、片手に買い物袋を提げて車に戻った。 「あいつか? 前に見られた奴は」 「はい」 「カマだな、ありゃ」 「はい、そうです」 テツは堀江について話しながら車を出したが、おねぇ予備軍なのは当たってるし、俺はそれについて否定するつもりはない。 暫く走ってやがてアパートに着いたが、今はすっかり見慣れた部屋の中は、いつ来ても綺麗に片付いている。 テツはソファーに座り、タバコを咥えて火をつけた。 「ふー、ここは静かでいい」 買い物袋をテーブルの上に置いてテツの横に座ったら、テツは当たり前のように俺の肩を抱いてきたが、手の重みを感じると……不思議な位穏やかな気持ちになる。 こうしてまったりと過ごす事が、俺にとっては1番楽しい時なのかもしれない。 そんな事を心中でこっそりと考えていると、テツは肩から手を外し、買い物袋に手を伸ばした。 「何を買ったんだ?」 口にタバコを咥え、両手で袋の中身をガサガサ探る。 「ああ、デザートとか……」 「お、焼き鳥があるじゃねーか、よし、今日はゆっくりできるからビールでも飲むか」 中身を袋から出してテーブルの上に並べていったが、焼き鳥を発見してタバコを灰皿で揉み消した。 「大丈夫ですか? 飲んで運転はやばいでしょ」 「おお、だから今言っただろ? 時間ならある、若は親父に付き合わされてゴルフの後もすぐにゃ帰れねー、俺は上手く理由をつけて逃れたが、火野と寺島を代わりに行かせた、あいつら共々帰りは夜になるだろう」 ビールなんか飲んで大丈夫か心配になったが、そういう事情なら安心だ。 それよりも、俺はちょっと気になった。 テツは親父さんに嘘の理由をつけてゴルフを断ったらしいが、本来テツは翔吾についてなきゃいけない立場だ。 「あの、わざわざ時間を作って貰って、すみません……、俺、今までそういう事を聞かなかったけど、今までも俺の為に嘘をついて時間を作ってくれてたんじゃ?」 何だか急に申し訳なくなった。 「馬鹿……、そんなわけあるか」 「本当ですか?」 「常に忙しく走り回ってるわけじゃねーんだ、暇ぐれぇいくらでも作れる、それに若は今修行中だ、今までサボってた分大変だが、親父は若が組を継ぐ気になった事が嬉しいんだよ、だから直々に教えこんでる、俺じゃなくても元から親父についてる奴らもいるしな」 「それなら大丈夫ですね」 「俺はな、まだガキだった若の身の回りの世話や躾を任されてた、前にも話したと思うが、ガキの世話は案外大変なんだぞ、やたら風邪ひくしな、一晩中眠らずに看病したり……そんな事がなんべんあったか、それとな、俺の前についてた奴が若を散々甘やかしたせいで、とんでもなく我儘になっちまってた、俺はあくまでも若に従う立場だ、だからよー、その立場を超えねぇようにしつつ若を叱った、まあー今となりゃいい思い出かもな、どことなく寂しいような気もするが、暇になってありがてぇ」 「そうですか……」 空いた時間に会いに来てくれるなら、俺が気に病む事はなさそうだが、翔吾の事をしみじみ語るのを聞くと、なんとも言えない気持ちになる。 テツと翔吾の間には、俺には立ち入れない家族のような絆があるように思えた。 だとしたら、2人の間に挟まれる俺は……どう振る舞えばいいのか悩ましい。 「ま、俺の事は気にするな、それより……おめぇこそ、何か隠し事をしてるんじゃねーか?」 悶々としてたら、不意に問いかけられて慌てた。 「そんな事は……ないです」 「ほお、本当かどうか……体にきいてやろうか」 テツは毎度おなじみな不敵な笑みを浮かべて言う。 「えっ?」 「へへー、こいつを見ろ」 片手を上着の内ポケットに突っ込んで何かを取り出し、得意げに俺の目の前に差し出して見せつける。 「手錠? 何隠し持ってるんですか、前にも内ポケットから浣腸出しましたよね? あの時は吹きましたよ、まったく……そうゆうのはやめてください」 予め隠し持っていたらしいが、今回は浣腸ではなく手錠だった。 「うるせーな、あの時はたまたまだ、おめぇはこうすると……感じるよな? オラ! おとなしくしろ!」 呆れていたら、ガチャっと音がして片手に手錠をハメられた。 「ち、ちょっと待って! ビールは?」 さっきここに来たばかりで、いきなり拘束されるのは勘弁して欲しい。 「汗かいて飲む方がうめーからな」 「いや、あの、手錠はちょっと、あ"ー! やめっ、拘束するの、無しだから!」 なのに……ぐいっと体を押さえつけられ、無理矢理うつ伏せにさせられて、後ろ手に手錠をかけられた。 「よし、座れ」 「ううー、変態」 翔吾の話を聞いた時は、テツの健気さに感動すらおぼえたのに、拘束された状態でソファーに座らされてしまった。 