9trust

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◇◇◇ ドライイキ……。 前立腺を刺激したらああなるらしいが、テツが言うには俺は才能あるらしい。 全然嬉しくねーし、むしろ悲しいが、今回は腹を下さなかった事が救いだ。 それから、手首についた痣を姉貴に指摘されたが、学校でイベントの準備を手伝った時についたって言ったら、姉貴は『両手首についてるのはおかしい』と言った。 姉ちゃんがしつこいのは定番だ。 面倒だから下手に言い訳せずに無視したら、諦めて立ち去った。 ………………………… あれから2日経ったが、テツからの連絡はない。 ホッとするような、何か物足りないような……。 いやでも、物足りないって感じるのはおかしいだろう。 どうせ会ったらまたヤラれるんだし、まるで期待してるみたいじゃないか。 違う、そんな事を期待するなんて、絶対ない。 それにしても、週の真ん中辺りはいつも憂鬱だ。 就職組の俺には担任も興味がないらしい。 今どき高卒で就職する奴は、先生も目をかける事すらしてくれないが、俺はその方が気楽だ。 休み時間、机に突っ伏して寝ていた。 「友也」 「んー」 寝ぼけ眼で顔を横に向けたら、おねぇ予備軍が現れた。 この学年には、陰でおねぇ予備軍と噂される連中が生息している。 声をかけてきたのは2年の時に同じクラスだった堀江健太という奴だ。 今は別のクラスだし、元々挨拶を交わす程度で個人的な付き合いはない。 「なんか用?」 「あのー、俺もー就職組なんだ」 「ふーん」 「ね、就職先、もう決まった?」 無愛想に答えたのに、やけに親しげに話しかけてくる。 「いんやー、そんなに早く決まるわけねーし」 面倒になってもう1回机に突っ伏して答えた。 「あっ、そうだ、この前の祭日の時ー、町外れのコンビニに居たでしょ?」 だが、コンビニの話を聞いてギクッとした。 「えっ……、いや、人違いだろ」 「黒いレクサス、無精髭のカッコイイお兄さん、黒服だったからー、あれってもしかしてヤクザ屋さん?」 やべぇ、しっかり見られてる。 「知らねー、記憶にねー」 姉ちゃんにも見られた事もあるが、よりによってまたか?……運が悪い。 兎に角、とぼけるしかねー。 「友也、沢山買ってたね、俺、少し離れた場所に居たんだけど、見間違いじゃないよ、パーカーに黒のパンツ、髪を括ってた、でしょ?」 細かいところまで見られてしまったようだが、だとしてもこいつには関係ねぇし、なんかイラッときた。 「だからさ、何が言いたいわけ?」 「ね、俺さー、彼氏いるんだー、あの時俺もデート中、で、車の中に居たんだけど、ひょっとして……、あれ、彼氏じゃないかなーって、ぴんときちゃった」 ぴんときたとか……さすがはおねぇ予備軍。 だがしかし、俺を一緒にするな。 「あのさー、もし俺がそういうのと一緒にいたとしても、彼氏とかそういう発想やめてくれる?」 「だけどー、俺の彼氏は言ってたよ、友也が一緒にいた人、あいつはバイだって」 テツの事をあいつ呼ばわりするって事は、ひょっとして同業者かもしれない。 「なにそれ? じゃあ、堀江、お前の彼氏って、ヤバイ系なわけ?」 「うん、まぁね」 やっぱりそうらしい……。 こうなりゃ、最後までとぼけ倒してやる。 「兎に角、知らねーもんは知らねー、忘れろ」 「それならいいけどー、俺の彼氏が、あいつにはいずれ借りを返してやるとか、なんかヤバそうな事を言ってたんでー、ちょっと気になったんだ、違うなら……別にいっか、それじゃ」 ところが、堀江は気になる事を言って立ち去ろうとする。 「え……、あっ、ちょっと」 堀江を呼び止めてそいつの名前を聞こうと思ったが……。 「なに?」 「い、いや、なんでもない……、引き止めてわりぃ」 そんな事を聞いたら、テツとコンビニに居た事を認めた事になるんじゃないか? 俺は今翔吾と話をしなくなってるが、だからと言って、テツとの事を翔吾に知られたくない。 クラスは違うとは言っても、堀江は付き合いのない俺んとこにやって来て、いきなり名前を呼んで話しかけてきた位だ。 翔吾は今の所おねぇ予備軍とは関わってないが、何かのきっかけで翔吾に余計な事を吹き込む可能性がある。 