Erinnerung

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 私は少ししゃがんで話しかける。 「ここにいればもしかしたら君は親に会えて家に帰れるかもしれない。帰りたいならいつまでも手伝う。 もし家に帰りたくないなら私の家で暮らすと良い。これは私には選べない。君が選んでくれ」  私はそう言って少女の手を離した。すると少女は一瞬困惑したような顔になり、次の瞬間私の腹に思いっきりタックルして抱きついてきた。 「ぐっ……うゔ……いったぁ。いきなり離してごめんね。私と一緒に暮らそう」  手を再び繋ぎ直して一緒に家へと帰った。 「今日は休みだから、服を買ってから帰ろうか」 ====================  服屋に着くと店員の女性が少女に食いついてきた。 「きゃーこの子可愛いですね。似合う服を見繕います」  そう言ってたくさんの服を持ってきた。  まずはワンピースタイプの清楚な服だ。長い髪と相まって確かに似合う。が、少女は微妙そうな顔をしている。  次は活発な感じの服だ。私の好みではないが似合う。が、少女は首を傾げる。  その次はツーピースタイプの可愛らしい服だ。可愛いと思うが、少女はむすっとした顔で目線を逸らしている。 ====================  その後も何着もの様々なタイプの服を試したが、お気に召した服はなかったようだ。とんだお姫様だ。試着の間、店員が持っている元々着ていた服をずっと気にしていた。  今日はとりあえず私の分の布団とこの子のためのおもちゃだけ買って帰った。おもちゃには、特に気に入った様子だった木製の剣を買った。  帰る途中で少女は肩車をせがみ、肩車をして帰った。中身は幼くても体は10歳だからなかなか重たい。家に着くと、肩車され足りないような顔をして渋々降りた。 「ねぇ、君の名前、分かる?」 「……」  やっぱり名前も忘れてるのか。私がつけるべきだな。これから一緒に暮らしていくわけだから。  何が良いか。過去の記憶を求めるよりも新たな思い出を大切にして欲しいって意味で……確か綴りは……これを単語の読み方を気にせずに読めば…… 「エリネ」  どうだ? なかなか可愛い感じの名前じゃないか?  頭を撫でてやると少女は甘えたように笑う。私を信用してくれてるのか。 ====================  今日は騎士団の仕事がある。エリネは家で待っていることになる。  今日からは少しでもエリネと意思疎通ができるように言葉を教えないと。まずは文法よりも語彙だ。昨日徹夜で作ったこの単語帳を読んでいてもらえれば多少は語彙が増えるだろう。まだノート1冊分しかないが、まだ増やすつもりだ。3600語しか書けてないからな。  単語帳には発音の仕方、単語とそのイラストを並べ、類義語と対義語、関連語も並べてある。私は不器用だから、どんなやり方が良いのか分からない。私は学生時代もひたすら勉強して量で質を補填していた感じだったから。  でも、それ以前に問題なのは大人しくしていてくれるかどうかだ。イタズラするような子じゃないとは思うが、家の外に出られると危険だな。連れて行こうか、騎士団の託児所なら安全だと思うが。 「エリネ、一緒に行こうか」  私が手を差し出すと、エリネは私が渡した単語帳を持って私の手を握り返した。 ====================  騎士団の施設に入るとベルノス小隊長が話しかけてきた。 「おはようございます、ヘイム中隊長」  ベルノス小隊長は深々とお辞儀した。 「おはようございます、ベルノス小隊長」 「その子は? お子さんですか」 「事情があって引き取ってる子なんですよ。家に一人で置いておくのは不安なので連れて来ました」  ベルノス小隊長は単語帳をひしと抱いたエリネを少し不審そうに見ていた。 ====================  エリネを託児所に預けて自分の部屋に入った。肘掛けの付いた椅子に腰掛ける。  書類仕事ばかりだ。能力の研鑽(けんさん)には繋がらない。いまいち気が乗らないが、陛下のためと考えればどんなことにでもやる気が溢れる。  まだ、陛下に会う許可は与えられていない。騎士団で会えるようになるのは騎士団長だけだ。もっと力をつけて、陛下に会えるだけの価値を示さなくては。
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