都橋探偵事情『擬態』

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 徳田は朝一に野毛の総和会に出掛けた。会長の池上から依頼されている佐久間捜しの報告である。さっと済ませて石川奈美恵の依頼で娘捜しを始めたかった。しばらくぶりの探偵らしき仕事に胸が弾んでいた。 「会長、都橋の旦那がお見えです」  会長つきの若い衆が池上会長に窺った。 「都橋?えらい早いな。ガキが学校に通う時間だよ。それとも佐久間が見つかったか。よし通せ」  池上に会うまで三か所の検問所がある。門番の目付きは段々と厳しさを増す。 「所長、一応ルールなんで」  徳田の身体を叩いて危険物のチェックをする。徳田は可笑しくて吹き出した。警察もやくざもやることは一緒で自分の保身のためには真剣になる。門番がステッキに気付いた。 「愛用のステッキだよ。君も知ってるだろう」 「どうぞ」  門番が手を差し伸べた。徳田が中に入る。パーテーションで通路にしている。池上に会うまでは三回迂回する。池上は奥のデスクに腰掛けてライフルを磨いていた。徳田をちらと見て笑った。そして銃口を向けた。 「バーン」  口で撃って笑った。 「会長、時代遅れのギャグですよ。彼が受けているのは義理ですよ」  若い衆が笑っているのを見て徳田が言った。 「ばか野郎、笑うんじゃねえよ」  若い衆が叱られる。 「明日さあ、清川まで鹿を撃ちに行くんだ。そうだ、所長も行く?」  ハナから誘うつもりなど無い。池上は三代目である。まだ会長に就任して三年目である。徳田は二代目の向井と付き合いがあった。向井の右腕が池上だった。そのつながりで依頼を受けている。
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