永遠の契約

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永遠の契約

 部屋のドアがいきなり開き、シアが入って来た。 「シア、良かった。良かった……戻って来てくれたんだ……ははは、はは、あぁぁぁぁ……」  涙が不意に溢れ出した。 「何? 30分も経ってないのに」  シアは駆け寄ってベッドの側にしゃがんだ。シアはタオルを持って来て顔を拭いながら頭を撫でてくれる。 「俺に愛想を尽かして、捨てて出て行ってしまったと思って……」 「すぐに戻るって言ったのに」  シアはベッドに座り、俺を起こして背をさする。 「シアに頼りきることでしか自分を表現できなくて……気を使わせてばかりで……それなのに何も返せなくて……ずっと見ないふりして心の奥にしまいこんでいた。俺はシアの意志を最優先したいと思っていたはずなのに……自分のためだけにシアを欲していた。自分の醜さが見えてしまった気がした……気持ち悪い……」 「自分が求めるものを求めて何が悪いの」 「すごく……怖かったんだ。シアがいなくなって動けなくなったら俺は何なんだろうって……。コエンと話しても俺はずっと一人で、淋しかった」  シアは俺の方を向いて正面から抱きつく。 「私が気に入ってるのは一人で何もできなくて、でも高い志を持って……剣じゃない私を必要として、生かしてくれるレクロマ。私はずっとレクロマを背負う。私だけが永遠にレクロマの側にいるから」 「ゔぅぅあぁぁぁ……」  シアがとても温かい。 「もっと……強く抱きしめて……」 「はいはい」  あぁ……安心する。 「うっ……ぅぅぅ……」 ====================  シアが部屋を出た後、レティアはしばらく動けずにいた。シアの言葉が心に重くのしかかる。自分の無神経さがレクロマを傷つけてしまったこと、その事実を受け入れるのが難しい。  部屋を出て、廊下を歩きながら、レティアは考えている。どうすればレクロマの苦しみを和らげることができるのか。もう二度とレクロマを傷つけない、謝らなければならない。  レクロマ君の部屋に、私が入っていいの? レクロマ君を苦しめたこの私が。でも、ここでやめたらもう二度と話せなくなる。最後にレクロマ君としっかりと話さないと。  レティアはレクロマとシアの部屋のドアにゆっくりと近づいて取手を掴み、大きく息を吐く。そしてその場に硬直する。  手が、動かない。謝らなければならないのに。これ以上嫌われるのが怖い。ふぅ……ふぅ……早く、行かないと。  レティアはそのまま取手を握り続けている。  部屋の中からレクロマ君とシアさんの声がかすかに聞こえる。  二人が話しているなら、今じゃない方が良いよね……。……だめだ、心の中で恐れているからちょっとしたことを取り上げて、行かない理由にしようとしている。  今行くの……今……今……  心の声すらも震えているように感じる。 「今!」  勢いよくドアを開けると、シアはベッドに座らされたレクロマの胸を抱きしめていた。  あ……しまった。ノックしてなかった。 「何しに来たの!」  シアはレクロマを抱きしめながらレティアを睨みつける。レクロマは小さなうめき声をあげながらシアに支えられ、苦しそうに息をしている。  レティアは正座で座り、床に手をついてシアとレクロマを真っ直ぐと見据える。 「レクロマさん。本当に申し訳ありませんでした。私の軽率な言葉であなたを傷つけてしまったこと、心から謝罪いたします」  レクロマは深呼吸をして息を整えながら話す。 「もういいよ……レティアは悪くない。俺が弱いだけだから」   「私もあなたを支えるから。あなたが望むならどこまでだってついて行く」  シアはレクロマを膝に乗せて両腕を体の正面に回して固定する。 「何言ってるんだ。レティアはカミツレのリーダーとしてみんなを引っ張って行かなきゃならないだろ。この一週間、カミツレで過ごしてわかった。カミツレのメンバーはレティアのカリスマに導かれているって」 「ありがとう。私、頑張るから。レクロマ君を驚かせて喜ばせるくらいの成果を上げてみせるから。共に戦いましょう」 「必ずセルナスト王を倒そう」  レティアはレクロマの目を見て軽く笑みを浮かべる。 「レティア、気をつける事ね。次あなたのせいでレクロマが傷付くようなことがあれば、あなたを殺すから」 「えぇ、私もレクロマ君を守るわ」  やっぱりシアさんには敵わないわね。
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