「おっ、言葉遣い戻ったか?」 「今のは独り言です、っていうか……、これ外してください、これじゃなにも出来ません」 まだ昼飯も食べてないのに、これじゃマジで何も出来ない。 「俺が食わせてやる、何が食いてぇ」 すると、思わぬ事を言い出した。 「え? 矢吹さんが……食わせてくれるんですか?」 「そうだ、おめぇ甘いもん好きだったな、そうだな、じゃ、このよく分からねぇケーキみてぇなやつ、これいくか?」 テツはカップに入ったデザートを手にして、カップについてるスプーンを外しているが、俺は呆気にとられた。 「えぇ……? いや、あの……」 「ほらよ、食え」 蓋を開けて中身をスプーンですくい、俺の口元に差し出してくる。 「ちょっ……、い、いや、おかしいでしょ」 怪我や病気ならいざ知らず、拘束された状態で食わせて貰うのはおかしいし、めちゃくちゃ恥ずかしい。 「いいから、口開けな」 「いや、無理です……、拘束プレイをしたいなら後で付き合いますから、手錠外してください、自分で食います」 「食わねーと、口移しすっぞ」 俺は手錠を外すように訴えたが、テツは輪をかけて異常な事を言う。 「口移し? そのデザートを? それって……マジで言ってるんですか?」 「おう、噛んでドロドロになったやつを口移しで食わせてやる、あははっ! おもしれぇだろ、流動食だ、おい、食わねーとほんとにやるぞ」 冗談かと思ったら、本気らしい。 ドロドロを口移しとか、気色悪過ぎる。 「いや、それだけは勘弁してください、分かりました……、食います」 変態なのはわかっていたが、変態を超える変態だったらしい。 おとなしく言うことを聞いて、デザートを食べさせて貰う事にした。 「ほら、あーんしな」 テツはスプーンを口元へやって言ってくる。 「う、あ……」 顔が熱くなったが、口を開けるしかない。 なんなんだこれは……。 新手の赤ちゃんプレイか? 俺はひたすら恥ずかしさに耐えた。 デザートが終わったら弁当も食わせて貰ったが、普通は食事が先じゃね? 順番が逆だと思ったが、テツはそんな事はどうでもいいらしく、俺に食わせた後で自分も弁当をがっついてたいらげた。 その後何をするのかと思ったら、強制的に下だけ脱がされてしまった。 上だけ黒いTシャツを着て、下はスッポンポン……。 「矢吹さん、もう慣れましたが、こんな格好させて、次は浣腸ですか?」 情けない格好だが、そんな恥ずかしい格好にされても、赤ちゃんプレイの方が恥ずかしかった。 「よく分かってるじゃねーか、今日は特別に俺がやってやる、シャワ浣もだ、ほら尻出せ」 ありがた迷惑な宣言に困惑しながら、ソファーに顔をつけてうつ伏せになると、尻臀をぐいっと開かれた。 こんな屈辱的な事すらすっかり慣れっこになった自分に悲哀をおぼえたが、浣腸のノズルがツプッと体内に入ってきた。 「う……」 体が微かにピクリと震え、ひんやりとした薬液を受け止めたら、俺はこれから始まる戦いに備えて身構えた。 イチジク浣腸は効き目が早く、直腸に入れたらものの数秒で便意に襲われる。 今回も漏れなく腸が蠕動し始めた。 「う"っ!」 腹がギュルギュルと音を立て、腸がうねってブツを直腸へ送り出し、直腸は降りてきた物を体外に押し出そうとする。 「っ、くうっ! これ、毎度キツい、はあ、う"!」 腸の蠕動は腹痛を伴うが、きついのは便意の方だ。 「はうっ、あっ、ハァハァ、んっ!」 漏らさないように全力でケツに力を入れたら、背中に寒気が走って額に脂汗が滲み出してくる。 「いいな、その耐える姿がいつ見てもたまらねぇ」 「あっ……、待っ、い、今、動かさないで…」 ケツに全神経を集中させているというのに、テツが腕を掴んできて冷や汗が噴き出した。 「上に向け」 「うわ、やめて、漏れる……」 そっとしておいて欲しいのに、ひっくり返されて仰け反った体勢になった。 腹が辛すぎて横に向こうとしたら、テツが腕をついて覆い被さってきた。 「へへー」 「ちょっと! だめだって、腹が、退いて! 退いてください!」 テツの重みが腹を圧迫し、ただでさえヤバい状況が更にやばくなった。 腸が腹の中で暴れ『ギュルギュルギュルー!』っと派手に音を立てた。 「う、わ、あっ……」 「おお、やべぇ音がしたな、漏れちまうぞー、革張りの高ぇソファーが糞塗れだ」 「だから、ど、退いてください! ああ、マジで……、やだ、出る、ヤバい!」 「そうか、そりゃ大変だ、おめぇが気の毒でよー、ナニが勃っちまったぜ」 テツは馬鹿な事を言ったが、直腸が苦しげにうねって内側から後孔を圧迫する。 