7move

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◇◇◇ テツに無理矢理あんな事をされて……その後3日間は腰が痛み、腹の具合がおかしかった。 局部自体は、意外とダメージが少なかったのが救いだ。 中に出したら腹を壊すとか、そんな予備知識は持ってないし、持ちたくもなかったが、身をもって知る羽目になった。 翔吾に対しては複雑な気持ちだったが、今になって再び謝るのは取って付けたようだし、テツは翔吾の事とは関係ないと言って姉ちゃんの事を出して脅してきた。 結局、俺は翔吾に対して何も言えずにいた。 テツは俺もゲイの仲間入りだと言ったが、それは違う。 確かにテツとそういう事をしたが、あれは無理矢理ヤラれたんだ。 俺は男が好きなわけじゃない。 それから数日経ったある日。 この日は祭日で学校が休みだったが、まだ眠ってる時にテツから電話が入った。 もち呼び出しだ。 行きたくねぇ。 だけど、もし姉ちゃんに何かあったら……。 いくらウザイ姉貴でも、俺のせいで危険な目に合わせるわけにはいかない。 指定された時間は午前10時だ。 姉ちゃんも母さんも仕事だから、気を使う必要はないが、家の前に迎えに来ると言われて断った。 どういうつもりなのか知らないが、テツはやたらと家に近づこうとする。 半袖Tシャツに黒のパンツ、パーカーを羽織って、部屋を出る前にちらっと鏡を覗いたら、伸びすぎた髪に寝癖がついていた。 翔吾と同じで、俺もツイストパーマをかけているが、髪が肩につく位伸びて外側に跳ねている。 あまりにもおかしいので、ゴムで後ろに束ねた。 待ち合わせ場所はこの前送って貰った場所にしたが、歩いてもそんなにかからない為、自転車は無しだ。 一応テツにも、歩いて出るという事は伝えてある。 そろそろ時間がきた為、家を出て細い脇道を抜けたら……いきなりレクサスが止まっていた。 俺がそこから来ると思っていたんだろうが、黒塗りのレクサスを見た瞬間、反射的に顔がひきつった。 「おう、来たか、乗れ」 テツは窓を開けると、乗るのが当然とばかりに言う。 乗りたくないが……乗るしかない。 助手席に乗り込むと、テツはすぐに車を出した。 「髪、括ったのか……?」 あんな事をされて顔を合わせづらく、窓の外を眺めていたら、髪の事を聞いてきた。 「ああ、伸びすぎて寝癖がついたから……」 「そうか」 そこで初めてテツの方へ向いて答えたが、テツはひとこと返して黙り込んだ。 俺はまた窓の外へ目を向けたが、ふと気になった。 「あの……」 声をかけづらかったが、もう一度テツを見て話しかけた。 「なんだ」 「まだこんな時間だけど、翔吾は……? テツは補佐だろ」 祭日なら翔吾も家に居る筈だ。 何故自由に動けるのか、疑問に思った。 「おお、若はデートだ」 すると、テツは予想だにしなかった事を口にする。 「デート……?」 「お前にフラれた後、わけぇもんの中で気に入った奴を見つけたらしい、夕べからそいつんとこに泊まりに行ってる、若にゃ2、3人護衛がついてるから心配ねー」 デートと聞いてまさか? と思ったが、やっぱり相手は男らしい。 しかも、テツは俺が翔吾をふったような言い方をしたが、物凄く複雑な気持ちになった。 俺は友達として付き合いたかったのに、翔吾は子分とデート……。 組の者とは付き合わないと言ってたのに。 いや、だけど……翔吾がそれで幸せなら、元友人として喜ぶべきだろう。 「そっか……相手が見つかって良かったな」 「ありゃ遊びだな、若は組のもんにゃ手を出さなかったが、おめぇとの事がよっぽどショックだったんだろう、憂さ晴らしだ、若が誘ったら誘われた奴は断れねーからな」 だが、憂さ晴らしだと聞いて……祝福する気持ちは一気に萎えた。 翔吾に気に入られた相手は、もしそっちのけがなくても、翔吾が若頭だから断れない。 これはパワハラか? それともセクハラか? どちらにしても、それも俺の責任でそうなったんだろうな。 