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3年の成果を
3年の月日が流れた。その間、ビレン村で生活し、森で剣技と魔法の練習をし続けた。俺の身体の成長は今でも止まったままだ。
「レクロマ、かなり強くなってきたんじゃないかな。この森の魔者も目隠しでも倒せるくらいにはなったし、大抵の魔法は扱えるようになった。頑張ったね」
シアはレクロマを背負いながら頭を撫でる。ずっとレクロマのことを背負って支え続けている。
俺はシアを握っていなくても、弱いながらも魔法は使えるようになった。これでシアに守られてばかりじゃない。シアを守ることだってできるはずだ。
今日の練習を終え、シアに背負われてビレン村に帰ると、村の入り口近くのレンガの門は崩れ、民家も数軒破壊されていた。村の大人たちが険しい顔つきで何かを話し合っている。
「レディンさん、何かあったんですか?」
「あぁ、シアちゃん、レッくん。実はな、アルド・ベリオールっていう魔者が現れて村を襲ってきたんだ。近くの畑を荒らして畑にいた鳥や小さな獣を食べて満足したのか、西の方に帰って行った……」
「アルド・ベリオール? って何ですか?」
どんな魔者なんだ? 初めて聞いたぞ。この村の惨状を見る限り、かなり大きい魔者らしい。
「アルド・ベリオールは巨大な肉食の魔者だよ。少し前はもっと南に出没していたらしいが、最近この村の近くまで北上してきたんだ。この国じゃ騎士団長や王の側近じゃないと倒せないくらい強いって言われていて、実際アルド・ベリオールを食い止めようとした村の門番は全員負傷している。村の皆で話し合って壁を強固にして罠を設置することに決まったんだが、それだけでは少々心許ない……」
レディンは、遠くでセリオを抱えたエレナを不安そうに見ていた。
「レディンさん。俺たちがアルド・ベリオールを倒してきます。良いよね、シア?」
「もちろん。レクロマがいいなら」
「いや……でも……君たちは客人だし、そんなことまで気にしなくていいんだよ。君たちはエレナとセリオと一緒に隠れていてくれ」
レディンさんはシアの肩に手を置いて頼んでくる。切実な思いを感じる。
「俺たちはレディンさんのおかげでこの村に住まわせてもらってもらってます。これだけで恩を返しきれるとは思えませんが、やります」
「そこまで行ってくれるなら……。ありがとう。レッくん、シアちゃん。無理だと思ったらすぐに逃げてくれ。絶対に死なないでくれよ。私たちはもう君たちの親のようなものなんだから」
レディンさんは決別の時のようにレクロマとシアを優しく抱きしめる。
「ありがとうございます、レディンさん。必ず倒してきますから」
その時、子供の走る足音が聞こえた。次の瞬間、シアの脚がぐらついた。セリオがシアの腰に勢いよくしがみついた。
「セリオ、無事で良かった」
シアは立膝になってセリオの頭を右腕で撫でた。
「シアちゃん、レッくん。すごく……すごくこわかったよ。黒くて……おっきくて……たて物もこわされて、血が出てる人もいた」
セリオは今にも泣き出しそうな顔で力強くシアに抱きついていた。
「大丈夫だよ。俺たちがその魔者を倒してくるから安心して」
「えっ……でも……でも……」
「大丈夫だから。エレナさんと一緒にいてあげてね、セリオは男の子だから」
シアはそう言って立ち上がった。
「それじゃあ行こうか、レクロマ」
いつの間にか家に帰っていたレディンが荷物を持って走って向かって来た。
「レッくん、シアちゃん。これだけ持って行って。ミックスサンドとコーヒー」
「ありがとうございます」
シアはレディンさんから受け取ってかばんに入れ、村の出口へと向かった。
村から出ようとすると、村人の声援が聞こえた。誰もが俺たちを応援してくれている。俺がこの期待に応えなければいけないんだ。
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西の方にしばらく進むと、岩場が見えてきた。
「シア、サンドウィッチ食べたい」
「いつ出てくるかわからないしね、食べながら進もうか」
そう言ってシアは魔法によって作り出された異空間からかばんを取り出した。その中から出したミックスサンドを、振り向きもせずに肩の上のレクロマの口元に差し出す。
レディンさんのミックスサンドには日替わりで違う中身が入れられている。今日はペスカトーレパスタサンドだ。炭水化物がたくさん取れるようにってことか。
「やっぱり美味しいな。レディンさんのミックスサンドは」
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