堀江が黙って立ち去るのを見送った。 けれど、借りを返す? 堀江の彼氏が言った事が気になる。 この事は一応テツに話した方がいいだろう。 早い方がいいと思い、学校が終わって直ぐにテツに電話したら、今出先だから帰りに寄ると言った。 テツと会う事になり、19時にあの場所で……って事になった。 母さんはまだ帰ってないから、姉貴に言わなきゃならない。 もう時間がないので素早く着替えを済ませて、姉貴の部屋をノックした。 「なあ、姉ちゃん、いる?」 「んー、なに?」 姉貴は怠そうに返事をする。 顔を合わせると面倒なので、ドア越しに要件だけ手短に伝えようと思った。 「俺、ちょっと出かけてくるから、母さんに言っといて」 「え、今から……? ちょっと待ちなさい」 姉貴は驚いたように言って、こっちに向かってくる足音が聞こえた。 あーあ、面倒だな……。 うんざりしていると、ドアが開いて姉貴が目の前に登場した。 姉ちゃんが何か言う前に先に言った方がいい。 「あのさ、友達と話があるんだ、直ぐに戻る」 「友也、あんたまだ高校生なのよ、母さんが甘いからって、羽伸ばしすぎじゃない?」 「いいだろ、義務教育は中学までなんだからな、18って言ったらもうガキじゃねーし、色々と込み入った話があるんだ」 「なに言ってるの、母さんは……本当はあんたを大学に行かせたいと思ってるんだから、実際、高卒じゃろくな仕事がないわよ、あたしですら短大出てるのに、男のあんたが高卒じゃ、将来が心配になるに決まってるでしょ」 「俺の人生だから別にいいじゃん」 「男は結婚して家族を養わなきゃならないんだから、安月給じゃ誰も結婚してくれないわよ」 「じゃ独身でいい、姉ちゃんみてぇな女に引っかかったら、それこそお先真っ暗だからな」 「なによ、生意気な」 「兎に角行くから、母さんに宜しく」 「あ、友也! もう……むかつくー」 これ以上話しても拉致があかないし、踵を返して階段をおりていったが、姉貴のせいで19時をすぎてしまった。 走って待ち合わせ場所に行ったら、白いプリウスが止まっている。 見た事がない車に戸惑って、少し離れた所で様子をうかがっていた。 すると窓が開き、テツが助手席側に身を乗り出して声をかけてきた。 「乗れ」 人違いだったら嫌だな~と思ってたんで、テツの顔を見てほっとした。 助手席に座ったら、車は滑るように走り出す。 「プリウスも乗るんだ」 「ああ、スズキの軽四もあるぞ」 「へえ、テツは愛車とかないの?」 「ねーな、車は親父んとこのやつを使わせて貰ってるが、足に過ぎねー」 「ふーん、で、どこに向かってるの?」 「このままラブホで決まりだな」 「えっ、ラブホ……マジで?」 「そりゃそうだ、嫌とは言わせねーぞ」 「分かってるよ……」 翔吾んちの車庫はちらっと見た事がある。 広いガレージに何台も車が止まってたが、入れ替わりが激しいし、いちいち気にしてなかった。 プリウスに乗るとは思わなかったから意外に感じたが、ラブホに直行すると聞いて……車の事など吹き飛んだ。 俺はラブホなんか行った事がない。 夜だし俺は髪が長いから、もし監視カメラに映っても、多分男だという事はバレないだろう。 そう思って腹を括ったが、いざラブホのゲートを潜ったらビビってしまい、咄嗟に前にかがみ込んでいた。 いよいよラブホ初体験だ……。 俺の頭ん中じゃ、初体験は女の子の予定だったのに……相手はテツ。 頭を抱え込んで背中を丸めていた。 「おい、なにしてる」 どうやら駐車場に止まったようだ。 恐る恐る体を起こして周りを見回した。 ガレージみたいになっていて、テツはバックで車を止めていたが、車の前以外は壁に囲まれている。 「ふーん、こんな風になってるんだ」 「おお、そういや初めてだよな? 珍しいか?」 「うん……」 「ま、兎に角降りろ」 周りが見えないので安堵しながら車を降りたら、テツは車をロックして車の前に何か看板のような物を置く。 「それなに?」 「ナンバーを隠す為だ」 「ふーん……」 看板の意味を知ってちょい疑問に思った。 こういう所を利用する人は訳ありとか、不倫だったりするんだろうか……。 