都橋探偵事情『擬態』

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「布川班長だってシャブで溶けてく男女を見て来たでしょ。溶けちゃうのはみんな貧乏人です。せめてシャブ扱ってる組は潰しましょうよ」 「皆川や李をやっても次から次へと出て来るぞ」 「いいじゃないですか、その度にもぐら叩きやりましょう。今叩けるモグラは俺等が叩く。やる気のある若いのもいますよ」  中西が小野田に首を振った。 「はい」  小野田の返事に布川が笑った。  朝の作業が一通り終了すると後は一時間おきに様子を窺えばいい。二階の八畳間に籠り読書にふける。一時間おきにタイマーを掛けてありその都度高山幸三郎の部屋に出向く。寝ていればラッキー、起きていて難しい顔をしている時は失禁の可能性大である。失禁は食事も影響する。水分の少ない食事を与えていれば必然と量も減る。お茶が好きでお替りを求めるが応じないこともある。 「あなたの奥さんがやらなきゃならないのよ本当は。我慢しなさい」  通じていないから意地悪にならないと決めている。玄関ドアが開いた。洋子の帰宅は昼前だった。 「ごめんなさい、帰らないお客さんがいて終電乗り遅れて、お店で寝ちゃったわ」  赤い顔はアルコールである。 「いえ、ご主人にお変わりはありません。朝食もしっかりと食べていただきました。お茶がお好きですね、お替りを何杯もなされて」 「水分が多いとおしっこも増えるでしょ、あなたが大変じゃない。あまり飲ませなくていいから」 「いいえ、喜んでいただければ嬉しいです」  洋子が幸三郎の枕元に顔を近付ける。
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