「何言っ! うぐっ!」 穴は圧力に負けそうになってヒクヒク痙攣し、俺は意地でも漏らすまいとしてひたすら我慢した。 「くっ……うぁ、う!」 「いいぜ、その面、そそるわ」 一刻の猶予もないのに、テツは俺の頭をガシッと押さえつけ、食らいつくように唇を塞いだ。 「ぐっ! んっ! んんー! んー!」 集中力がプツンと途切れ、思わず便が漏れそうになった。 「んふーっ!」 ソファーに便を撒き散らすとか、そんなの絶対に嫌だ。 全身を強ばらせて襲いかかる便意に対抗したら、極限状態に達したアナルから下卑た音が漏れた。 「ふっ、くっくっ……、おい、今のはやべーな、漏れたんじゃねーか?」 テツはキスをやめてニヤついた顔で言い、顔がかーっと熱くなった。 「し、知るかよ……、今のはあんたのせいだからな!」 頭にきて怒鳴ったら、腸がここぞとばかりにうねり、またしても強烈な便意が襲いかかってきた。 「うわっ、やべぇ! ト、トイレー! テツ連れてって! 早くっ! 早くして!」 早くしないと、人生に汚点を残す羽目になる。 「よしよし、わかった」 焦りまくって急かしたら、テツは俺を支えてトイレに連れて行ってくれたが、何故か嬉しそうな顔をしている。 「ハァハァ……」 でも、そんな事はどうでもいい。 便座に座って下腹に力を入れてきばったら、下卑た音を立ててブツが噴き出し、繰り返し襲う便意に任せて排出していった。 腸の蠕動がおさまった時には、体の力が抜けて酷い脱力感に襲われた。 「ハァ……あ」 臭気が鼻についたが、手錠のせいで流せない。 「水を……流してくれ」 テツは開け放ったドアの柱に寄りかかっているので、げっそりとした気分で頼んだら、すぐにレバーを引いて水を流してくれたが、ニヤニヤしながら俺の頭に片手を置いた。 「こうしてじっくり眺めるのは久しぶりだな、1番最初の時以来だ、おめぇはあの時泣いた」 確かに、今の状況はあの時と同じだが、懐かしむように言われても、俺にとってはトラウマレベルな出来事だ。 「当たり前だろ、俺はあの時、あんたの事が滅茶苦茶怖かった、姉貴にまで手を出すとか言って、まるで別人みたいに見えた……やっぱりヤクザなんだって、そう思ってびびった」 「悪かったな、ああでもしなきゃ、ノンケは落とせねー、モノにするなら無理矢理やるしかねぇからな、姉ちゃんは今でも狙ってるぞ」 テツは未だに姉貴の口にするが、俺には口先だけで言ってるようにしか思えない。 いつもそんな風に言うだけで、何も実行してないからだ。 「そうですか……、で、シャワ浣やるんですか?」 「コノヤロー、姉ちゃんのこたぁ無視か、俺をなめてやがるな、しかもまた敬語に戻りやがって」 「なめてるわけじゃないです、今は矢吹さんの事……わかるから……だからです、もし本気で姉貴を襲うって言うなら、俺は意地でも姉貴を守ってみせます」 「ほお、使いっ走りにされてるわりにゃ泣かせる事を言うじゃねーか」 もし本気で言ってるんだとしても、もうテツなんか怖くない。 姉ちゃんはいつもキツい事ばっかし言ってきて、俺もつい言い返すが、本心じゃそんな風に気にかけてくれる事を有難く思ってる。 「あんな姉貴でも姉弟だから、姉ちゃんには絶対に手出しさせねぇ」 「へえ、おめぇも言うようになったな」 テツは姉貴の事にはそれ以上触れず、俺の事を言った。 「それより、シャワ浣どうするんですか?」 俺はそれには返さず、テツがやると言っていたし、どうするのか聞いた。 「るせーな……、やってやる、来な」 テツはムッとした顔をして俺の腕を掴んできた。 その後俺は浴室に連れて行かれた。 「おめぇ、すっかり慣れちまったな」 久々にテツにシャワ浣をやって貰ったが、やる事をやり終えたら、テツはシャワーヘッドを戻して残念そうに言った。 「それは俺のせいじゃない、あなたのせいだ」 もう羞恥心なんか、とっくになくなってる。 「おお、確かにそうだ、俺が手を出して……俺のモノにした」 テツは捲り上げた袖や裾を戻しながら言って体を起こし、俺の目の前に立ったが、俺が立ち上がったら自分の方へぐいっと抱き寄せた。 「わ……」 よろついてテツの体に寄りかかった。 けど、テツは浴室に入る前に上着だけは脱いでいたが、シャツとズボンは着たままだ。 水滴のついた肌が触れたら服が濡れてしまう。 「服が……濡れますよ」 「構うか、体はキレイになったんだ、早速やろうぜ」 テツは俺の体をぎゅっと抱き締めて言うと、顔を近づけてくる。 密着した状態で顔を見上げたら、次に起こる事を期待する自分がいた。 