「ほら、来い」 「ん、ああ……」 促されてテツの方へ行ったらドアがあり、ドアの横に部屋の写真が貼ってある。 「ふーん、写真があるんだ」 何もかもが新鮮でつい写真に見入っていた。 「早く来い」 「わ、わかった」 腕を掴まれてドアの中に放り込まれたが、入ったら目の前に狭い階段がある。 「狭い階段だな、ひとりしか通れねー、ここ上がるの?」 「そうだ」 テツの後から階段を上がったら、またドアがあった。 「ん、またドアだ、へえー、ドアが2つあって、で、ここが部屋?」 「お前……、そんなにおもしれーか?」 テツは振り返って呆れ顔で言ったが、どうやらそこが部屋で正解らしい。 部屋の中を早く見てみたかったが……あくまでも相手はテツだ。 諸手を挙げてはしゃぐ気持ちにはなれない。 テツの後に続いて大人しく中に入った。 靴を脱いで部屋に上がったら、手前にソファーとテーブルがある。 テーブルの上にはメニューらしき物が置いてあるが、左側にはデカいベッドがどーんと陣取っている。 「へえ、意外と普通? けど、ベッドメインってとこはやっぱ普通じゃねーな」 壁の色は白だし、部屋の雰囲気は普通の部屋に見えたが、ベッドを見たら如何にもラブホって感じがした。 ベッドの足元へ目をやれば、デカいテレビが置いてある。 テレビを置いてある棚はベッドよりやや背が高く、やたら横に長いが、テレビ以外にも何かありそうだ。 確かめなきゃ気が済まない。 テレビの方に歩いて行ったら、テレビボードの右側に小さな冷蔵庫が置いてあった。 「ん? 冷蔵庫」 その上にはレンジまである。 「へえ、レンジまであるんだ、これって泊まる為かな?」 独り言を言いながら夢中で見ていたら、いきなり背中から抱きつかれた。 「うわっ! ビックリしたー、急にくるからビビるじゃん」 「友也」 「ん?どうかした……?」 なんだかいつもと雰囲気が違う。 「たまにはよー、気を抜きてぇ時もある、お前とこうしてると……気が楽になる」 肩越しに真面目な顔で言われたら、なんだか妙にドキドキしてきた。 ──有り得ない。 テツを相手にときめくとか、そんな事になったら……やばい。 きっとラブホマジックだ。 薄暗い部屋にムードたっぷりなスポットライト。 ここはそういう目的の為に使用する空間だから、このいかがわしい雰囲気にあてられたんだ。 「へえ……、俺、なんにもしてねーのに、こんな俺でも役に立ってるんだ」 「こっちぃ向け」 冗談めかして誤魔化そうとしたが、強制的に後ろに向かされた。 「あ……の……」 テツは片手で俺の腕を掴み、反対側で背中を抱き締めてくる。 いつもなら意地悪な事を言う筈だが、真面目腐った顔で見つめている。 ネクタイ無しなはだけた胸元に、伸びてウルフヘアになった頭。 堀江は無精髭のカッコイイお兄さんと言ったが、確かに無精髭がよく似合ってる。 その上で黒服に鋭い眼光……。 和風なヤクザというより、イタリアンなマフィアの方がしっくりくる。 ごく自然にカッコイイと思った。 顔が近づいてきても、魅入られたように動けなくなっていたが、俺はまだ正気を失ってはいない。 ハッと我に返り、肝心な事を思い出した。 「あっ! あのさー! 今日電話したのはちょっと気になる事があって、その事で話がしたかったんだ」 「ちっ、あとちょっとだったのによ、ムードを壊すな」 すると、テツは舌打ちしてボソッと呟いた。 「それって……どういう事?」 「今、俺にクラっときてただろ」 今の行動……狙ってやった? 俺はうっかりテツのマジな顔を見てときめいてしまったが……。 くそー、絶対ガキだと思ってなめてる。 俺だって、たかがラブホくらいで負けてたまるか。 「き、きてねーし! 俺はノーマルだ、そんなのあるわけねーし」 「まぁいい、で、話ってなんだ?」 意地になって言ったが、テツは淡々と聞き返し、それ以上突っ込んでくる事はなかった。 とにかく、肝心な事を話さなきゃならない。 「ああ、うん……、それなんだけど、こないだテツの家に行った時、コンビニ寄ったじゃん、そん時に同級の奴に見られてたんだ」 「別に構わねーだろ」 「いや、そいつ、そん時彼氏といたらしくって、車ん中から俺らの事を見てたらしい」 「同級って、女か?」 