2one day

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2one day

◇◇◇ あれから、ちょくちょく翔吾の家に行くようになった。 大抵学校帰り。 俺は勉強なんか嫌いだから大学へは行かない。 親は今時大卒は普通だとか、それが当たり前とか色々言うが、目的もないのに無駄金使って四流大に行くのは馬鹿げてる。 だから塾も通ってないし、部活もなしだ。 翔吾も同じ考えだからウマが合う。 暇に任せて通った。 何度も訪問するうちに色んな事が分かってきた。 テツを始め、翔吾の家には5人の子分が住んでいた。 テツは組長に気に入られてるらしく、序列は幹部クラスより上になるし、乳母役なので座敷をひと部屋与えられている。 他の4人は年も若く、組の中では下っ端だ。 4人は大部屋に雑居して家事や雑用をこなしている。 詳しい事はよく分からないが、他にも幹部クラスが複数いるらしく、家から5分とかからない近くのマンションに住んでいて、家に泊まる事もしょっちゅうあるようだ。 それ以外の人間はどこに住んでるのか知らない。 兎に角、人の出入りは頻繁にあるし、テツ以外の子分と顔を合わせる事もあったが、深くは関わりたくないので、挨拶程度で話をする事はなかった。 そんなある日、翔吾とゲームをして遊んでいると、ドアをノックする音がした。 ヤクザにはもう慣れっこになっていたので、またテツが来たのかと思って、ゲームの画面を見続けていた。 「翔吾、入っていいか……?」 しかし、野太い声が翔吾を呼び捨てにしたのを聞き、まさかと思って一気に緊張感に包まれた。 「親父、なんの用……?」 「お友達が来てるんだろ?ここはひとつ、わしにも挨拶させてくれ」 「もう…」 思った通り、翔吾の親父さんだ。 翔吾は膨れっ面をしているが、俺は心臓がバクバクしてきた。 「お父さん?」 「そう、いいかな……? 別に畏まる必要ないから」 小声で聞いたら逆に聞き返され、内心ビビりまくっていたが……嫌だとは言えない。 「あ、うん……」 「いいよ、入って」 「そうか、邪魔するぞ」 狼狽えながらドアが開くのを凝視していると、黒い羽織袴姿の初老の男が現れた。 翔吾の父親にしてはやけに老けてるように見えるが、厳つい顔立ちに鋭い眼光は、如何にも親分といった風格を感じさせる。 「あ……あの、は、はじめまして」 俺はカチコチになりながら頭を下げた。 「おお、君が翔吾の」 「は、はい」 「そうか、いやー、今日はちょっとした集まりがあってこんな格好をしているが、普段家にいるときゃただの爺さんだ、はははっ、確か…友也君だったね?」 「はい」 「この子はな、わしがヤクザなんかやっとるせいで、肩身の狭い思いをしてきた、君のようないい友達に巡り会えて良かった、これからも仲良くしてやってくれ」 「はい」 「楽しくやってるとこを邪魔して悪かったな、遠慮はいらん、何か欲しい物があれば若いもんに言いつけたらいい、それじゃまた」 「はい」 親父さんが立ち去るまで、俺はガチガチに緊張しっぱなしだった。 「な、うちの父さん老けてるだろ……?」 「えっ?」 俺はまだ固まっていたが、翔吾に話しかけられてハッとした。 「親父だよ、僕は親父が40過ぎて出来た子なんだ」 「あ、ああ、そうなのか……?」 40過ぎなら、もう60前……? どおりで老けてる筈だ。 「そう、参観日とか、たまに来てたけど……微妙だよ、まあ僕の場合、老けてる事より、親父についてる連中が問題なんだけどね、親父の周りには誰も近寄らない」 「そっか、だけど参観日に来てくれるとか、いい親父さんじゃん」 「まぁね、有難いとは思ってる、ただ、普段来るのはテツだから、それもまた微妙だった……」 「テツが参観日……ぷっ」 「笑えるよね……」 「あ、ごめん、つい想像しちゃって」 「うん、友也なら笑われてもいい、こんな風に僕んちに来てくれるんだもん」 親父さんの話からテツの話になって、つい笑ってしまったが、翔吾は俺には想像できない苦労をしてきたようだ。 「若、邪魔してもいいですか?」 するとドアをノックする音がして、テツがドア越しに声をかけてきた。 「ああ、いいよ」 「おう、友也ー、来たか、へへへっ」 テツは直ぐに部屋に入って来ると、ニヤニヤしながら真っ直ぐにこっちにやって来る。 「あっ、ちょっと……」 背後に回り込まれ、嫌な予感をおぼえた。 「友好の証に、卍固めさせろ」 「いい、いらねー、そんな証、いらねーから……!」 「テツ、やめろって……!ふざけすぎだろ」 「すみません、こいつを見るとつい技をかけたくなるもんで」 「それ……どーゆー事……?意味わかんね」 俺は今ではすっかりテツと打ち解けていた。 テツはこの家に通うようになって暫くたった時、『お前は若の友達だから、お前には特別にテツと呼ばせてやる』と言った。 最初は遠慮していたが、テツはよく冗談を言ったりする。 徐々に親しくなり、自然と呼び捨てにするようになった。 それは別にいいんだけど、度を越した悪ふざけをしたり、ズゲズゲとものを言うようになっている。 「な、友也」 「ん……?」 「お前、姉ちゃんいるんだって?」 テツがマジな顔で話しかけてきたので、何かと思ったら……姉貴の事を言う。 「うん」 「年はいくつだ?」 「20歳」 「スタイルいいか? 胸はデカいか……?」 「ちょっと……なんなんだよ」 なんだか、またいやーな予感がしてきた。 「いいから、教えろ」 「知らねーよ、普通じゃね?」 「そうか、顔はお前と似てるのか……?」 「そりゃあ姉弟だし」 「紹介しろ」 ──思った通りだった。 「残念だったな、姉ちゃん、彼氏いるから」 「そんなもん、ただ付き合ってるだけで婚約してるわけじゃねぇだろ……?」 「ああ、うん」 「構わねー、紹介しろ」 「無茶言うなよ、無理に決まってるだろ、姉ちゃん彼氏にぞっこんなんだから」 「なもん、どうせその辺のガキだろ、俺と付き合や俺の方がよくなる、ふっ……、女を落とす自信ならいくらでもあるぜ、友也、お前もじきに社会にでるんだ、予備知識として、そこんとこを詳しく教えてやろうか?」 「いい、兎に角断る、姉ちゃんは駄目だ」 テツの感覚にはついていけない……。 「テツ、自分で探せばいいだろ」 「ケバい女は飽きた、素人がいい」 「じゃ素人を探せば?」 「俺は真面目に付き合いてぇ、だからよー、無理矢理やるとか、そういうの抜きで普通に出会いたいんだ」 話す事が、一般的な常識から相当外れてる。 「……イカレてるだろ」 ついボソッと呟いた。 「ん、今なんか言ったか……?」 姉貴の事は翔吾に聞いたんだろうが、俺が翔吾の家の事を理解したとしても、それとこれとは別だ。 姉ちゃんをヤクザに紹介するとか、無理に決まってる。
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