体が熱気を帯びていく。 「ここで? 服を着たまんま?」 「ああ、嫌という程……よがらせてやる」 「じゃあ、手錠とってください」 手を自由にして欲しかった。 このままじゃ抱き締めたくても、抱き締められない。 顔を見つめて頼んだが、無視されて唇が重なってきた。 「ふっ………う"っ」 両腕でギュッと体を締め付けられ、胸を圧迫されて声が漏れたが、テツは興奮気味に唇をこじ開けて舌をねじ込んでくる。 もうよく分かっている。 苦しげな声を漏らせば、テツは余計に俺を攻め立てる。 舌が口内を這い回る感触に呑まれ、気づけばぬめる舌を追いかけていた。 淫らな欲がとめどなく溢れ出し、腰を弄る手の感触に熱い吐息を漏らしたら、無骨な手が起立した竿を掴んできた。 「あ“っ……」 体が強ばって下腹がキュンと疼き、堪らなくなってキスを中断した。 「ハァ、あっ……」 熱に浮かされた頭がぼやけて霞み、テツの肩に顔を預けた。 「手錠かけられてこんなになるようじゃ、もう終わりだな」 テツは竿を弄りながら言ったが、俺はテツの股間がテントを張っている事に気づいていた。 「あなたこそ……俺を拘束して……ナニをこんなにしてる……ド変態です」 「気づかれてたか、にしても……、そんな言い方されたらやたらと腹が立つな、おっ、いい事を思いついたぞ、ちょうどいい、この際いい機会だ、本格的に攻めてやる、2階へ上がろう」 テツは怒っているようには思えなかったが、思いついたように2階へ上がると言い出した。 「2階? なにかあるんですか?」 2階はどんな部屋なのか、前から気になってはいた。 「見てのお楽しみだ、ほら行くぜ」 やけに楽しげだが、口元がニヤケている。 この顔は……何かよからぬ事を企んでいる顔だ。 「ちょっと待ってください、なんか嫌な予感がするんですが」 「階段上がりにくいだろ、手錠は外してやる」 テツは俺の質問には答えず、ズボンのポケットから鍵を出して手錠を外した。 「あの、もし何か変態プレイのような、そんな真似をするつもりなら、勘弁して欲しいんですが」 「よく分かってるじゃねーか、ほら来い」 手は自由にはなったが、2階で何をするつもりなのか……滅茶苦茶気になる。 「待ってください! なんなんですか? まさか……2階に変な器具とか道具とか……、そういうのを置いてたりしないですよね?」 テツなら十分有り得る。 「可愛がってやると言ってるんだ、ごちゃごちゃ言わず、黙って従やいいんだよ、ほら、来い!」 「あ、そんな……可愛がってくれなくていいですから」 「うるせー! 来るんだよ! 簀巻きにして階段ひこずって上がるぞ」 「うう、また脅す、ひでぇ、あんまりだ」 嫌だったが、恫喝されて2階へ引っ張って行かれた。 ドキドキしながら階段を上がったら、2階はスポットライトしかなく、真っ暗な部屋に真っ黒な壁……。 それだけでも異様だったが、床には赤い拘束台が3つ置かれ、壁際に十字型の奇妙な台がひとつある。 ──どう見ても磔するやつだ。 見回すうちに、部屋が暗いのは窓が雨戸のような物で塞がれてるせいだとわかった。 スポットライトは拘束台の周辺に設置され、天井や床、所々にいくつもある。 そのいくつもの光の筋が交差して、いい感じで拘束台を照らしているが、美しいというよりは不気味な光景だ。 俺は唖然としたが、特殊過ぎる部屋を見て呆れた。 こんな風に部屋を改装し、台を4つも揃えるには、それなりに費用がかかるだろう。 翔吾の屋敷の部屋にはトレーニングマシーンが置いてあったが、あれなら充分理解できるし、どうせ金をかけるならマシーンでも置いて筋トレでもしたらいいのに……。 「あのー、矢吹さん……、このアパートで一体何をしてるんですか? これはもう趣味とか嗜好のレベルを超えてるんじゃ?」 「あのな、だからおめぇはガキなんだよ、人生楽しまなきゃ損だ、友也、お前には選ばせてやる、どれを使うか自分で決めろ」 本人はもっともらしい事を言ったつもりかもしれないが、本当に困った人だ。 「いや、俺は……やりたくないって言ってるじゃないですか」 「Tシャツ1枚にフルチン、やる気満々じゃねーの、へへっ、決めねぇと……俺が決めちまうぞ」 「あなたが脱がせたんでしょ、まったく……」 「こまけぇこたぁいい、早く決めろ」 テツはすっかり乗り気になっている。 拒んだところでどうせ無理矢理やられるし、決めるしかなかった。 拘束台の近くに歩いて行き、じっくりと眺めてみた。 まず1番大きいやつを見たが、前にラブホで体験させられた、分娩台仕様のやつと似通った形をしている。 