「いや、男だ、そいつおねぇみたいな奴だからそれで男と……、ってそれは置いといて、それがその彼氏というのが、どうやらテツと同業みたいなんだ、テツに対して借りを返してやるとか、そんな事を言ったって言うから、ちょっと気になって……」 俺はざっくりと説明した。 「その借りを返すって言った、そいつの名前は?」 テツもやっぱり気になるのか、名前を聞いてきた。 「悪い、そこまでは聞けなかった、俺、あんたとの事を翔吾に知られたくねー、だからあんたと会った事を言わなかった、だってさ、翔吾には……そういう付き合いはできねーって断ったんだ、それであんたとこんな風に会ってるとか、もし翔吾が知ったら……いい顔するわけがねーし、あんただって翔吾にずっとついてるから、やっぱバレたら嫌だろ?」 俺は名前を聞けなかった訳を話したが、そのついでに、テツは俺にこんな真似をして……翔吾に対してどう思ってるのか気になった。 「そりゃ、まあな……」 テツは曖昧な返事を返してベッドに座ったが、俺は翔吾がその後どうなったか、それも気になってきた。 「翔吾はまだ若い奴と付き合ってるのか?」 自分勝手な話だとわかってはいたが、テツとこうなってしまった以上、翔吾がこないだデートした相手と上手くいってたらいいなって思った。 「ああ、ありゃ別れた、今は別の奴だ」 「そっか……」 だが、期待はあっさり消え去った。 やっぱり翔吾にとってはただの憂さ晴らしか……。 「若は俺には言わなくなったが……、未だにお前との事を引きずってる、組の連中は腹ん中で何を思ってようが、表向き若には諂うからな、だがお前は違った、自分の考えを伝えた上で若と向き合おうとした、俺はお前をあのマンションに連れ込んだ時に、おめぇが若に同情した事を責めたが、あの時はちょいと昂ってたからな、わりぃ、言いすぎたわ、俺もな、正直言うと……若が今どんな気持ちでいるのか、そこまでは分からねー」 テツは翔吾について話し、俺にひとこと詫びたが、いくら翔吾の乳母役でも、わからない事はあるらしい。 ただ、テツが翔吾の事を誰よりも気遣ってるのは分かる。 だったら、今こうして俺とラブホなんかに来て、心が痛まないんだろうか? 「テツって翔吾の事をすげー心配してるじゃん、なのに俺とこんな事をして……罪悪感とかないわけ?」 「うるせぇな、大人には大人の事情ってもんがあるんだ、ガキは黙ってな」 テツはあからさまに不機嫌そうな顔をして、突っぱねるように言った。 なんだか分からないが怒らせたら面倒だし、これ以上深く追求するのはやめにした。 それよりも、やっぱ堀江が言った事が引っかかる。 「ったく、すぐガキ扱いする……、というか、さっきの話に戻すけど、テツ大丈夫なのか? ひょっとして……命を狙われてるとか、そんなんじゃねーよな?」 「映画じゃあるまいし、な事あるかよ」 「じゃあ、ほんとに大丈夫なのか?」 「へへー、そんなに俺の事が心配か?」 何かヤバい事になるんじゃないかって、本気で心配してるのに……テツはニヤついた顔をして聞いてくる。 「いや、そういう意味じゃなくて、俺はあんたの事を人としては嫌いじゃない、心配するのは当たり前じゃん」 「嫌いじゃねーって事は、好きって事だよな?」 「ラブじゃねーからな、ライクだ、ライク!」 「わかったわかった、そうやってムキになるとこがガキなんだよ、ちょっとおちょくっただけだ、お前はどのみち抗えねーからな、くっくっ」 「う、なんだよそれ、やっぱ……最低」 ……ほんと悔しい。 悔しいけど、テツは年上で経験豊富なヤクザだ。 俺には勝ち目がない。 但し、やたらガキ扱いされるのは腹が立つ。 「こっちに来い」 俺はなんか納得がいかなかったが、テツは当たり前のように俺を呼ぶ。 「くっ……」 行きたくない。 「おお、そういや……親父にゃ上手く言っといたが、親父、随分残念そうにしてたな~、諦めきれねーって面をしてた」 けど、親父さんの話を聞いて焦った。 「わ、分かった! 行く、行けばいいんだろ」 親父さんにはテツから言って貰わなきゃならない。 「心配いらねぇよ、親父の事は俺に任せろ、お前はただ俺に従ってりゃいいだけだ、おとなしくしてりゃ手荒な真似はしねぇ」 ヤケクソでテツの横に座ったら、テツは俺の肩を抱いて言い聞かせるように言った。 