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「諦めます。あたし友達を裏切ることは出来ない。折角教えてくれたのにあたしが嘘を吐いたら罰が当たります」
石川は諦めようかと思った。
「分かりました。それじゃこうしましょう。商売として連絡は取らない。あなたの存在は明かしませんし疑われないようにします。安心してください。人捜しは都橋ですから」
石川は小さく頷いた。
「又吉さんて氷見の中学で同級生でした」
「又吉さん、又吉何ですか?」
「貞子さんです」
「字は?」
石川は便箋に書いて涙を落とした。
「どうして又吉さんはあなたの娘さんだと連絡したんですか?」
「その頃一緒に大阪で働いていましたから。中学を出てからも友達でした。あたしが氷見に戻るとたまに遊びに来てくれました」
「大阪ですか、大阪で何を?」
石川は下を向いた。
「トルコ風呂です」
もうどうにでもなれと言わんばかりに声を張り上げた。
「そうですか、ご苦労成された。やる気が湧いてきました。娘さん見つけましょう」
徳田の目が光った。金はいい、他の依頼主から踏んだ来る。
いつもより闊歩の歩幅が広がっていた。北風にトレンチコートを翻し関内から伊勢佐木モールに入る。午後5:30.モールには観光客と買い物主婦が入り交じる。同じ買い物でも飲み屋のママ連中もいる。和服姿や毛皮のコート姿、一般の買い物主婦とは一目で見分けがつく。また、仕事帰りの男達もモールを漂う。目的は路地一本奥の福富町だが、伊勢佐木町で軽く下地を入れる店を選んでいる時間帯でもある。昼間の顔と夜の顔が交じり合いそして鮮明に分かれていく。そのボーダーラインが伊勢佐木モールである。昼の顔は鎌倉街道に出る。夜の顔は福富町に塗れて行く。
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