都橋探偵事情『擬態』

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「これから出るんだ、大変だなあ」 「帰りは朝だ」  佐久間が答えた。 「君も漁師か?」 「嫌で家を出た」 「私からするともったいない」 「それを他人事って言うんだ」 「確かに他人事だ。でも憧れだよ。自然を相手に糧を得る。こんな商売してるとつくづく思う」 「ならやればいいじゃねえか」 「やっぱり他人事だな」  徳田は佐久間に突っ込まれて笑ってしまった。憧れは他人事であると証明された。 「それで俺をどうしようっての?」  徳田はラークを差し出した。佐久間が一本抜いた。徳田が火を点けた。佐久間がおもいきり吸って出船するイカ釣り船に向けて吐き出した。 「親分から君を捜してくれと頼まれた」 「どうしてここが分かったの?」 「商売だからね」 「あんたの噂は聞いてるよ。人捜しなら都橋。さすがだな俺が逃げて二日目で辿り着くなんて」  佐久間は感心している。しかし連れ出した女の同僚が1万のチップでぺらぺらと全てを話してくれた。隠し事は例え身内でも隠すのが賢明である。『誰にも言うなよ』の連鎖で誰でも知ることになる。人は他人の隠し事を話したくなるもんである。 「伝手と勘で商売してる」  同僚の女から訊いたことは伏せてカッコ付けた。
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