確かに親父さんの事はテツに頼めば安心だが、肩を抱かれた事で、俺の意識はそこより先に進んでいた。 このままテツとやって、またあんな風に感じるのかと思ったら……不安でいっぱいになる。 「そりゃあ……分かってる、けど、俺こないだあんたとやった時、あんな風になったし……」 あの時頭を撫でられ、つい流されてテツの背中を抱いていたが、ドライイキとか……あんな状態になる自分自身が怖かった。 「こないだの事か?」 「2回目であんなに感じるとか……、俺、やっぱりおかしいのかな?」 「感じるかどうか、そりゃ個人差があるって言っただろ? だめな奴はいくら頑張ったとこで駄目で、その反対に初めから感じる奴もいる」 「じゃあ、俺は生まれつきいけるって事? じゃあ、生まれつきゲイって事なのか?」 「違う、そうじゃねー、あのな、人間ってやつぁ顔も容姿もみな違う、それと同じ事だ、個性だよ、それにな、アナルをやるのは何もゲイだけとは限らねー、女でもやる奴はいる」 「えっ、そうなのか?」 「ああ、男女間でもそういうのが好きな奴もいるからな、まぁそっちは下準備が面倒だが、女の場合、孕む心配がねーからな、好きな奴は好んでやる」 「へえ、テツ、めちゃくちゃ詳しいんだな」 「お前……、そんな事で感心されてもなー、ま、俺はバイだから嫌でも詳しくなるんだがな」 「じゃあ、俺は異常じゃないんだな?」 「お前はたまたまそういう体質だっただけだ、アナルじゃなくてもどこが感じるとか、ひとりひとり皆違うだろ? そんな事気にするな」 「そっか……、わかった」 「で、その事だが、今日は時間がねーからそっちは無しだ」 ひと通り話を聞いて、俺は異常じゃないんだと思って安心したが、テツは俺の肩を叩いて意外な事を言う。 そっちが無しなのは俺にとっては良かったが、それなら何故ラブホに来たんだ? 「じゃ、なにしにこんな所に入ったわけ?」 「フェラを教えてやる」 「えっ、フェラ……」 テツはさらっと言ったが、俺はまた冷や汗が出てきた。 それはそれで……初心者には難易度が高すぎる。 「おおそうだ、ちょっと待て」 そんなのヤレる自信がなかったが、テツは立ち上がってテレビの前にあるリモコンを手に取った。 「ん? テレビ……?」 俺の横に座り直してテレビをONにしたが、デカい画面いっぱいに卑猥な映像が映り、女の喘ぎ声が部屋中に響いた。 「うわっ……、ちょっと……なにこれ」 静かだった部屋が、突如いかがわしい空気に毒された。 「ラブホにゃつきもんだ、じきにおっぱじめるだろ、これをみて参考にしろ」 「参考……って」 たまにこっそりそういう動画を見たりするが、家ではいつなん時姉貴の襲撃を受けるかわからない。 こんなに大きな画面で堂々とみるのは初めてだ。 テツが隣にいるが、つい画面に目がクギ付けになっていた。 「へっ、おもしれーか?」 すると、いきなり股間を触られた。 「わっ、なにすんだ!」 びっくりして咄嗟にテツの手を退かしたが、テツはニヤついた顔をしている。 「へへっ、さすがに反応がはえーな、お前の年位が1番やりてー時だからな」 「いきなり触るなよ……」 テツとはあんな恥ずかしい事までして、今更……っていう気持ちもあったが、AVをみて勃ってるのを知られるのは別の意味で恥ずかしい。 「ほら、始まったぜ」 俯いて股間を隠すように手を置いてると、テツは促すように声をかけてきた。 「ん?」 「ああやるんだ、わかるか?」 画面には女がナニを咥える様子がどーんと派手に映っている。 ナニにはぼかしが入っているが、女は片手で竿を握り、大胆に竿を頬張って頭を上下させる。 「い、いや、何となくわかるけど……、あれを……俺がやるのか?」 同じようにやれと言われても、目の前の映像と自分は別物だし、大体、相手はテツなんだから抵抗あるに決まってる。 「よし、やる前にシャワー浴びるぞ」 やれる気がしなかったが……やるしかないようだ。 指図に従って浴室へ向かった。 互いに裸になって浴室に入ったら、テツはシャワーヘッドを握って湯を出し、シャワーを浴び始めた。 フェラするのは嫌だったが、好奇心が先に立って浴室内を見回した。 