「そうなんだ……」 気分が沈む……。 車中は静寂に包まれてしまったが、俺は窓の外の通り過ぎる人々に目をやり、とりとめのない事を考えていた。 そうする内に、車はどんどん進んで行く。 20分以上走っただろうか、テツはハンドルを大きく右に切って言った。 「友也、ちょっと事務所に寄る、お前は車ん中にいろ」 テツは事務所だと言ったが、間違いなく組事務所だろう。 「あ、うん……」 組事務所って怖いイメージしかないし、そんな場所には近づきたくない。 「逃げるなよ、もし逃げたりしたら承知しねぇからな」 緊張感に包まれていると、テツが脅してきた。 「分かってる……」 そういえば……今の俺にとっては、事務所よりもテツの方が脅威だった。 自分でも変だと思ったが、テツに脅されて緊張感が薄らいだ。 車は広い道路から狭い道に入り、やがて平屋建てのテナント様の建物の前にやって来た。 こじんまりとした店舗が4軒並んで入っているが、左端に不動産屋、その横はサラ金、更にその隣は……はっきりとは分からないが、風俗関連の事務所に見える。 テツが言った事務所というのは、右端じゃないか? と思った。 看板等は一切ないが、一見店舗風になっている。 その店舗のガラスには黒色のフィルムが貼ってあり、中の様子は全く見えない。 テツは事務所から離れた不動産屋の前に車を止めた。 「すぐ戻る」 「ああ、うん」 俺に言って車を降りると、予想通り右端に向かった。 テツがいなくなってひとりになり、暇に任せて目の前の不動産屋を見たが、ここもフィルムが貼ってある。 中はほとんど見えないが、ここのフィルムは幾何学模様の装飾されたやつだ。 内側にビラが貼り付けてあって邪魔だが、よ~く見たらフィルムの向こう側に応接セットが見えた。 壁際には大きな机があって、そこに男がひとり座っているように見えるが、もしかしたら、このテナントの店舗は……全部翔吾の親父さんの所有物なのかもしれない。 不動産屋の名前は霧島ではなかったが、男の風貌を確かめてみようと思って、前に身を乗り出して中を見ていると、不意に人の気配を感じた。 「ん……?」 いつの間にか、すぐ脇の窓越しに男が立っている。 男は車の中を覗き込んできたが、太陽光を浴びて光り輝く頭皮を目にした瞬間……ギョッとした。 翔吾の家で遭遇した坊主頭だ。 髪はスキンヘッド1歩手前の丸刈りで、年はテツよりやや上に見えるが、腫れぼったい顔に糸のような細い目をしていて、目付きがいやらしい。 坊主頭はかがみ込んで俺の顔をジロジロと見た。 「どっかで見た面だな、おお、そうだ、確か若のツレだ、こりゃ矢吹が乗ってきた車だ、おい、窓を開けろ」 俺は坊主頭が俺の事を思い出さない事を願ったが、残念ながら思い出してしまったらしい。 「おい、開けねーか」 坊主頭は偉そうに指図する。 エンジンはかけたままだし、仕方なく窓を開けた。 「おめぇ、矢吹の車に乗って何してるんだ?」 坊主頭は窓枠に手をかけ、顔を近づけて不躾に聞いてくる。 「ただ……ついてきただけです」 顔を逸らし、正面に向いて答えた。 「ついてきただけだと?」 坊主頭は疑うように顔を覗き込んで言う。 「はい」 俺はこの人の事をなんか好きになれない。 素っ気なく頷いた。 「ふーん、おめぇ、寝たのか? 矢吹と」 すると、突拍子もなく突っ込んだ事を聞いてくる。 「えっ? い、いいえ……」 動揺してつい目が泳いでしまったが、焦りながら否定した。 「へっ、奴に口止めされてるんだろ? 構わねー、正直に言ってみな」 俺はテツに脅されてはいるが、口止めされてるわけじゃない。 ただ、そんな事を安易に口にするのはおかしいと思うし、この男には言いたくなかった。 「本当になにもありません」 「ったくよー、あいつ、てめぇが狙ってやがったのか、だからムキになって俺を止めたんだな、で、おめぇ、矢吹とやっていくら貰った?」 なのに、坊主頭はさも俺がテツと寝たかのように言って、馬鹿な事を聞いてくる。 