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ヒモで、背負われた俺
「シアとは会ったばかりだけど会えて良かったって思うよ。初めはシアのことを頭がおかしな変態だと思ってた」
「言うねぇ、女の子相手に」
シアはニヤリと笑って肩を小突いた。
「俺は何もかも失って一度死んだ。でも、シアが俺にもう一度命をくれる。感謝しかないよ。何もかも頼ってばかりだ……。ねぇ……俺、シアに大切だって思ってもらえるようになれるかな」
「さぁね……私には大切な物なんて無かったし、これからも作る気は無い。でも、あなたがいつかそう思ってもらいたいのなら頼ってもらえるように頑張りなさい」
「これからも一緒にいてくれるんだ……ありがとう」
これからもシアと一緒にいたい。そのためには頼られるようにならないと。
「ここに座ろうか」
シアは俺を大きな木の根元に降ろし、俺の隣に座った。
「続きを教えてくれないかな。自分の中で受け止めてからでいいけど」
「うん、大丈夫だよ。メルが死んで俺が倒れた後、目を覚ましたら村であの物置に寝かされていた。倒れていた俺をこの村の旅人が厚意で助けてくれたみたい。メルは倒れていた場所の近くの木の根元に埋められたらしい。俺は不幸中の幸いで、四肢が動かない以外は不完全ながらも生きるには問題の無い程度の神経損傷だった。俺だけが、生き残ってしまった……」
シアはレクロマの手を取って、柔らかく撫でた。すると、苦しみの色をしていた感情も、少しは和らいできた。
「初めは厚意で接してくれていたあの村の人も次第に俺を邪魔者扱いするようになった。食事も残飯を寄せ集めた物を口の中に詰め込まれるだった。まぁ、生かしてくれるだけありがたいんだけど」
シアは再びハチミツを取り出してレクロマの口に運び始めた。
「村の人が話しかけてこなくなっても外から話し声が聞こえてくる。俺の村には生き残りがいないこととか、王の命令で側近の魔法使いが貧しい村を消して口減らしをしていたこととか。何もできないのにただ情報だけが入ってくるのは、とても……辛い……」
レクロマは息を吸い込み、息を整えた。
「でも! シアが俺を動かしてくれた時に誓ったんだ。俺が必ずセルナスト王を殺してみんなの無念を晴らすって」
シアは微笑みながらレクロマを正面から包みこんだ。
「辛かったね、苦しかったね。だけど、そんな苦難はここで終わりにしてあげる」
「ありがとう……」
なんでそんなに、俺を助けてくれるんだ……
レクロマの目からは感謝と歓喜の涙が溢れた。
「まずは、今までレクロマの世話をしてくれた村の人にお礼をしないと」
「うん……」
お礼をしなくてはならないのは分かってはいるが、どうにも気が重い。
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村に帰り、村長の家を訪ねる。シアが玄関をノックすると、背負われたレクロマを見て不審そうな表情を浮かべた白髪の村長が現れた。
「レクロマです。今までこの村で俺の世話をしていただいたお礼を言いに来ました」
「仕方がなく世話をしていただけですよ。死なれてしまっても後味が悪いので──」
シアは村長の嫌な言葉を遮るように話を変えた。
「それじゃあ、レクロマをもらっていいですか?」
「いきなり来てですか? まぁいいですが。その子は村全体の負担なのでね」
村長はわざわざ嫌な言い方をしてくる。シアは何処かから金を取り出して村長に握らせた。
「どうぞ、足りないかもしれないですが」
なんで、シアがこんなにしてくれるんだ……
「こんなにたくさん、いいんですか?」
村長は今までの不審そうな顔から一変して嬉しそうな顔になった。
「あなた方のおかげでレクロマが生きているので」
「それじゃあ、ありがたくいただきますよ」
これじゃあ、ただシアに金を払わせただけだ。俺からも感謝を伝えないと。
「あの……助かりました。今までありがとうございました」
「いいんですよ。私たちはただ世話をしていただけなので」
さっきは負担だって言っていたのに。すごい変わり身だ。
「では、私たちは行きます」
そう言うと、村長は家の中に戻って行った。シアはレクロマを背負ったまま、村を出た。
「私もレクロマと一緒に戦うよ。そのためにも、まずはたくさん食べて体力を戻さないとね! 何が食べたい?」
「え? でもお金は? さっきもお金を払ってもらっちゃって……俺は金を持ってないのに」
「お金は心配しなくていいよ。いろんな村で、問題になってる魔者を討伐してお金を稼いでたから。しばらくは気にしなくてもいいよ」
「でも、それはなおさらもらえないよ。自分で稼いでお金を集めるから」
「どうやって? それは自分で動く練習をしてから返してくれればいいから」
「でも……」
シアは勢いよく地面に俺を降ろした。
「でもって言うのはやめて! 私は厚意を素直に受け入れなさいって言った。あなたはこの国の王を殺して自分の願いを叶えたいんでしょ。それなら私を利用するくらいしてみなさい! 自分の力だけで願いを叶えられるほどこの世界は甘くない。あなただったらわかるはずだよ」
レクロマはシアの言葉に面をくらい、息を呑んだ。
「……ありがとう……シア。ありがとう……」
そうだ、シアは厚意で言ってくれてるんだからそれを断るのはシアの信頼を認めないことになる。それに、遠慮なんてしていたら復讐なんてできない。もっと狂わないと。
「強く言ってごめんね」
シアは俺を抱きしめてからレクロマを背負った。
「それじゃあ、ご飯食べに行こうか。あの村には居たくないでしょ? 他の村に行こうか」
「近くのビレン村で温かい物が食べたい。ビレン村は料理が美味しいらしいから」
「わかった。それでいいんだよ」
「森を反対側に抜けたところにあるらしいよ」
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