永遠の命

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永遠の命

 エリネが右端からの閃光に死を覚悟した瞬間、左からの赤色と紺色の光が現れた。 「絶対に、こんなところで死なせない」  ヴァルトはレティアの魔法で怪我した左脚を引きずりながら走り、エリネを押しのけた。 「うぁっ……」  エリネはいきなりの衝撃にバランスを崩し、両手を地につけた。  エリネが、衝撃が来た方を向くと、ヴァルトが倒れている。レクロマの放った閃光はヴァルトの腹部を穿孔している。ヴァルトの鎧の胴部は紺色だったはずだが、真っ赤に染まっている。 「何故……何故……何故……」  エリネは自分の目の前で起こっていることが何なのかがわからず、視線が定まらない。  ヴァルトは血だらけの体を横たえながら、右手を伸ばしてエリネの手を取った。 「エリネ、怪我してないね、良かった……」 「謝罪……陳謝……多謝……」 「私は魔力を使ってももうこれ以上……生きれそうもない。エリネは好きに生きて……」  エリネはヴァルトの前に両手をついてヴァルトを見ている。目には涙を(にじ)ませている。 「嫌……嫌……もし、私がここで死ぬとしても私はお父様と一緒にいる」  ヴァルトはすっかり優しい顔になってエリネに微笑みかける。 「やっぱり、普通に話せるんだね」 「やっぱり? え……気づいて……」 「子供の変化に……気づかない親がいて……たまるか……」  エリネは泣き笑い気味にヴァルトに笑い返した。 「おいで……エリネ……」  ヴァルトが弱々しく腕を広げると、エリネはヴァルトを抱き起こして抱きしめた。 「ごめんなさい、私のせいでお父様が……また……」 「子供は親よりも早く死んではいけないんだよ……どんな理由があれど、それは親不孝だ……」  つまり、私は親不孝者だ。陛下への忠義を果たすことはできなかった。 「私はエリネに……記憶を作ってあげられたかな……」  ヴァルトはますます苦しそうに息をしながら、エリネに微笑みかける。 「うん……うん……それはもう……たくさん……」 「人はね……肉体が死んだって……死にはしないんだよ……エリネが私との記憶さえ忘れないでいてくれたら……ずっと一緒に生きていられる……」  ヴァルトはエリネを強く抱きしめ、左頬を優しく撫でた。するとヴァルトの真っ赤な鮮血が、エリネの白い肌に真っ赤な軌跡を残した。 「私と一緒に……生きてくれ……エリネ……愛してるよ……幸せになってね……」  ヴァルトはエリネの右頬にキスをすると、力なく腕を腕を垂らした。体全体で息をしている。 「お父様は生きる理由も生きる方法も無かった私に命をくれた、愛をくれた、思い出をくれた。お父様との記憶は、私の中で永遠に生き続けていく」  エリネはヴァルトを優しく地面に寝かせた。そして、ヴァルトのすぐ近くに置かれていたエレスリンネを手に取った。 「お父様、このエレスリンネを借りるね」  エリネはスッと立ち上がって空中から2人の様子を見ていたレクロマとレティアの方を向いた。 「子供っていうのはね、親に変化は見せたがらないくせに、成長は見せつけたがるものなの。見ててね、私の成長を」  エリネがエレスリンネをレクロマとレティアの方へ向けると、地面が盛り上がり、大きな坂を作り出した。 「すごい魔力」  エリネはエレスリンネを撫でながら坂をゆっくりと登った。 「降りてきなさい」  エリネがレクロマとレティアを睨みながら呼ぶとレティアは坂に降り立ち、レクロマはそのさらに後ろに降りた。 「あなた、剣も使えるのね」 「黙れ、殺すよ」  お父様の肉体が死んでしまう前にこいつらの死を捧げる。  エリネがエレスリンネを振るうと、レティアの周囲に尖った石粒が無数に現れた。  レティアは宙に飛び上がって逃げようとするが、石粒はレティアについていく。 「死ね」  すると石粒はレティアに向かって集まり、貫こうとする。 「マズい、避けないと」  レティアは剣で風を起こし石粒を吹き飛ばそうとするが、それでも石粒は構わずレティアの鎧を貫通して突き刺さる。 「ゔあぁぁぁぁぁ……」  レティアの体からは血が吹き出し、その場に脚から崩れ落ちた。  その瞬間、レクロマがレティアの手を取って飛び上がった。 「生きてるか、レティア」 「え、えぇ……」  レクロマは両手でレティアの脚と背中を抱え直してカミツレの基地の方へ降りて行った。 「逃げるのか! イレギュラー共が!」 「そうよ、私はカミツレのリーダーなんだから、逃げるわけには……」 「何言ってんだ! リーダーだから、ここで死ぬわけにいかないだろ」 「ありがとう、レクロマ君」  レティアは起き上がってレクロマの肩に手をかけ、唇を奪った。 「ファーストキスは血の味ね」  レクロマは大きく後ろにのけ反った。 「何してんだ、こんな時に」 「ごめんなさい、勝手なことして。でも、ありがとう」  カミツレの基地に降り立つと、メンバーの1人が出てきてレティアを受け取った。 「絶対に死なないでね、レクロマ君」 「絶対死なないさ! あとは俺に任せて、安心して休んでいろ」  そう言って飛び上がり、再び坂の上に降り立った。 「気を取り直して再開しようか」 「逃げたのかと思ったよ。駆逐……滅殺……報復……」  エリネはエレスリンネを両手で構え、レクロマは左手を天に掲げて氷柱を十数本空中に創り出した。
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