「いくらって……、テツ……、あ、いえ、矢吹さんとは、そんなんじゃないです」 「嘘をつくな、用もなしにおめぇのような若い男を連れ歩くもんか、な、俺は1回6万出す、どうだ? 俺に付き合え、売り専の売れっ子でもそんなには稼げねーぞ」 坊主頭はいくら否定してもテツとの事を決めつけて言い、前回同様また誘いをかけてきたが、売り専って言われても……一体なんの事なのか意味が分からない。 「すみません、俺には何を言ってるのか……」 「とぼけるのはいい、な、矢吹はいくら出したんだ? 俺はそれより上を出す、おめぇみてぇな素人でいい奴がいねーか探してたんだ」 しかし……坊主頭はしつこい。 「あの……俺は、本当にそんなんじゃ……」 「おい、三上!」 テツの声がしてハッとした。 声がした方を見たら、テツは車の前を通り過ぎて坊主頭の方へ歩いて行った。 「おう、矢吹、用は済んだのか?」 「ああ、それより……友也に何を話してた」 「んだよ、そんなムキになるこたぁねーだろ、こいつ暇そうにしてるからよ、ちょっと話をしてただけだ」 坊主頭はテツと向かい合って言ったが、適当な事を言ってはぐらかしている。 「じゃ、話は終わりだ」 「おいおい、やけに素っ気ねぇな」 「別にそんなつもりはねー、それより用があって来たんだろ? 早く行ったらどうだ?」 テツは坊主頭の事をよく思ってないのか、無愛想に言葉を返し、さっさと行くように促した。 「おお、わかったよ、じゃあな」 坊主頭は右端の事務所の方へ歩いて行ったが、それを見て安心した。 あんな男に目をつけられるのはごめんだ。 テツは車に乗り込んで来ると、車をバックさせてハンドルを切り、道路へ向かって車を走らせた。 段差を踏む衝撃がやんわりと伝わってきて、車はそのまま街の方へ向かって進んで行く。 どこへ行くのか聞きたかったが、聞こうかどうしようか迷っていると、テツの方が先に話しかけてきた。 「さっき、三上になにを言われた?」 「っと……、テツと寝たのかって……」 「それだけか?」 「他には……、売り専とか、テツはいくら出した? とか、自分は6万出すとか……そんな話をした」 俺は聞かれた事を正直に話した。 「あいつ……、おい友也、お前、金が欲しいか?」 そしたら、テツはいきなり金の事を聞いてきた。 「えっ、金って……」 「あれだ、売り専ってーのは、男娼だ、男娼というのは女でいや売春だ、体を売って金を貰う、お前が金が欲しいって言うなら、金を出してやる」 売り専の意味を知り、新たに無駄な知識が増えたが、体を売って金を貰うとか……冗談じゃねぇ。 「ちょっと待って、俺はそんな真似したくねー、嫌に決まってるだろ」 「そうか、良かった……、ああ、別に金が惜しいわけじゃねーからな」 テツは安心したように溜息をついたが、俺はそもそも……そういう事を望んでない。 「金とか、そんなの……有り得ねぇけど、俺は好きでここにいるわけじゃないからな」 「おお? ……ふっ、くっくっ……」 俺は真面目に言ってるのに、テツは一瞬呆気にとられたような顔をした後、肩を揺らして笑いを堪えている。 「なにが可笑しいんだよ」 なんか……ムカついた。 「おめぇ、カタギのガキの癖に気がつえーな、普通だったら……、あんな事されりゃ萎縮してなにも言えなくなっちまう」 テツは笑うのをやめて感心したように言ったが、そんな事を言うって事は、今までも似たような真似をしてきたんじゃないか? 「なあテツ、今までもこういう事……、つか俺にしたような事をしてきたのか?」 今日のテツは全然怖くねぇし、ハッキリ聞いてみた。 「さあな……、想像に任せるわ」 職柄から、無理強いしたりする事は絶対あると思ったが、テツは適当な事を言って俺の質問には答えなかった。 車はあっという間に街を通り過ぎて郊外へやって来た。 景色も田畑の割合が多くなったが、この前のマンションのような殺風景な景色ではない。 