次にそれよりやや小さいやつを見た。 これはよく分からない凝った形をしているが、歪な形状をした台の下は鏡になっていて、台の前後には鎖がついた拘束具がついている。 最後に1番小さいやつだが、これはリクライニングチェアをシンプルにしたような作りだ。 これにも前後に拘束具がついているが、これが一番マシなように思える。 壁のやつは一見して却下だ。 1番小さいやつを選んだら裸になるように言われ、Tシャツを脱いで台に体を横たえたが、足は膝を曲げて床に足裏をつけ、腕はだらんと下に垂らす格好になった。 「これは少しだけ手足を動かせるからな、まあ、俺は磔の刑にしてやりたかったが、これが終わったらやるか?」 完全に諦めモードに突入していたら、テツは俺の手足に拘束具をハメながら言ってきた。 「お断りします……」 「そりゃ残念だ、ま、次回もあるからな」 溜め息混じりに答えると、テツは嫌な事を言って立ち上がり、部屋の奥へ歩いて行ったが……なにかゴソゴソとやり始めた。 拘束されていて見る事が出来ないが、音からして、隅に置かれた棚の引き出しを開けたり閉めたりしているようだ。 「ん、なにか持ってきたんですか?」 さほど経たないうちに戻って来ると、俺のわきで全裸になっていったが、紙袋を持ってきて床に置いている。 「嫌でもやる気になるようにしてやる」 「もしかして……媚薬とか?」 今の台詞で袋の中身は大体想像がついた。 「おう、こいつでケツに注入する」 しかし、テツが袋から出した物を見て顔が引きつった。 「あ、それは……」 「なんだ、知ってるのか?」 それは三上が使ったシリンジだ。 「い、いえ……」 テツが同じ物を使うとは思わなかったので、つい驚いてしまったが、慌てて知らないふりをした。 「なんか怪しいな……、おめぇやっぱり浮気してるんじゃねぇか?」 「そんな馬鹿な、矢吹さんと……一緒にしないでください」 疑いの目を向けられ、ソッコーでテツの方へ話を振った。 「俺はしてねぇぞ、温泉行った時の女はな、ありゃ行きつけのショットバーのママだ、おめぇに電話した時、ママも出来上がっちまってた、酔っ払って俺に絡んできて……テキーラを勧めてきたんだよ、いくら俺でも、90度もあるやつをいきなり飲めるか、たったそんだけの事だ」 「そうでしたか……」 俺はてっきりあの時の女とやった……と思っていた。 テツだって『大人には付き合いってもんがある』とか言ってたのに……今になって本当の事を明かすとか、ズルい。 これじゃむしろ、俺の方がテツを裏切ってる事になるじゃないか。 「で、こいつがなんなのか知ってるんだな? 嘘ついてもバレバレだぜ」 だけど、マズい……。 テツは執拗に疑ってくる。 「あ、あの……、小さい時に病院で……、それは浣腸器ですよね?」 何かいい言い訳を……と思ったら、運良く子供の頃に姉貴が入院した時の事を思い出し、その時にシリンジを見た記憶が蘇ってきた。 「おお、そうだ、本当に病院か?」 「はい」 「ま、いいだろう……、じゃ、まずはこれを飲め」 なんとか誤魔化せたらしく、俺は胸を撫で下ろしていたが、テツは怪しげな小瓶を出してくる。 よくあるドリンク剤みたいな瓶だ。 「それ、飲むんですか? ヤバくないですよね?」 「ただの媚薬だ、ほら飲め」 「う……」 媚薬なんか飲みたくなかったが、口にドリンク剤を突っ込まれた。 ドロッとした液体は結構甘く、小さな瓶だから一息に飲み込んでしまった。 昼飯は食ってるし、空きっ腹に染み入るような感じはなかったが、それでも胃の中がじわりと熱くなるのを感じる。 媚薬のせいか? と思っていると、テツは紙袋の中から小さめな袋を出した。 ちょうどシャンプーなんかの詰め替え用のパックみたいなやつだ。 それを開けて中身の液体をシリンジに吸い取り、俺の足側に移動した。 足は開いて台に乗せてるから、テツは足の間に入り込んでシリンジを後孔へ近づける。 シリンジは三上が使った物よりは小さく、中に入れた液体も、三上が使ったグリセリンと比べたら量が少ない。 でも中に入ってるのは媚薬だ。 「あの、大丈夫……ですか?」 どうなるのか心配になって聞いた。 「へへー怖いか?」 「そりゃあ、薬だし……」 「ま、やってみりゃわかる」 テツはシリンジの先端を俺の体内に挿し込み、冷たい液体が直腸に広がるのが分かった。 「よし、入ったぜ」 あっという間に注入し終わったが、即効性があるのか? 体内が火照ったように熱くなってきた。 「あ……、これなんかヤバい、体ん中が……」 鼓動が高鳴って身体中から汗が滲みだし、前立腺の辺りがムズムズし始めた。 