初めての大切

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初めての大切

「レッ君が言うように、本当に陛下とゼルビア様がセレニオ村を破壊したのかもしれない。もしそうだとしても、私を破壊されゆくセレニオ村から救い出して取り立ててくれたのは紛れもなくヴァレリア陛下とゼルビア様なの。たった一人になった私が生きていられるのは陛下たちの愛のおかげ。それが私にとっての本当。あなたが村を破壊したんじゃなくても、ヴァレリア陛下とゼルビア様に危害を加えようとするのなら、あなたに待っているのは死だけ。それはあなたが私の幼馴染で、初恋の相手だったとしても同じこと」  リレイがリレリックを振ると、矢は不規則に動き始めた。矢は見るたびに位置と挙動を変え続けている。  矢は熱気、冷気、電気などそれぞれ違った魔法をかけられている。 「レクロマ、少し待っててね。絶対にレクロマを殺させたりしないから」  シアはレクロマを背負ったまま左手でレクロマの頭を優しく撫でた。  また、俺は守られるだけ……  シアが左薬指の指輪に魔力を軽く流すと、フェアローは高速で周囲を回転し始めた。フェアローは連続的な挙動だけでなく、急速に角度を変える挙動すらもしている。  矢の一本が急激にスピードを上げてシアの左手後方から迫ってきた。フェアローに備えつけられた刃は、それを軽々切り裂いてみせた。シアには余裕が溢れ、その場から一歩も動かずに対処してみせた。 「やっぱり良いよ、この武器は。ありがとね、レクロマ」 「うん……喜んでもらえて良かったよ」  シアが左手をさっさっと振ると、フェアローはリレイに向かって行き、氷の魔法を放ち始めた。氷塊がリレイに当たる寸前、リレイで受け止めると、氷塊は消え去り、魔力はリレリックに吸い込まれていった。 「そんな……」  シアはフェアローで炎流、電雷などの魔法を放ってみるが、全てリレリックに吸収されてしまう。 「すごいでしょ。これがリレリックよ」  リレイはシアに向かって飛んでいき、矢でシアを狙いながらリレリックを構えた。  矢は決定的な動きをせず、シアを惑わせる。 「シア、危ない!」  リレイはシアに向けてリレリックを突き出し、シアはそれを左腕で受け止めた。 「私は死なないって言ったでしょ」  シアはそう言って腕に突き刺さったリレリックを抜こうとした。しかし、体が動かない。 「分かってる。でも、動きは止まった」 「えっ……? 何これ……体が……」 「私は、アングレディシアは剣だって報告を受けてる。つまり、その人間の姿は魔力で構成されているだけだってこと。それなら、リレリックを使えばあなたは魔力を操作できなくなって動けない。私の目的は初めからレッ君だけ」  リレイはレクロマの首を掴んでシアから引き剥がした。 「リレイ……やめ──」 「黙ってろ……お前にはこれから村の人が味わった以上の苦しみを感じてもらわないといけないんだから」  リレイはレクロマを、首を掴んだまま地面に叩きつけた。 「リレリックは返しなさい」  リレイはシアの左腕からリレリックを引き抜き、一瞬で両腕両脚を切り落とした。シアの体はバラバラになって地面に落ちた。シアの傷口からは大量の魔力がとめどなく溢れている。 「レッ君をそそのかした罰よ」 「あ゛……あ゛……あぁぁぁ痛い……痛い……」 「人間になりきれない自分の生まれを呪いなさい」 「シア! 今、助け──」  リレイはレクロマを前方に放り投げた。 「今のあなたに何ができるの? 動くこともできないくせに」  リレイはもう一度レクロマの首を掴み、引きずってセレニオ村に歩いて行った。 「シア! シア! 俺はまた……シアを──」 「黙れ!」 「ゔっ……」  リレイが、(わめ)くレクロマの顔面を思い切り殴ると、レクロマは気を失った。  レクロマは引きずられ続け、腕や脚は擦り切れて血が出てきた。  セレニオ村が見えてきた頃、リレイの後ろから何か音が聞こえた。 「おい、待て」  リレイが後ろを振り返ると、シアが立っていた。 「腕と脚が……何でくっついて……」 「私は死なないって言っただろ」  シアは右手で、レクロマを掴んでいるリレイの手を指差した。 「その手を離せ」 「嫌だと言ったら?」 「殺す」  リレイはレクロマを掴んだまま浮かび上がってさっさと逃げようとした。 「私の……たった一つの大切を……」  シアは怒りに顔を歪ませながら心からの思いが滲み出た。  シアは少し浮き上がり、一瞬だけ指輪を撫でてからありったけの力を込めた右手を思い切り上に掲げた。赤黒い感情がシアを包み込んでいる。  すると、シアの足下の地面から植物のツタとも(つな)とも言えないような太くて真っ赤なヒモのようなものがうねりながら放射状に生え、見える地面全てを覆った。 「何? この魔力は……」  魔力のヒモが伸びきった時、魔力のヒモの端が一斉にリレイに向かっていった。その過程で矢を全て撃ち落とした。  リレイはリレリックを当てて吸収しようとした。しかし、リレリックは魔力のヒモを吸収しきれず、弾かれた。 「しまった……リレリックが……」  リレリックは魔力のヒモの間に飲み込まれていった。そして、リレイの体を魔力のヒモが包んでいく。 「いやだ……いや……死にたくない……レッ君……助けて……」  リレイは、ふと心に浮かんだ一人に助けを求めていた。レクロマにすがるように手を強く握りしめようとしたが、リレイの手から、するりと抜けてしまった。  リレイの体は魔力のヒモに飲み込まれ、レクロマはうねるヒモの表面を移動してシアの前まで流れてきた。  シアは急いでレクロマの脈と息を確認した。 「良かった……生きてる……」  シアはレクロマを強く抱きしめ、そっとキスをした。
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