都橋探偵事情『擬態』

22/69
前へ
/69ページ
次へ
「さあ、これからが本番だ。この街のやくざは全員俺を知っている。そして嫌っている。その俺と一緒に歩くんだ。当然お前も嫌われる。覚悟しとけ」 「はい」  二人は歩き出した。昼のチンピラがチンピラで食えずに呼び込みをやっている。中西を見てビルの階段を駆け上がる。二階のドアが開いた。流行の『ペッパー警部』が聞こえて来た。二人が歩くと呼び込みが消える。行き過ぎるとまたどこからか出てくる。吉田町から福富町仲通りを闊歩する。長者町8丁目で深呼吸した。 「意外と疲れんだろう」 「はい」  チンピラや呼び込みの視線が神経に突き刺さるから張りつめている。気を抜けば舐められる。 「俺達がいるってことをあいつ等に叩き込んでおくんだ。俺は毎日、仲通りか東通り西通りを歩いている。俺はな、仕方なく身体売ってる女は放っておくんだ。金貯めて店を持つか、野垂れ死ぬかは分からねえ。でも自分で決めた道ならそれでいいと思う。ただ悪い男に騙されて身体売ってんなら助けてやろうじゃねえか。男とっ掴まえてどぶに投げ込んでやればいい。チンピラだってそうだ。金持ちから小銭をせびって小遣い稼ぎならいいさ、だけど弱いもんと貧乏人を虐める奴は許さねえ。とっ掴まえて半殺しにしてやる。それが俺の仕事だと思っている」  小野田を見つめて言った。 「はい」  小野田の肩を叩いた。 「よし、蟹屋に行こう」 「はい」 「いらっしゃい」  仲居が笑った。  自宅アパートは保土ヶ谷の岩間町である。風呂のない6畳一間と3畳ほどの台所。自宅前の公衆電話に入る。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加