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「あと一回!一回だけ!」
「だから!もうだめだって言ってるでしょ!!」
僕は目の前の女性のもう一回攻撃に苦戦を強いている。
無理なものはもう無理なのだ。
「あともう一回だけ転生させて!!」
そう。この女性は転生……生まれ変わりを果たしている。
それも5回目。
5回転生だけでも凄いのになぜまだ人生を歩みたがるのか。
他の方たちは
「もうつかれた」
とか
「このまま終わりたい」
とか言ってたいてい5回も転生しない。
この女性は異常だ。
生への執着がとんでもないのである。
「おとなしく死後の世界に行ってください!!」
「や〜だ〜!!」
いい大人が駄々をこねている。
仕事とはいえイライラする。
この人三十路手前だよな……?
最後の転生で三十路手前で死ぬのも可哀想に思えてくるがそれとこれとは別である。
「管理者さんなんだからできるでしょ?ねぇ!もう一回!」
これではまた振り出しだ。
「第一なぜそこまでして生きたがるんですか!?人生なんて楽しいこともそりゃあると思いますが苦しいことのほうが多いと思うんですよ!?」
思わず口調が強くなってしまう。
いい加減にして欲しい。
業務妨害罪で訴えてやろうか。
こっちは次のお客様が待ってるんだぞ。
「だって私の死に方不遇すぎるんだもん!!1回目の人生では革命を起こそうとして政府に殺されて!2回目の人生では大学受験当日に事故死して!3回目の人生ではブラック企業で働いて数週間ぶりに家に帰れると思ったら事故死して!4回目の人生ではなぜかRPGゲームの第1村人になったこと思ったら魔物に齢15、16あたりで殺されて!5回目の人生は夫の浮気相手に殺されたんだよ!?ぜーんぶ享年三十路以下なんですけど!?あと夫と浮気相手絶対許さん!!」
「壮絶な人生を送り続けていてツッコミどころ多すぎますが一度だけ異世界転生してませんか!?そして1回目の人生だけ結構昔の出来事ですよね?!」
中々にハードモードな人生を送っているようだがそれではもう一回だけ転生を許しましょうとはならない。
ていうかよくそんなひどい目にあってまで生きたいと思えるな。
「なおさら生きたいと思える理由が分かりません!つらい思いをすることがわかっているのになんで……」
これは正直な疑問だ。
僕は目の前の女のように生きたいと強く願っている人を見たことがない。
「楽しかったから」
「楽しい?」
予想外の回答だった。
そんなに辛い人生を送り続けているのに?
なんで?
「うん!楽しかった!死に方は、まあまあ悲惨だったけど……どの人生にも笑っていられる時はあったからね。辛いことばっかりじゃない。幸せなときもあった。だから、今度こそ私は長生きして、死に際に娘や息子、孫たちの泣いてる姿を見ながら老衰死したいの!!」
ささやかな夢のようにも感じられるがこの女性が言うと重みが違う。
「それに!長生きすれば友達や家族とまだまだどんちゃん騒ぎできるでしょ?友達と同窓会で飲みまくって、上司の愚痴とか永遠に語り合って、飲んだノリで二次会にカラオケ行って、失恋ソング歌いながら泣いてるやつをみんなで慰めて、ポテトとかつまみながら昭和の懐かしソングとか歌いたい!!そして次の日二日酔いになって昨日楽しかったけど飲みすぎたな〜とか!言ってみたいの!!」
「細かい細かい。落ち着いてください。あと、仮にもう一度転生できたとして昭和の懐かしソングを覚えている人なんてそうそういないかと。そこは令和の懐かしソングになってると思います」
なるほど。この女は大人の階段を上ってみたいようだ。
三十路手前あたりで死んでいるから同窓会とかもあまり経験がないんだな。
楽しいことが何かを知っているけれどそれを体験する機会がなかったのだろう。
「こちらとしてもお客様のご要望はできる限り叶えたいと考えております。しかし……こればっかりは……」
「そこをなんとか!!」
なんだがこの女性の願いを叶えてあげたくなってきた。
だが、規則に反することはできない。
「……一度上司に電話してみます。よろしいですか?」
「お願いします!」
勢いの良い返事が帰ってくる。
僕は別室に走り電話をかけた。
「あ、すみません神様。ちょっとよろしいですか?」
『ん〜?なに〜?』
気怠げな返事が返ってくる。
いつものことだ。
「もう一回転生したいとおっしゃっているお客様がいらっしゃいまして……その方はもう5回の転生を果たされているんですよ……どうしましょうか」
『無理ですって言えないの?』
「言ったのですか聞き入れてくださらなくて……」
『ん〜……じゃあさ……』
僕は予想外の提案に目を丸くした。
誰だって驚くだろう。
だってその内容は……
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