「あっ、あの、これって……やっぱ薬の効果……ですか?」 「効いてきたか、へへー、で、これだ」 やっぱり薬のせいで変化が起こってるらしいが、テツはまた何かを手に持っている。 「あっ、それは……」 よく見たら、快楽地獄に落とされた時の……あの小さなベルトだ。 「おう、この特別な部屋で快楽地獄だ、雰囲気たっぷりだぜ、洒落てるだろう」 テツはくだらない事を言ってきたが、あの苦しみはマジで勘弁して欲しい。 「それ無し! 俺、あんたの言う事聞いて、変態プレイに付き合ってるんだからな! ベルトは嫌だ!」 「馬鹿言うな、これがなけりゃ楽しみが半減する、おめぇ、ピンチになったら喋り方が元に戻るな」 ナニは薬のせいで無情にも起立している。 テツは俺をまるごと無視して、ナニの根元にベルトを巻いてしまった。 「うー、鬼ぃ!」 「いいぞ、もっと罵れ、くっくっくっ、ラブホと違ってここにゃ道具が揃ってるからな、俺は無理におめぇを2階に連れて上がろうとは思ってなかった、けどよー、どういうつもりかしらねぇが、おめぇは敬語なんか使いやがる、こましゃくれた言い方が……いちいち鼻につくんだよ、だから仕置だ」 テツは俺の言葉遣いが気に入らねぇから、俺にこんな真似をしてると言ったが、それを聞いてふと思った。 そう言えば……三上の言ってた地下室もこんな感じなんだろうか? でもあっちは風俗として営業してる店だし、ここよりも本格的な作りになっているに違いない。 想像したらゾッとしたが、何気なくテツを見たら、いつの間にかまた怪しげな物体を手にしている。 「な、なんだよ……それは……」 ピンク色をした長い物体にコードがついているが、ボコボコとした奇妙な形は……見るからにそれ系の玩具だとわかる。 「アナルパールだ、しかも電動だぞ、さてと……、そんじゃいくか」 テツは説明したが、どんだけアダルトグッズを持ってるんだ? 俺は呆れ返っていたが、テツはその道具にローションをぶっかけている。 「ちょっ待っ、待って……!」 使用方法は聞かなくてもわかった。 だから焦ったんだが、テツはそれを俺の中にねじ込んできた。 「あっ、嘘……!」 既にスイッチを入れてある。 穴にハマり込む物体が、鈍い音を響かせて機械的な刺激を与えてくる。 「うわ、ちょっ、あっ、ああーっ!」 「どうよ、効くだろう」 テツは俺の横にやってきて上から顔を覗き込んで言ったが、玩具の突き出た箇所が急所に当たっている。 「くっ、んうぅぅぅ! やっ、やめっ、これダメ!ヤバイ!」 「よし、効いてるな、こっちも可愛がってやらねぇとな」 「あっ! やだ! やめろっ! ああ"! な、中が、ビリビリくる、テツ抜いて! ぬいてぇ!」 媚薬+玩具は無慈悲に快感を与えてくる。 「ほら、乳首にも媚薬を塗ってやったぜ、で、こいつもスイッチオンだ」 腹の中だけでも充分堪らないのに、テツは胸の小さな突起に媚薬を塗り、電動ローターを挟み付けた。 「ひっ! ひいっ! ダメ、ヤバイ! あっ、ああ最低! 馬鹿ぁ、あっ! あっ、あっ、イク、イク、ハァハァ、うー!」 最初にテツが言ったように、この拘束具は手足を少しだけ動かせる。 せめてナニのベルトだけでもとれないか、手を伸ばしてみたが、ギリギリの所で届かない。 「う、ハァハァ、ああぁ、やだぁ!」 体内の振動が前立腺を嬲り、縛られたナニが痛み、乳首から生じる刺激がトリプルで襲ってくる。 俺は快楽から逃れようと死に物狂いで藻掻いたが、拘束された体は身動きできない。 これは、ラブホで体験した快楽地獄を超えている。 知らぬ間に涙が滲みだしていたが、到底我慢出来るレベルではなかった。 「言葉遣いの事は謝る! 謝るから! だから玩具を抜いて! 苦しい、ああ、こんなのっ無理、マジで無理!」 「じゃ、敬語をやめるか?」 「やめっ……、やめる!」 強烈過ぎる責め苦の前に、俺の決意はあっさり砕け散っていた。 「よし、なら外してやる」 頭がクラクラする中で、テツはベルト以外の玩具と手足の拘束を外していった。 「う……」 急に体が楽になったが、まだ股間は苦しい状態だ。 惚けた気分でボーッとスポットライトに照らされる天井を眺めていると、玩具の代わりにテツ自身が俺の中に押し入ってきた。 「っはっ! あうっ!」 体内を蹂躙する淫らな衝撃に、反射的に体が仰け反った。 「おいコラ、白状しろ」 「ハァハァ、な、なにを……」 「とぼけるな、誰と寝た」 俺は頭が回らなかったが、テツは耳元で言って耳介を舐め回す。 「あっ、あぁっ、頭ん中に……」 まだ俺の浮気を疑ってるらしいが、舌が這い回る音が脳みそに響き、ヌルつく舌に背筋がぞくぞくする。 