誰がために殺す

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誰がために殺す

 リレイはリレリックを鞘から抜き、近づいてきた。 「この剣は私の努力の結晶、リレリック。陛下から賜ったこの剣で貴様を殺す。村の人達のように苦しませて殺してあげるわ」 「努力の結晶か……エリネ・ヘイムも言っていたな。エレスリンネがヴァルトの努力の結晶だって」 「ヴァルトさんもあなたが殺したんでしょ。エリネちゃんの悲しみようは酷かった。見ている私が苦しくなる。何かしてあげようと思っても何もできない。陛下もずっと部屋に(こも)りきりになってしまった。ことごとく私の大切なものを傷つけて……本当に腹が立つ」  リレイは魔法でふわりと浮き上がった。 「魔法、使えるようになったんだね」 「とてつもない努力をしてきたから、あなたを殺すためにね。あなたも剣を抜きなさい」 「嫌だよ……リレイと戦いたくなんてない。村を破壊したのはセルナスト王とゼルビアだ。俺じゃない」 「まだそんなことを言うの? あなたが犯人であることはもう分かりきっていることなのに」 「俺が村の人の墓を作らなかったから? それは、自分の力で動けなかったから……」 「なんなの? その穴だらけのごまかしは……今あなたが生きているのは誰かに生かしてもらってたからでしょ。それなら来ようと思えば来れるはずだよね。村を心配する意志さえあったならね」  リレイは呆れたように見下ろしてくる。  本当にその通りだ。セルナスト王を殺す殺すって言って、俺はこの村を捨てて逃げたことを忘れようとしていた。 「でも、セルナスト王とゼルビアが犯人だっていうのは本当だよ。だから、俺は二人を殺しに行くんだよ。リレイと戦う気なんてない」 「あぁそう……陛下とゼルビア様を殺しに行くって言うのなら、尚更あなたを殺す理由ができた。私は勝手に殺すだけ……」  リレイは矢筒から5、6本の矢を取り出し、指で扇状に広げた。そのまま指を広げて手から矢を離すと、矢は整列してレクロマの方に飛んで行った。  シアはレクロマを背負ったまま跳び上がって矢を避けた。 「何なの! あなた! さっきから邪魔ばっかりして」 「絶対にレクロマを殺させたりしない。殺そうとするのなら私があなたを殺すから」  リレイは戻ってきた矢を空中に静止させている。 「あなたがレッ君をそそのかしたんでしょ。そうでなければ優しかったレッ君が村の人を殺すなんてあり得ない」 「レクロマがそんな人じゃないって分かってるのなら、他に犯人がいるって思わないの?」 「他に誰がやったって言うの! 状況的に見てそいつ以外にいないでしょ!」 「セルナスト王とゼルビアだって言ってるじゃない」 「二人は私を救ってくれたのよ! そんな人たちが犯人なはずないでしょ」 「ふぅん……救ってくれた……ねぇ」 「邪魔するっていうのなら、あなたから殺すことにするよ」 「死なないよ、死ぬ理由はなくなったから。レクロマが私の生を認めてくれたから……」 「シア、やめてよ、戦わないで。シアとリレイが殺し合うなんて嫌だよ」  リレイは少し潤んだ目を隠すようにさっと目を擦った。 「あの頃のレッ君を返してよ。あの頃の……私の後ろをついて来てくれたレッ君を……」 「リレイ……」  リレイだって村を破壊した奴を憎んでる。それなら、仲間になることだってできるはずなんだ。 「シア……」 「戦うなっていうのは無理だよ。レクロマを殺そうとするようなら、戦って抑え込む」 「分かった。……それじゃあ、村の外でお願い……戦ったら、村が傷付いちゃう」 「うん……分かってる」 「あの時、村をあんなにめちゃくちゃにしたくせに今更あなたがそんなことを気にするんだ」 ====================  シアはセレニオ村の外に出た。リレイは浮いたまま外に出て来た。 「覚悟しなさい」  リレイは矢筒から更に矢を取り出して浮かせた。  シアが裾を捲り上げると、太ももに取り付けられた1対のフェアローが現れ、フェアローは浮き上がった。 「初めてかな、このフェアローを使う機会は……ありがたく使うね、レクロマ」 「うん……」  使ってくれるのは嬉しいけど、相手がリレイなんて。 「よくセレニオ村の前でいちゃいちゃできるね。あなたに幸せになる資格なんてないのに」  そうだ、俺は……復讐を果たすまで幸せになんてなっちゃいけないんだ。  シアは無駄にレクロマを傷つけるリレイに苛立ちを覚え始めた。 「あなた、さっきからセレニオ村が、セレニオ村がって言ってるけどレクロマの興味が自分に向かなくなって寂しいだけなんじゃないの?」 「違う……私はセレニオ村を破壊したそいつに復讐するために生きてきた。そいつを殺すことだけが生きている理由なんだ。それを邪魔するあなたも私の敵!」
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