シャワーのカランの下にシャンプー、リンス、ボディソープが置いてあり、特に変わった物は見られないが、浴槽はジャグジーが付いてるらしい。 壁には大きなバスマットのような物が立てかけてあるが、風呂にバスマットがあるのは普通に思えた。 だが、何気なく椅子に目を向けたら、真ん中が凹んだ変わった形をしている。 早速しゃがみこんで観察をした。 「なんだこりゃ? 変な形」 「そりゃ、スケベ椅子だ」 「え、なにそれ?」 「そこに座って、その窪みから手を入れるんだよ」 「ふーん、そっか……、椅子はラブホ仕様なんだな」 「そこのマットも、ありゃただ敷くためじゃねぇ、布団代わりだ」 「そうなんだ、俺、普通に敷くのかと思った、へえー、色々工夫してあるんだな」 テツは色々と説明してくれたが、そうこうするうちに体を流し終えたようだ。 片手にシャワーヘッドを握り、俺の方に向き直った。 「俺が洗ってやる」 俺はいよいよフェラさせられるかと思って気が気じゃなかったが、テツは言ったそばからシャワーを一旦フックに戻し、俺の体をボディソープで洗い始めた。 「いいよ、自分でやるから」 いいって言ってるのに、テツは黙々と慣れた手つきで体を洗っていく。 「シャンプーしてやるわ、椅子に座れ」 俺はなんか悪いような気がしていたが、それが終わったら、今度は頭を洗ってやると言ってきた。 「えっ、シャンプー? いや、そんな事して貰ったら悪いし、いいって」 誰かに頭を洗って貰うとか、そんな事をして貰ったのは小さな子供の時だ。 しかも、いくらタメ口で話せる位馴染んでいるとは言っても、テツは霧島組の中では幹部クラスより上の立場にいる人間だ。 そんな事をして貰うのはさすがに気が引けた。 「いいから、やらせろ」 だが、強制的に椅子に座らされてしまった。 「頭ぁ下げてろ」 なんだか変な気持ちだったが、言われるままに頭を下げた。 テツはシャワーの湯を頭に浴びせ、髪を濡らした後でシャンプーを頭に塗りたくり、両手で頭をゴシゴシ洗い始める。 目にシャンプーが入りそうだったので目を閉じていたが、これも体とおんなじで慣れた手つきで髪を洗っていった。 洗い終わったら、シャワーヘッドを握って泡を流していく。 俺は床に流れ落ちる泡を見ながら、翔吾の家で初めてテツに会った日の事を思い出していた。 テツは翔吾に部屋から出て行くように言われ、翔吾に向かって、一緒に風呂に入ったとか……さも世話を焼いてきたような事を言っていたが、今俺の頭を洗うように、翔吾の頭を洗っていたに違いない。 頭をすすぎ終えたら、浴室の扉を開けて片足だけ外に出して棚からタオルを取り、タオルで俺の頭をゴシゴシ拭いてくれた。 拉致られた時は、やっぱりヤクザだと思ってビビったが、今はこんな風に世話を焼いてくれる。 テツって二重人格なのか? と思ったが、どちらにしても、こんな事をして貰ったら申し訳ない気持ちになる。 妙に照れくさかったが、立ち上がって振り返り、お礼を言った。 「あの、ありがとう、もういいよ、後はほっときゃ乾くし」 だけどテツは、片手にタオルを握ったままマジな顔をして俺を見る。 「ん、どうかした?」 鋭い眼光でじっと見つめられ、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。 テツはフリーズする俺をいきなり抱き締めてきた。 「わ……」 ちょいビックリした。 濡れた肌が密着したが、今の俺は抗う気持ちにはなれなかった。 テツはタオルを床に放り投げて顔を近づけてきたが、俺は自分から目を閉じてキスを受け入れた。 シャワーヘッドは足元に置きっぱなしにされ、軽快な音を立てて湯気を立ち上らせている。 足元に感じる熱気が気分を昂らせ、脈が早くなるのがわかった。 逞しい腕で背中を強く抱かれ、俺の頭は麻痺したように思考が停止していた。 「友也……やってくれるか?」 耳元で低いドスの利いた声が響き、手を掴まれて熱い塊を握らされた。 反り立つ竿が待ち侘びたようにビクリと跳ね、俺は自らテツの前に跪いていた。 じっくり見るのはこれが初めてだったが、槍の切っ先のように形良く張り出した先端に、太刀のように反り返った竿。 