ヴァルトの真意

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ヴァルトの真意

 レティアはヴァルトと攻防を繰り広げていた。  レティアは空中を走り回ってヴァルトの攻撃を避けながら風の斬撃を飛ばす。  ヴァルトはレティアに向けてエレスリンネを振り、反撃を続ける。エレスリンネを振ると、足元から現れた無数の魔力の針が飛び出す。  レティアはヴァルトの頭上まで駆け下り、刃を交わらせた。 「あなたは、国民を見ていない自分の富と権力にしか興味のないヴァレリアがこの国の王にふさわしいと思っているの?」  レティアはヴァレリアへの不信感を示すように睨みつけた。 「貴様には分かっていない。ヴァレリア陛下のこの国を想う気持ちが」 「この国を想う気持ち? あの人にそんなものがあるはずないでしょ。無駄に村を破壊して、平和を願った私の両親を殺した」 「平和だと。セルナスト王国の戦争相手であるファレーン王国に併合を持ちかけることがか。不平等な条件になるのは目に見えているのに。それが平和だとでも言うつもりか」  ヴァレリアはレティアをエレスリンネで弾き飛ばした。 「ヴァレリア陛下はこの国をどこにも負けない国にするためにこの国のために富と力を高めている。そのために、足を引っ張る粗末な村を消している。全てこの国を守るためなのだ。犠牲の無い平和は存在しない」 「国民を蔑ろにして守る国なんて……そんなもの……」 「考えの相違だな」  ヴァルトはエレスリンネを両手で持ち、手首だけを回して刃先で円を描いた。すると空中から、魔力の流れが勢いよく放出された。 「あんな王についていなければ、あなたはもっと素晴らしい男になっていたはずなのに……」 「陛下のためでない力に価値など無い。ヴァレリア陛下がいなければ私に力は無かった」 「あなたは強い。天才よ。若くして騎士団長になるなんて」  ヴァルトは天才という言葉に反応して怒りを見せた。 「私が天才だと? 私はただひたすらに陛下のためにと努力していただけのガリ勉だ。私の努力も何も知らないくせによくそんな事が言える。私を、才能だけで努力を欠片もしない者と同じだと?」  ヴァルトは思い切りエレスリンネを握りしめ、レティアに向かって振り下ろした。すると魔力の斬撃が大地を割り、(くう)を裂いた。  レティアは空を蹴って宙を舞いながら斬撃を避け、ヴァルトの前に降り立った。 「えぇ、あなたは天才よ」 「なんだと?」 「あなたは努力の天才。人間なんてものは怠惰なものよ。そんな中、誰にも負けない努力を成すことができるあなたこそ天才ではなくて?」  そう言って再び空中を駆け上がった。  ヴァルトは少し驚いたような顔をしたが、すぐに元の調子を取り戻した。 「なぜそんなことを言う。動揺を誘うつもりか」  レティアはふっと自分に呆れたように笑う。 「あなたは私の敵だとしても私の従兄。それだけで少しは信用できると思わない?」 「思わないな。貴様はヴァレリア陛下の敵だ。私は陛下のために貴様を殺すことだけが今の私の存在意義だ。たとえ従妹だとしてもそれは変わらない」 「あなたは本当に伯父様に似ているわ。伯父様は昔から野心を燃やして、良くも悪くも真っ直ぐだった。そんな伯父様のことは好きだった。が……」  レティアは演奏を開始する瞬間の指揮者のように剣を振り上げ、振り下ろした。その瞬間、巨大な竜巻が起こり、ヴァルトを飲み込んだ。 「ヴァレリア・ド・セルナストリアは私の敵。それを守るというのなら、ヴァルト・ヘイム、あなたにも死んでもらうわ」  ヴァルトは竜巻の中でバランスを取りながら、体ごとエレスリンネを一回転させた。すると、竜巻は切り裂かれて消え去った。 「この程度で殺せると思うなんて、浅はかだな」  レティアが左手を開いて突き出すと、レティアの周辺の空気が歪み始めた。 「死になさい」  そう言って左手を握りしめると、無数の高圧の空気が針状となってヴァルトに向かって飛び出した。  ヴァルトはエレスリンネを両手で振るって空気を切り裂いたが、それでも全てを防ぐことはできず、左腕と左脚を貫通した。 「ぐっ……ぐぅ」  ヴァルトは右腕で左腕を押さえながら膝をついた。 「次で終わらせるわ」  こんな姿、エリネに見せるわけには……  エリネはレクロマの分身を見破り、ヴァルトの姿を観ていた。  ヴァルトは、エリネに向けて自分の戦いに集中しろ、という意味でアイコンタクトを送った。  それでも、エリネはヴァルトの様子をしきりに気にしている。  その瞬間、エリネの視界の端には強く光り輝く光の筋が映った。レクロマが放った光の弾丸だ。 「あぁ……ごめんなさい……お父様」  エリネは死を覚悟して、普通に言葉を発していた。
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