おまけ・暮らす:その後のその後

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おまけ・暮らす:その後のその後

 新居の決め手は、陽あたりがいいことと、窓から桜の樹が見えることだった。  文幸と周が「ここにしよう」と決めた賃貸マンションは、築年数はちょっといっているし最寄り駅からも少々歩くが、住宅の立ち並ぶ静かな一角にあった。三階建ての二階の部屋で、南東向きのリビングに大きな窓からあかるい陽光がいっぱいに差し込む。こんなに陽あたりがいいのは、細い公道をはさんだ向かい側に小さな児童公園があって、視界が大きくひらけているからだ。  公園には、大きくはないが枝ぶりのいいソメイヨシノの樹が一本植わっていた。下見に行ったのは冬のいちばん寒い時期だったけれど、周がベランダからそれを見つけて「春は部屋から花見ができるね」と声を弾ませた。だからこの部屋に決めた。  三月下旬、楽しみにしていたとおり、窓いっぱいに満開の桜が見えた。  文幸は周とふたりで部屋からの花見を楽しんだ。一本きりの桜だから花見客というほどの人出もない。近所の家族連れが数組やってきて、レジャーシートを広げている程度だ。小さな子どものはしゃぎ声にまじって、親たちの話し声や笑い声も聞こえてくる。  花の見ごろの週末、文幸と周は昼間から缶ビールのタブを引いて乾杯しながら、「子どもが小さかったころが懐かしいねえ」などと笑いあった。
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