思わずすげーって羨望の眼差しを向けていたが、俺はやるぞ! って自分に言い聞かせ、竿を握って舌で先端を舐めてみた。 舌をあてたら竿がビクッと震え、テツの手が頭に触れてきた。 何か指図されると思って上目遣いでテツを見上げたが、テツは何も言わずに頭を撫でてくる。 怖い顔ではなく、穏やかな表情をしていた。 それを見たら緊張感や嫌悪感が薄らぎ、先端を舐め回していった。 舐める度に竿はビクつき、段々硬くなっていくのがわかる。 我慢汁が溢れ出し、口の中はヌルヌルになっていったが、俺はさっき観たAVを思い浮かべながら、竿を口に頬張って頭を揺らした。 歯が当たらないように気を使いながらやっていると、ぬるついた汁と唾液が一緒くたになって口の中に溜まってきたが、ナニは硬さを増してビクついている。 もうちょっと頑張れば……多分イカせる事が出来る。 口に溜まった唾液を思い切って一気に飲み込み、ひたすら頭を揺らしていると、テツが俺の頭をぎゅっと押さえつけてきた。 「おい出るぞ……、口から出せ」 テツの言葉を聞いて慌てて口から出したが、出した途端に白い液体が飛び散って顔にかかった。 「うわっ……!」 「ぷっ……、顔射……くっくっ……」 驚いて後ろに倒れそうになったら、テツはボソッと呟いて必死に笑いを堪えている。 何が可笑しいのか気になったが、青臭い匂いが鼻についてそれどころじゃなかった。 「う……、シャワー!」 焦るようにシャワーヘッドを拾い上げて顔を洗い流した。 「はあ……」 顔を流してすっきりしたら、イかせたんだという達成感を感じたが……ふと我に返った。 ──俺は、たった今フェラをした。 やっちまった。 またこれでゲイの仲間入りになってしまう。 現実を思い知ってガックリきた。 「ヤバい……、どんどん深みにハマってく……」 「おい、なに打ち拉がれてんだ?」 テツは能天気に声をかけてきたが、俺はイラッときた。 「テツ、あんたのせいだ……!」 「ああ"? なにがだ」 つい怒鳴ったが……。 この現状から逃れる事は出来ないし、そもそも俺は……自分からフェラをした。 「い、いや……いい、なんでもない」 「ほら、もっかい洗ってやる」 鬱々とした気分になっていると、腕を掴まれて立たされた。 「あ、い、いいって、イかせる事が出来たんだし、もうそろそろ帰らなきゃ」 あまり遅くなると姉貴が煩いし、テツだって本番までやらねぇのは何か用があるからだろう。 なのに、テツはボディソープを手のひらに出して、俺の股間へ手を伸ばす。 「いや、あの、俺はいいから……」 「遠慮するな、へへー」 断わろうとしたが、強引にテツの方に向かされ、股間を泡だらけにされた。 「ん?」 ちょい待て……なんかおかしいぞ。 「パイパンにしてやる」 てっきりナニを洗ってそのついでに弄るのかと思ったら、テツは怪しげな事を言って、いつの間にかホテルの備え付けのティ字剃刀を手にしている。 「ん? パイパン? なにそれ」 意味が分からず聞き返したが、テツはカミソリでそこの毛を剃り始めた。 パイパンって毛を剃るっていう意味だったんだとわかったが、何故そんな事をするのか意味がわからない。 「いつの間にカミソリなんか用意してんだよ、ていうか、なんで毛を剃るわけ?」 「俺のものになった証だ」 「証? なんだよそれ、いや、ちょっと待って……、ツルツルになったら恥ずかしいじゃん」 証に毛を剃る? いやだけど……股間がつるっつるになったら笑えるし。 「誰に見せるんだ?」 「それは……」 「俺だけじゃねぇか、へっへっへっ」 「あ"ー、もう……嘘だろ」 嫌だったが、強引に毛を剃られた。 子供みたいにツルツルになった股間は……物凄くみっともなかった。 「うう……、なんか変だ」 俺は屈辱を感じていたが、テツは上機嫌で俺の股間を洗い流していく。 「こりゃほんの手始めだ、いずれ尻にタトゥーを入れてやる」 俺は投げやりになって『もうどうにでもなれ』と思ったが、テツは更に驚くような事を言い出した。 「タトゥー? そんなの入れたら、サウナとか入れなくなるんじゃね?」 