ずっと会いたかった

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ずっと会いたかった

「生きてたんだね、レッ君」  リレイはがっしりとレクロマを抱き上げる。 「リレイ……本当にリレイなんだね……生きてる……」 「うん……生きてるよ。レッ君も、生きてる……私、レッ君が生きてるかもしれないと思ってずっと探してたんだ……。絶対どこかで生きてるって……」 「リレイ……変わったね。ずっと大人っぽくなった」 「レッ君は何も変わってないね。あの日のまま……ずっと、会いたかったよ。これで私は……」  リレイはさらに強く抱きしめてきた。  その瞬間、シアがレクロマを奪い取ってリレイの腹部を思い切り蹴り飛ばした。 「ぐぁっ……」  リレイは吹き飛んでうずくまった。 「え……? なんで? シア、何してるの?」 「あれは信用できない。レクロマへの感情の節々に真っ黒い殺意を隠してる」 「え? いや……そんなはずないよ。リレイは俺の昔からの一番の友達で……殺意なんて……そんなわけ……ないって……」  リレイは起き上がってマントを脱ぎ落とした。腰には黒い鞘に収められた剣を付け、背中には矢筒が背負われている。 「何なの……その子。その子がアングレディシアってやつなの?」 「リレイ……なんで……知って……」  リレイがシアの事を知ってるはずない。シアの事を知ってるのはセルナスト王家と騎士団くらいのはずなのに。 「私はあなたを殺しに来たんだから。カミツレとの戦闘にあなたがいたことを聞いて、ここにいればあなたが来ると思って待ってた。ちゃんとあなたの分の墓も掘ってあるから安心してね」 「何の冗談……? 殺すなんて、そんなはずないよね……違うよね……?」 「そんなことも分からないの? あなた達兄妹がセレニオ村の平和な日常を奪い去ったくせに」 「俺とメルが? 違う、俺達じゃない。セルナスト王だ。王と側近のゼルビアがセレニオ村を──」 「黙れ。ゼルビア様と陛下を侮辱するな。私はお二人のおかげでお前が村を破壊した後も生きてこれた、私を救ってくれた。全然村に戻って来なかったくせに、村の人の墓も作ってくれなかったくせに。あなたが殺したからでしょ」  確かに、動けなかったとはいえ3年前からは来ようと思えば来れた。過去を受け入れるのが怖くて、避けてたのかもしれない。 「ところで、メル・セルースはどこにいるの?」 「メルは……死んだよ」 「ふぅん、メルも殺したんだ」 「俺が殺したわけじゃ……いや……俺が殺したのかも……」  俺がメルと一緒にすぐに逃げていれば死なずに済んだはずなんだ。 「あの日、セレニオ村には村人は全員いた。あなた達兄妹を除いて。紫色の霧が村を覆った後、みんな苦しみ出した。それから、偶然居合わせたゼルビア様が唯一症状が軽かった私だけを救ってくれた」 *************  5年前、セレニオ村襲撃の日。レクロマはメルと共に川に行っていた。  ゼルビアはセルナスト王から貧しい村をセルナスト王国の地図から消すという命を受けていた。この日、ゼルビアは数人の部下を連れてセレニオ村を消しに来ている。 「ここが、セレニオ村だな。セルナスト王国が、どこにも負けない強い国になるためには足を引っ張るこの村はあってはならない。ヴァレリア陛下の(おっしゃ)ることはもっともだ。この国の平和と発展のためには間引きは必要なんだ」  ゼルビアが村の中に入ると、村長がへりくだって迎えた。 「お待ちしておりました、ゼルビア様。監査、お疲れ様です。────」  定型的な会話を軽く聞き流して終わらせ、ゼルビアが左手を天に向けてから腕を横に振ると一瞬にして毒の魔法がセレニオ村を覆う。  すると、村人は皆苦しそうに息をしながらその場に倒れ込んだ。  リレイはその時、畑の仕事を手伝っていた。リレイは苦しみ始めた父親を抱き起こした。父親は手足が震えている。 「どうしたの? お父さん」  リレイは父親に水を飲ませてみたり人工呼吸してみたりしてみたが、父親の容態は全く良くならなかった。  ゼルビアは、魔法の影響をほとんど受けていないリレイに興味を持った。  強い魔力を持ってるみたいだな。魔法の素質はかなり高い、この子はきっとセルナスト王国の力になってくれるはずだ。  ゼルビアはリレイの側に駆け寄って声を掛けた。 「君、大丈夫?」 「えっ……ゼルビア様。私は、大丈夫です。でも、父が……」  ゼルビアはリレイの父親の首筋や口元に手を当てて、死んでいることを確認した。 「私は君たちを助けに来た。だが、無事なのは君だけだ。残念だが、君のお父さんはもう……」 「そんな……お父さん……」 「この毒の魔法を吸ってはいけない。君は大丈夫なのかもしれないが、念のため早く治療してもらった方がいい。一緒に行こう。別れは辛いかもしれない。だが、ここは危険だ」 「毒の魔法……。分かりました。ありがとうございます、ゼルビア様」  リレイはゼルビアと共に馬に乗り、エデルヴィック宮殿に向かった。
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