都橋探偵事情『擬態』

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「おい、西、李はどうする?」 「俺の作戦ですが戦争させようと思います。皆川も叩くなら今です。吉川にうたわれて立場が悪い。額面通りならムショ行きです。それに李も黙ってないでしょう。皆川の差し金てってことぐらい察しがついていますからね。やらせて全滅狙いましょうよ班長」 「そりゃまずいな」 「どうして?」 「一気の解決は望んでいない」 「誰がですか?」  布川は答えに困った。まさか上部とは言えない。だがそれくらいは中西も察している。 「商店街だ。ザキも福富町もそういう解決は望んでいない」  商店街はそれなりにやくざから守られている。情の絡むトラブルだと警察は手を出さない。小さな脅しが効くやくざの出番が多い。そのためにミカジメを支払っている。例え警察が全面にやくざ排除を打ち出してもやくざが消えてなくなることはない。無くならないやくざと完全に縁を切ることは出来ない。嫌がらせは正義の精神にもダメージを与え耐えきれなくなる。それなら上手に付き合うのが賢明と店主達の生きる術である。 「そんなことお前が一番よく分かってんだろう。俺に言わせるな」  中西もやくざの存在は必要悪だと考えている。しかし損をするのは貧乏人ばかり。せめてシャブを糧にしているやくざは排除したい。皆川も李もシャブで儲けている。末端の利用者は貧乏人。生活が苦しくて生きることに面倒になりシャブに手を出す。脳天へ突き上げる快楽は地獄への一直線。もう後戻りは出来ない。塩交じりの悪質なシャブを一パケ一万円で買う。買った女と回し打ちし大概が肝炎になる。そして数年後には顔を紫色にして死んでいく。そんな男も女もたくさん見て来た中西である。
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