「心配するな、ちいせぇやつを入れてやる、俺の名前を刻んでやるからな」 「えー、ちょっと待ってくれ、矢吹テツって彫るの? やだよ、超かっこわりぃ」 「フルネームじゃねぇ、英語でTetsuって入れんだよ」 「いや、そういう問題じゃ、もし誰かに見られたら、絶対おかしいって思われるだろ、完璧に男の名前だし」 「いいじゃねーか、この先俺と別れたとしても、おめぇは死ぬまで俺の名を尻に背負って生きるんだ、忘れようにも忘れられねー、へへー」 タトゥーなんか彫りたくなかったが、今はゆっくり揉めてる場合じゃない。 「も、知らね……、どうでもいいけど、あんまゆっくりしてたらマズいんじゃね?」 タトゥーの事はひとまず置いといて、テツに言った。 「おお、そうだな、俺もちょっと寄るとこがある、若を他の奴に任せてるが、あんまり遅くなるとマズいな」 テツは用事の事だけじゃなく、翔吾の事も気にしているようだ。 それから後、直ぐに浴室を出て、服を着て……ラブホを出た。 テツは車をすっ飛ばして待ち合わせをした場所まで送ってくれたが、車の時計を見たら23時を過ぎている。 「うわ、また姉ちゃんになんか言われる、じゃ俺、行くから……」 母さんや父さんはいいとして、姉貴は絶対何か言ってくる。 テツに声をかけて車を降りようとしたら、いきなり腕を掴まれて引っ張られた。 「うわっ!」 テツの方に倒れ込んでしまったが、顔を掴まれて唇が重なってきた。 「ん……!」 元から人通りの少ない場所だが、俺はテツの大胆な行動に驚いて動揺し、鼓動が高鳴っていた。 「また連絡する、必ず出て来い、いいな?」 解放され、頭がボーッとなった状態で返事を返した。 「わ、分かった……」 足元がふわふわするような気分で車を降りたら、テツは小さくクラクションを鳴らし、珍しく俺が歩き出す前に車を出して走り去った。 ラブホなんかに行ったせいで、ガチで時間がなくなったんだろう。 俺は暗い夜道を歩いて家に戻ったが、家に帰ったら真っ直ぐにキッチンへ向かった。 母さんはいつもと変わらず、忙しそうに洗い物をしていた。 手を動かしながら何処に行ってたか聞いてきたが、毎度おなじみな嘘をついて誤魔化したら、それ以上何も言わなかった。 姉貴は……母さんは俺に甘いと言ったが、俺は違うと思う。 毎日あくせく働いて疲れてるから、俺の事をいちいち監視する暇がないんだ。 兎に角椅子に座り、食卓に並べられたおかずをつまみ食いしたら、母さんはまるで見ていたかのように、ご飯をよそった茶碗を渡してくれる。 頼りない息子でごめんって……そう言いたかったが、余計な事を言って薮蛇になるのはゴメンだ。 黙々と箸を口に運び、遅い夕食を済ませた。 腹が満たされたら、何だか急に眠くなってきた。 母さんにひと声かけて、歯を磨きに洗面所へ向かった。 壁に寄りかかって歯を磨いていると……姉貴がやって来た。 「友也……もう12時になるわよ、日付変わっちゃうじゃない、こんな時間まで何してたの?」 姉貴は早速質問してくる。 「うーん、だからさ、友達だって……」 ──しかし、俺は眠い。 「んん? あんた……髪、濡れてんじゃない?」 半分寝ながら答えたら、目ざとく髪の変化に気づいたが、眠気で頭がぼんやりしていた事が幸いした。 「ああー、友達んとこで風呂を借りた」 何も考えてないから、さらっと嘘が口から出た。 「ふーん、お風呂まで借りるって、そんなに仲いいんだ」 「まぁ……」 「明日も学校あるのに、その友達も随分呑気なんだね」 姉貴はまた何かを疑っているようだったが、今の俺には余計な事を言う気力は残ってない。 「そ、呑気なんだ、姉ちゃんは明日デート?」 だから、無難な方へ話を振った。 「うん、まあね」 「ま、頑張って……、悪いけど、俺……眠いから寝る」 姉貴は明日仕事が休みで彼氏とデートだ。 今夜は機嫌がいいらしく、しつこく絡んでくる事はなかった。 俺は歯を磨き終え、2階の自分の部屋に上がったが、部屋に入ったら真っ直ぐにベッドへ行き、そのまま布団の上に倒れ込んだ。 テツと会うと、肉体的にも精神的にも両方疲れるが、毎度目新しい事を知る羽目になる。 毛を剃られたのは嫌だったが、ただ……去り際にやられたあのキスは、やたら頭ん中にこびりついていた。
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