捨て身の力

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捨て身の力

 アリジスは再び円状の雷撃を飛ばした。その雷撃はまた球状になり、収縮を始めた。 「私がやる」  突如としてシアの声が頭に響いた。 「いや、でも……」 「いいから」  シアは人間の姿になって、俺を、先ほど出した岩に立てかけた。  シアはそのまま空中に飛び上がって球の真上で空虚を蹴り、シアは手を伸ばして球に向かって急降下した。球はどんどん小さくなっていた。  バギンッという音が一面に鳴り響く。 「シア!!」  シアは球を握り潰していた。 「あぁ……痛い」 「はぁ? 超高圧の電気だぞ。素手で握り潰すなんて」 「これが一番手っ取り早いでしょ。それに、私は人間じゃないんだから死にはしないわよ」  シアは俺に近づいて手を握って剣となった。 「シア、死なないって言っても痛みはあるんでしょ。シアを苦しませるなんて……」 「いいって言ったでしょ。それに痛いって言っても少しぱちっとしただけよ」 「やめてよ!」 「えっ……」  シアは面を食らったように静かになった。 「俺が勝手に始めた戦いでシアに傷付いて欲しくない……俺のせいでシアを苦しめるようなことになったら、もう生きていけない」 「……え、あの……ごめんなさい……」 「レクロマ君、気を取り直してやろうか」  アリジスは太刀を両手で逆手にして持ち、真っ直ぐに刃を下に向けている。 「はい、再開しましょう」  左手を開いて天にかざすと左腕に氷の装甲が現れた。右手では、シアを構えた。  アリジスは太刀を地面に突き刺した。 「地面が硬いところでは絶対にやるなよ」  すると、黒い雲が発達して帯電を始めた。黒い雲から光が瞬き、先ほどの岩を貫いた。そして次々に雷が落ち始めた。  ものすごい魔法だ。当たったらかなりまずいな。走り抜けて直接対決に持ち込めば……  レクロマはばっと走り出したが雷がゆく手を遮る。  走り抜けていたが、進行方向上部に雷が迫って来るのが見えた。  まずい、このままだと当たる。だが……  レクロマは左腕で雷を払った。すると、左腕の氷と雷がぶつかって雷は消え、氷が飛び散る。  俺はそのままアリジスに向かって走る。アリジスは俺の方に剣先を向けて構えた。 「これでお前の勝ちだと思うなよ」  一瞬、アリジスの体は激しく閃き、姿が消えた。さっきまでアリジスがいた所から光の導線が見える。 「何か……やばい!」  シアを光の道筋に合わせて構えると、次の瞬間目の前のアリジスが現れて太刀がシアに向かって振り下ろされた。 「これも合わせるか。優れた動体視力だ」  アリジスは太刀を立てて右に寄せて構えた。 「だが、これで終わりだ」  太刀を振り下ろして来た。シンプルだが、速い。それを下からシアで受け止めて右側に払う。アリジスは太刀の重さに引っ張られて体勢を崩した。  俺の勝ちだ。  シアを両手で構えて首を打下ろし、首に当たる寸前で止める。 「参った、お前の勝ちだ。強いな、レティア様が惚れるだけのことはある。少しは信用できるようだな」  アリジスはそのまま腰を下ろして立膝になり、太刀を鞘に収めて背中に背負った。 「ありがとうございます。楽しかったです」  シアは人間の姿に戻って俺を背負った。 「お前、素直だな。それにその子に対する愛情もある」 「そんなことまで……」 「20年のキャリアは伊達じゃないって言ったろ。戦いにはその者の生き方全てが現れる」  さすがだな。俺にはそんなことわからなかった。ただ、素晴らしく高い剣技のスキルがあるってことくらいしか。 「レクロマ、あのプロテクションってそんな意味があったの。私は怪我も刃こぼれもしないから気にしなくて良かったのに」 「それでも、いたずらにシアを傷つけたくなかったから」 「優しいなぁもぉ」  シアは俺の髪をわしゃわしゃといじる。 「……そういうのは人がいない所でやってくれ。見てるこっちが恥ずかしい」 「あっ、ごめんなさい」  シアは真っ赤に赤面して下を向いた。 「レティア様の前では絶対にそんな所を見せないでくれ。レティア様が発狂しておかしくなってしまいそうだ」  確かにこんな所、レティアには見せられないな。 「気を付けます」
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