歩道と道路の境目には、手入れされた植木や花壇がある。 交通量はそんなにないが、広々とした田園風景の中に洒落た民家やマンションが点在している。 漠然と景色を眺めていたが、今はこの前とは違って穏やかな気持ちだ。 けど、ちょっと待て……。 どうせこの後、こないだと同じ目に合わされるだろう。 あの時は不安でいっぱいだったのに、何故今はこんなに落ち着いていられるんだ? きっと、テツが前のテツに戻ったからだと思うが、テツは俺が従ってるから優しくしてるんだろう。 それはわかっているが、妙にまったりとした気分になる。 早朝から電話で叩き起こされて……やたら眠くなってきた。 「ん、寝てるのか……? おい友也、飯どうする」 うつらうつらしていると、声をかけられた。 「んー、ああ……飯?」 車の時計を見たら、12時前だった。 「食いに行ってもいいが、俺の行きつけの店は街に戻らなきゃならねぇ、三上の事でイラついて、ついこっちに来ちまったが……、な、お前……普段はファミレスとかに行ってるのか?」 「いや、腹が減ったらコンビニ、家族でファミレスに行ったのはまだ小さい時だけだ、母さんも仕事してるし、父さんは仕事で遅く帰るから疲れてる、大体、この年になって家族でファミレスとか行きたくねーよ」 「そうか……、コンビニねー、じゃ、それでいいか?」 「おごってくれるなら、なんでもいい」 「ふっ、現金な奴だな~」 食料はコンビニで調達する事になったが、テツがどこで食べるつもりなのか謎だ。 まぁでも、とりあえずそれは考えないようにして、ひとまず近くにあったコンビニに寄る事になった。 俺が適当に買ってくると言ったら、テツは2万も出して好きな物を買って来いと言う。 好き放題買えるチャンスは……そう滅多にない。 遠慮なく山ほど買い込んで車に戻ってきたら、テツは呆れた顔をして言った。 「お前、買いすぎだろ」 「2万も渡すからこうなるんだ、はい、お釣り」 買いすぎたのをテツのせいにしてお釣りを差し出した。 「ポケットへしまえ」 テツは俺にくれると言うが、お釣りは1万円以上残っている。 山ほど買ってもコンビニでは限界があったからだが、さっきの三上って奴の事もあるし、釣り銭を貰うのはなんか躊躇してしまう。 「いい、金を貰うのは嫌だ」 「そうか……、じゃ、受け取るわ」 テツは最初に出会った時のように、無理矢理金を握らせるような事はしなかった。 コンビニを離れたら、さっきと同じように街とは逆方向に進んだ。 10分位走ったところで道路を横切って右に曲がり、急な坂道を上がって行った。 やがて小高い開けた場所に出たが、そこで小洒落たアパートが見えてきた。 テツはそのアパートの駐車場に車を止めたが、周りには民家はなく、赤いレンガ造りの三階建ての建物がひっそりと建っている。 「ここは?」 「俺の家だ」 この前のマンションは賃貸で使っているというより、組が所有してる物件のように思えたが、テツはこのアパートを自分の家だと言った。 だけど、おかしい。 「翔吾の屋敷に住んでるんじゃないのか?」 「普段はそうだが、用途に応じてあちこちねぐらがある、こないだお前を連れ込んだマンションは監禁用だ」 あちこちねぐらがある? テツの説明ではいまひとつ意味が分からなかった。 どーゆう事? って思ったが、あの殺風景なマンションについては納得できる。 「もしかして……あの古びたマンションは……騒いだりしてもバレないからとか?」 「おう、そうだ、おめぇはヤバい秘密を知っちまったな」 どう考えても、あれは犯罪が絡んでそうなマンションだったが、そんな裏事情は知りたくなかった。 「じゃ、言うなよ、そんな話、聞きたくねぇし」 「あははっ!」 テツは楽しげにゲラゲラ笑い飛ばす。 「よし、着いたぞ、降りろ」 俺がビビるのが面白いんだろうが、そうする間にアパートの真ん前にやって来ていた。
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