都橋探偵事情『擬態』

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「ふーっ」  外に出て溜め込んでいた嘘の気をおもいきり吐き出した。ラークを咥える。吐き出した分おもいきり吸い込んだ。チリチリと巻紙の燃える音が心地いい。  立番は警察署の門番である。警杖を地に付いて通りを睨む。この街で悪さはさせねえぞと意気込みが通じる。その役を小野田が初めて担っていた。当番の巡査に代わって立った。中西は通りで立ち止まり立番の小野田を見つめた。並木の姿が被った。なりは小さいが鬼の形相で街を睨んでいた並木。頭を振って並木の映像を消した。 「ご苦労さん、あんまり張り切るな。いざって時に走れねえぞ」 「はい」  小野田が笑った。 「班長来てるか?」  小野田が頷いた。中西は布川に会う前に留置所に向かった。 「吉川、全部ゲロしたようだな。すっきりしたろ」  吉川は簡易ベッドに寝そべっていた。拘置所より比較的自由に振る舞える。ベッドの脇に重箱が重ねてある。 「あの野郎、松を二つ平らげやがった」  監視当番が鼻を鳴らした。 「腹も減るよなあ、鰻でも食わなきゃ身が持ちませんてか。もうじき麦飯食うことになるからここであるったけ食ってけ」 「おい」  中西が立ち去ろうとすると吉川が声を掛けた。ベッドから起き上がり鉄の格子に捕まった。 「もう組には言ったのか?」 「気になるのか?」  ヒットマンが狙いを外して客を撃った。幸い掠り傷だったが第三者に怪我を負わせたことは社会が許さない。それは警察も同じである。
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