都橋探偵事情『擬態』

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「所長、いくらなら捜してくれる?」  やはり徳田の嘘を疑っていた。難題を迫られた。金が欲しいなら出しそうな単価を探るが断るために法外な金額を示せば嘘がバレる。 「会長、金の問題じゃありません。時間の問題なんです。会長の依頼だから優先はしますがそれでも時間が掛かり過ぎるでしょう」 「一年でも二年でも待つよ俺は。それだけ執念深いと箔が付くからな。あいつには俺の次を期待していたんだ。他の連中にもそう言う関係を周知していたんだ。それを裏切りやがった。女に惚れたなら俺に言えばいいじゃねえか、好きにしろってほっとくさ。だがあの野郎は連れて逃げ出しやがった。子が親にしちゃ一番いけねえことをしたんだ。所長もそれぐらいは分かってくれるよな」  池上は嫉妬していた。確かに期待していた子が黙って出て行ったらどこの親も落胆する。ましてやくざである。若い衆に示しが付かない。 「会長がそこまで言うならどうです?百万で一か月みっちりやりましょうか。勿論経費は別勘定です」  百万と訊いて若い衆が顔を上げて目を見開いた。徳田にすれば博打的な誘いである。池上は断るだろうと予想し提示した金額である。万が一首を盾に振ったら春休みに家族で四国旅行でもすればいいと腹を括った。 「百万で必ず捜してくれるかい?」 「難しい。だが私に無理なら誰が捜しても無理でしょう」 「さすが都橋、自信たっぷりだ」  池上は考えた。徳田は断られることを願った。 「諦めるとするか」  徳田は笑みが出そうになるが堪えた。しかし愕然とした表情を表せば逆に疑われる。変わらぬ様相を呈していることが肝心である。徳田は立ち上がった。 「それじゃ会長、またなんかあったら声を掛けてください」 「おうおう、あたりめえじゃねえか、地元地元、地元繋がりが一番だ、なあ」  徳田はパーテーションの路地を歩き始めた。三つある検問所の門番が会釈する。
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