「なあおい、吐いちまいな、浮気したんだろ?」 「な事、言われ……ても……」 テツは耳を舐めながら腰を動かして聞いたが、口が裂けても言える筈がない。 「素直に言わねぇと、急所を虐め倒すぞ」 こればかりは何を言われても言うつもりはないが、縛られたナニがズキズキ疼き始めた。 「ハァハァ、あっ、くっ、勘弁して、無実だ、あっ、痛い……、いてぇ!」 「あーあ、赤黒くなっちまった、早いとこ外してやらねぇと、壊死すっぞ」 テツは恐ろしい事を言う。 「壊死……ちょっと、冗談はやめてくれ、なあ、頼む……! ベルトを外して!」 ナニが赤黒くなるとか、マジでやばい。 「外して欲しけりゃキスしろ」 ピンチなのに……まだ試練を与えてくる。 「くっ……、っの!」 テツは意地悪なドSだ。 この、クソッタレ! ド変態! 鬼、悪魔……変態ヤクザ……。 そう思いながら、頭を浮かせてキスをした。 ナニはズキズキしているのに、強弱をつけたキスに意識が奪われていく。 腹が立つのに……頭が逆上ていくのを止める事が出来ない。 逞しい背中を弄って自分から舌を絡め、顔が離れた時には、うっとりとした目でテツを見つめていた。 「はぁ……あ」 「ふっ、おめぇ、意地を張るわりにゃ、毎度あっさりやられちまうよな? ベルトは今とってやる」 テツは起き上がってベルトを外してくれたが、前の時とは違って直ぐにイク事はなく、痛みを感じた。 「うっ、痛っ……」 「ほら、外してやったぜ、まだイクなよ、トコロテンだ」 俺は本当にナニが壊死してないか心配になったが、テツは台の取っ手を握ると、俺の上にガバッと被さって大きく腰を揺らし始めた。 「う、待っ! う、ああっ……!」 テツが荒々しく動いたせいで、ナニが体液を勢いよく飛ばしていた。 「いきやがったか、よっしゃ、それじゃあ俺もイクぞ」 下腹がぎゅうっと締め付けられ、体がビクビク痙攣する。 そんな中で、テツは俺の上で激しく揺れ動く。 「う、あっ! あ"っ、あ"っ、あ"っ」 顔を照らすスポットライトに目が眩み、目の前がチカチカした。 喉の奥がカラカラに乾いて掠れた声で喘いでいると、耳元でくぐもった声が聞こえ、体内の竿が脈打つのを感じた。 「イクぞ、出すからな!」 テツは息を荒らげて竿を突き込んでくる。 「ハァハァ、あっ」 俺は性懲りも無く、最高に満たされた気持ちになっていた。 「テツ……、た、たまらねぇ」 昨日木下に失神させられたが、気持ちまで持っていかれるのはテツだけだ。 「そうか……本当に俺だけなんだな?」 「……本当だ」 確かめるように聞かれ、俺は嘘をついた。 「ま、信じてやるか」 テツは安心したように頷いて起き上がった。 「にしても、お前、腹壊さねーのか?」 俺は罪悪感でいっぱいになっていたが、テツは俺をさんざいたぶっておきながら、心配そうに聞いてくる。 「……あ、ああ」 「ふーん、腹を壊したのは最初だけか、つくづくヤル事に特化した体だな」 俺が答えると、また意地悪な事を言ってニヤリと笑う。 「ちょっと、違うから、特化してねーから」 起き上がって文句を言ったが、テツは俺から離れて床に散らばる服を拾い始めた。 「下へ降りるぞ、ビール飲みてぇ」 「いや、無視?」 「早く来い」 テツは俺を無視して拾った服を掴むと、真っ裸のまんま階段の方へ歩いて行く。 「あっ、もう、つーか、裸で降りんの?」 「別にいいだろ、誰も見てねーんだし」 「あ、ちょっと待って……」 俺は急いで台から降りて慌ててTシャツを拾い上げ、テツのあとを追いかけた。 洒落た鉄製の黒い階段を、真っ裸の男が2人で降りて行く。 まるで裸の猿みてぇだなって思った。 下へ降りたら、一緒にシャワーを浴びて服を着直し、並んでソファーに座った。 テツは冷蔵庫から出したビールを飲み始め、俺はテツの隣に座ってデザートを食べていた。 「おめぇも飲むか?」 「え、いい」 テツはビールを勧めてきたが、ほろ酔い気分でご機嫌な様子だ。 ショットバーで飲んでるわりには、たかがビールで酔っているように見える。 「飲んだ事ねーのか?」 「未成年だし」 「俺は未成年で飲んでたぞ」 「俺は普通の高校生、テツとは違う」 「真面目だな」 「ああ、真面目だ」 「けど、俺と寝た」 「それは無理矢理だし」 「今は違うよな?」 「さあ、どうかな~」 「こいつ……、ほら来な」 「わ……」 「へへーん、こっちぃ向け」 酔っ払ってるし、適当に受け流そうと思ったが、テツは軽くあしらえるような人間ではなかった。 