嫉妬の女、紫ちゃん

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嫉妬の女、紫ちゃん

 俺の両手を取って強く握ってきた。 「ねぇ、あなたも王に反抗するのなら、手を組まない? さっきの戦いぶりを見る限りかなりの力を持ってるんでしょ。私たちだって仲間は100人近くいて、相当の力を持っているつもりだけど、まだ足りない。あなたの力が欲しい」 「いや、それは嬉しい話だけど俺は動けないから、迷惑をかけるだけだ。足手まといになるだけだよ。日常生活でだって他人に頼り切りになるしかない」 「それなら大丈夫でしょ。その子が剣になってあなたが持っていれば動けるんでしょ? それならずっと持っていればいいじゃない。その子は剣が本来の姿なら、そっちの方がいいでしょ。そうすればきっとあなたは素晴らしい戦力になる」  こいつ…… 「……」 「どうしたの? レクロマ君」  反乱軍と協力しようかとも思ったが、やっぱり無しだ。 「シア、ごめん」  シアは俺を地面に降ろし、右手を握って剣となった。何も言わなくても俺が何をしたいのか感じ取ってくれるようだ。 「いいよ、その色を見ればわかる」  俺はシアを左手に持ち替えた。 「ほら、動けるじゃない。そうしていれば何も問題ないんでしょ」  俺は思い切り拳を握ってレティアにずいと身を乗り出した。レティアは少し距離を取って俺の胸を手で軽く押した。 「え? 何? どうしたの?」  レティアの左頬を思い切り右拳で殴り飛ばすとレティアの体は軽く3メートルは吹っ飛んだ。 「……? は? え?」  レティアは上体だけ起き上がって左頬に手を当て、面を食らったように俺の方をじっと見ていた。 「レティア様っ……」  アリジスは急いでレティアの元へ駆け寄った。 「貴様、どういうつもりだ。よくもレティア様を殴ってくれたな」  アリジスは剥き出しの不信感を俺にぶつけてきた。  でも、今の俺にはそんなものどうだっていい。 「……ふざけるな……ふざけるな! シアを道具扱いするな。シアは俺の大切な唯一信頼できるパートナーなんだ。シアはただがむしゃらで必死なだけの空っぽの俺に意味をくれる。俺のわがままを聞いてもらって、迷惑をかけて、俺は初めてこうやって動いて王を倒すって目標に向かって進めるんだ。何も知らないお前みたいな奴が、シアを下に見て語るな!」  レティアは一瞬驚いてみせたが、目をとろんとさせて俺を見つめてきた。 「……こんなの、初めて……」  レティアは顔を背けて指をいじっている。 「はぁ? 何だその返し、ふざけてるのか」 「レティア様、どうしました? 大丈夫ですか?」  アリジスはレティアを抱き起こした。そして、レティアの前で手を振ってみるが、反応は無い。 「……芯を持った志、かっこいい」  レティアはレクロマに聞こえないくらいの声でぽそりと呟いた。 「レティア様? なんで……」  レティアは焦ったように起き上がって、両腕をアリジスに向けて思い切り伸ばして否定するように手を振った。 「違うよ、違う、冗談だから。殴られてそんなこと思うわけないでしょ」 「冗談ですか……」 「そうよ、冗談……そんなわけないもんね……ははは……」  俺は膝立ちになってシアを手放した。すると人間の姿に戻って俺を正面から抱きしめた。 「レクロマ、ありがとう。私の、パートナー」  シアはそのまま俺を抱き抱えて、レティアの方へ向かった。そして、レティアの目を覗き込んでじっと見た。 「何よ!」 「醜いね、嫉妬の色だ」  嫉妬の色、紫色か。 「はぁ? 失礼な人ね。そんなわけないでしょ。あなたがその人に何しようが私はどうも思わないわよ」 「取り繕わなくていいよ、紫ちゃん」 「紫……ちゃん……」  レティアは自分の身体を見渡して紫がどこにあるのかを探しているようだ。 「紫って何のことよ、おちょくってるの?」 「そんなことはないよ、紫ちゃん」  シアはおちょくったように紫ちゃんことレティアに笑いかける。 「そ……そんなことよりも! お礼とお詫びを兼ねて私たちの施設に来て欲しいの」 「レティア様、本当にこいつらを基地に入れるんですか? レティア様に手を出すような奴ですよ」 「いいの、私が気に入ったから」 「そうですか……わかりました」
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