リレイが遺した物

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リレイが遺した物

 シアは魔力のヒモを消し、地面に降り立った。  レクロマは目を覚ました。 「シア! シア……シア……怪我は……」 「大丈夫だよ。私は死なない。あっ……血が出てる……ごめんね、すぐ治しちゃうね」  シアはレクロマの傷口に手をかざして怪我を治した。 「ありがとう。戦闘は……どうなったの?」 「全く見えてなかったんだよね」 「うん……気を失ってたし……」 「あんなに醜い姿……レクロマには見られたくなかったから……良かった」 「そうなんだ……。そうだ、リレイは……」 「そこにいるよ」  シアは軽く周りを見回して指を差した。  リレイは膝と手をついて泣いている。背中を波打たせて嗚咽して、自分の心の中にあるものを、整理せずにそのまま吐き出している。 「もう……分からない。レッ君が犯人じゃないっていうのは初めから心のどこかではなんとなく分かってた。でも、私を救ってくれた陛下とゼルビア様を疑いたくなかった。全部、レッ君の言う通り陛下とゼルビア様が犯人だって考えれば合点がいく……レッ君を犯人にして自分の心を守りたかっただけ……それなのに、レッ君のことが今でも好きで、レッ君の心が私に向いてないことをアングレディシアのせいにして……アングレディシアから引き離せばレッ君の心はきっと私に戻ってくる、あの頃の幸せな日々に戻れると思ってた。レッ君のことは憎んでいるはずなのに一緒に幸せになりたいと思う自分もいた……村の人たちを置いて幸せになっちゃいけないから、レッ君を憎まなきゃいけないと思った。何が正解なのか、何が幸せなのか、私……どうすれば良かったのか分からない」 「シア……お願い」 「分かった」  シアはレクロマを地面に降ろし、手を握って剣となった。そして、シアを左手に持ち直して立ち上がった。 「リレイ……」  リレイに近づくと、リレイは涙でぐちゃぐちゃの顔を向けてきた。 「レッ君……ごめんね。もう陛下とゼルビア様と戦うこと、反対しない……もう覚悟はできてるから、私を殺していいよ」 「殺さないよ。リレイの気持ちはよく分かる……」 「優しいね、レッ君は……5年前から変わってないね……」 「リレイも一緒に行こう。リレイがいれば、心強い」  レティアに同じこと言われた時には断ってたくせに……俺…… 「私は変わってしまった。昔のようにレッ君と一緒にいれない、一緒に行けない。私は陛下とゼルビア様と敵対することはできない。二人がセレニオ村を破壊した犯人だとしても、二人にもらった愛は本物だった。それに、私は自分を納得させるためだけに無駄にレッ君の心を傷つけて、殺そうとした。私は自分を許せない」  レクロマは正面からリレイを抱き起こして抱きしめた。強く……抱きしめた。 「殺そうとしたからって、それがなんなの? ……俺は生きてる」 「ありがとう、レッ君。ずっと好きだった。ずっとこうしたかった。幸せだよ……」  リレイはすごく安心したように笑いかけてきた。 「レッ君に渡したい物があるの」  リレイはリレリックを手に取ってレクロマの左手に握らせた。 「でも、これはリレイの努力の結晶なんじゃ……」 「だから、レッ君にもらって欲しいの。この剣と私を……」  リレイはリレリックの剣身に手を添え、思い切り自分の腹に突き刺した。 「これで……私はレッ君と……一緒にいれる……」  リレイの腹からは赤黒い血が勢いよく流れ出ている。 「何で……リレイ……死んだら意味ないよ……」 「生き残ってしまった私に……レッ君を殺そうとした私に……陛下を殺す覚悟のない私に……幸せになる資格はない。でも……死ねば私は……やっとレッ君と……一緒にいる資格を得られる……」 「死んじゃだめだよ……リレイ……」  リレイは微笑みながら、苦しそうに息をしている。 「私もレッ君の行く場所に……連れて行って……側に……いるから……」  リレイは最後にレクロマの左手を撫でて、前に倒れ込んできた。 「シアお願いだよ……リレイを治して」  シアは人間になってレクロマを背負う。リレリックをゆっくりと引き抜いて、傷口に手をかざした。傷口は綺麗に閉じていく。……それでもリレイは動かない。 「何で息をしてくれないの……何で笑いかけてくれないの……また昔みたいにずっと一緒にいようよ、バカみたいなことをして笑おうよ」  リレイの表情は、心なしか少し安心して微笑んでいるように見える。  レクロマの目からは涙がつーっと零れた。 「リレイ……リレイに出会えて良かった。今までありがとう…… シア、頼む」  シアはレクロマの手を握って、レクロマは立ち上がった。そしてリレリックの鞘をリレイの腰から取り外し、自分の腰に取り付けた。 「リレイ、この剣はありがたく使わせてもらうね」  レクロマは、シアを左手に持ち替え、リレリックをゆっくりと鞘へと差し込んだ。 「リレイの努力の結晶……俺には、少し重く感じるよ……」  リレリックを鞘に差し込むと、鞘の口に取り付けられた金具とリレリックの鍔がカチリと音を立て、しっかりと収まる。  レクロマは、リレイを抱え上げてセレニオ村の近くの川に降りた。 「この川で、リレイと俺とメルでよく水遊びをしたよね。俺が父さんに怒られて泣いた時には、リレイがここで慰めてくれた。ずっと一緒にいれると思ってた。あの頃のまま時間が進んでいたのなら、どんなに幸せだったんだろう……俺は、リレイとセレニオ村で生き続けて、幸せな日常が待ってるんだと思ってた」  レクロマは立ち上がってセレニオ村に歩いて行った。 「リレイのおかげでセレニオ村はとても、綺麗だよ」
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