「ちょっと……矢吹さん、ビールで酔ったんですか?」 「コラ、敬語使うなって、さっき言っただろう」 敬語が癖になってうっかり丁寧な言い方をしたら、テツは缶ビールをテーブルに置き、俺の肩に腕を回して乱暴に引き寄せる。 酒くせーし、なんか……うぜぇ。 「わかったから、ベタベタ絡むなよ、ビールくせぇ」 「うるせーな、コノヤロー……、チューしてやる」 酒臭い息が鼻につき、テツから離れようとしたら、酒臭さ全開でほっぺたにキスをしてきた。 「えっ、あっ……、ちょっ、何やって」 さっき2階であんな激しいプレイをした癖に、ほっぺたにチュー。 「黙れ、へへー」 こっちが恥ずかしくなったが、やっぱり酔ってるらしい。 両腕で思いっきり抱き締めてきて、ニヤニヤしながら頬や首に連続してチューしまくる。 「ちょっと、やめろよ、擽ってぇ、あははっ!」 テツが酔っ払ったら、こんな風になる事を初めて知ったが、髪や耳、鼻にまでチューされて、擽ったさと恥ずかしさで……居た堪れなくなってきた。 「もう何やってんだよ、この酔っ払いが」 キツめに言って体を押し返し、強引にテツから離れた。 「おめぇが素直に甘えねーからだ」 テツはひとことぼやいてビール缶を掴み、残った中身を一気に飲み干した。 「何言ってんだよ、俺はコンパニオンでもなけりゃ芸者でもねぇ、サービスして欲しけりゃ行きつけの店に行けばいいだろ」 「それだ、その憎まれ口……、ったくよー、抱いてるときゃさんざ欲しがる癖に、急にころっと変わって、まるで何事もなかったかのような面をする、だから意地でもモノにしてやるって、そう思っちまう」 テツは不満げに文句を言ったが、俺はわざとそうしてるわけじゃない。 しばし沈黙が続いた……。 テツは無言で3本目の缶を開けて口に運び、俺はそれを横目でこっそり見ていたが、目を逸らした途端、いきなり背中をバシッと叩かれた。 「うっ!」 「冗談だよ、辛気臭ぇ面ぁするな」 大きな手で力一杯叩かれたらたまったもんじゃない。 「いってぇ~、手加減しろよ」 背中がヒリヒリする。 「ま、夜までにゃまだゆっくりできる、おめぇと一晩中朝まで過ごしてぇが……、今はそうもいかねー、な、いずれチャンスがありゃ、そん時は付き合えよ、いいな?」 てっきり叩いた詫びでも言うかのと思ったら、マジな顔で俺の方を向いて聞いてくる。 テツと一晩中一緒に過ごすとか、そんな事は考えた事がなかったが……。 「あ、ああ……、うん、わかった」 機会があれば、一晩中一緒に過ごしてみたい。 「おめぇ、これ食いかけじゃねーか」 テツはふとテーブルに置いたケーキに目をとめた。 それはさっきテツがチューしまくった時に、俺が慌ててテーブルに置いたやつだが……嫌な予感がしてきた。 「まさか……」 「よし、食わせてやる」 案の定、また言い出した。 「またそれ? 俺もうやだよ」 「ほら、口開けな」 「いや、あの、本気で恥ずかしいし」 「誰が見てるんだ? 誰も見ちゃいねぇだろ、さっさと口を開けねーか」 テツはカップ入りのケーキを片手に持ち、スプーンで掬って口元に差し出してくる。 睨み付けられ、食べるしかなかった。 翔吾が成長して世話が出来なくなったから、もしかしたら……俺を身代わりにしてるのか? 食いかけだったので、全部食わせて貰うまでそんなに時間はかからなかったが、俺はなんとなくそんな事を考えていた。 テツは空になったカップとスプーンをテーブルに置くと、ビールを一気に飲み干してソファーに寝転がったが、片手を怠そうにあげて俺を手招きする。 「おいコラ、こっちへ来い」 「ん、ああ、うん……」 ソファーは狭いから横に並ぶってわけにはいかず、腕をついてテツの上にガバッと覆い被さった。 「ビールで酔うとはな、情けねー、ははは……」 俺が真上から見据えたら、テツは空笑いを浮かべて独り言のように呟き、あくびをした後で眠そうに目を閉じた。 もう……ゲイだとかバイだとか、そんなのはどうでもいい。 「テツ……寝たのか?」 初めて会った時、ヤクザだと思ってびびった。 今間近に見る男は、間違いなくあの時遭遇した脱輪ヤクザなのに……。 抱き締めたくてたまらなくなってくる。 体の下に片腕を滑り込ませてみたが、テツは無防備に寝顔を晒して寝息を立てている。 「俺はあんたに惚れてる……、と思う……多分、だけど……ごめん、なんとかしなきゃ……駄目だよな、このままじゃ……」 横たわる体を抱き締めて小声で言ったが、テツが目を覚ます事はなかった。
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