別れの苦しみ

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別れの苦しみ

 村の人の墓の前に着いた。リレイを近くの木に背をつかせて、穴を掘り始めた。  木の葉の影の合間を縫って差し込む太陽の光が安らかに眠るリレイの顔をチラチラと光らせる。  リレイが掘ってあった俺の墓の隣だ。魔法で穴を作ることもできるけどそれじゃだめだ。  手で少しずつ穴を掘り進めると、穴を掘りきる頃にはあたりは暗くなっていた。 「綺麗な顔だね。肌はすべすべで、唇は薄くて柔らかそうで、サラサラな空色の美しい髪、まるで寝てるだけかの様に安らかな表情……」  リレイをもう一度強くだきしめてから、穴の中に寝かせる。 「土をかけたら、本当にお別れか……おやすみ、リレイ……」  柔らかい土を軽くかけていくと、リレイとの思い出が込み上がって積み重なってくる。  土をかけ終わって、リレイが背負っていた矢筒にリレイの名前を彫り込む。 『リレイ・ゼアリル』 「美しい名前だね」  矢筒をリレイの墓に差し、その上にリレイが羽織っていたマントをかけ、桔梗を供える。これで墓は完成だ。 「全てが終わったら、必ず帰ってくるよ。弱者を苦しめる者がのさばるこの世界を変えてから」  涙が溢れてくる。別れがこんなに辛いなんて。 「リレイはこんなに辛くて悲しいことを20回以上繰り返したんだね。ごめん……俺がやるべきだったのに」  見回すと、たくさんの墓がそびえ立っている。 ====================  レクロマが木に背をつけて泣いていると、シアが人間になってそっと左側から寄り添って座ってきた。 「シア……何で、俺が生き残ったんだろ……何で俺なんだろ……俺じゃなければ何もかも上手くやれて、リレイも死なずに済んだのかもしれない……」 「セルナスト王が村を壊さなければこうはならなかった。あなたじゃなければもっと上手くできたとかそんなことは無い」 「セルナスト王もゼルビアも、ヴァルトとかリレイが言っているのを聞くと、悪い人には思えないんだよ。本当は悪い人じゃなくて、俺が自分の自己満足だけのために反乱を起こしてるだけなんじゃないかって……」 「善いだけの人間とか悪いだけの人間とかそんな人間存在しない。人間は善い所も悪い所もある。どこがどんな風に良いか、どんな風に悪いか……。そもそも絶対的な善悪なんて存在しない。善とか悪とか、それは人間が個人で生み出してる信頼性のない物。セルナスト王とゼルビアが善いのか悪いのかはレクロマ自身で決めること。もし、セルナスト王とゼルビアが憎いっていうのなら復讐を続ければいいし、憎みきれないっていうのなら復讐を続ける必要はない」 「続けないと……俺は続けないといけない。俺のせいで何人も傷つけて、殺してきた。今更やめることはできない。ここでやめたら、貧しい村を排除して国を強くするという大義名分があったセルナスト王を非難することはできない。俺はただの人殺しになってしまう」 「分かった……そう思うなら、私を頼ってくれればいいから」 「そうだけど……今回もシアだけに戦わせてシアを傷つけて苦しめて……自分を許せない……」 「それじゃあ……私が勝手に大切な物を守ろうとしているってことにすれば自分を許せる?」  シアは俺の髪をサラサラと撫でる。 「大切な物……会ったばかりの頃は大切な物を作らないって言ってたのに……」 「覚えてないよ、3年も前のことなんて」  3年も《・》、か……シアの人生の中のたった一瞬のはずなのに。俺との生活に、少しは刺激を感じてくれているってことなのかな。 「レクロマだけが私を生かしてくれる……私にとって最も大切で、信頼できる物。たった一つの私の居場所だから……」 「ありがとう……俺にとっても大切だよ……全て終わったら、ここで一緒に暮らしたい。シアと一緒に……永遠に……」 「うん、いいよ」  シアはレクロマの頬をそっと撫でた。 ====================  いつの間にか寝ていた……。夢を見なかった、あの日以来初めてだ。  この村に来て、自分の中の引っかかりが少しは解消されたってことなのか…… 「おはよう、レクロマ」 「起きたばっかりで悪いけど、レクロマに一つ提案があるんだ」 「えっ、何? 怖いよ」  シアはレクロマの腰のリレリックを指差した。 「レクロマはこのリレリックの特性、分かってる?」 「魔力を吸収するってことくらいしか……」 「この剣はね、吸収した魔力や魔法を記憶して、無限の可能性を持つ魔道具の様に使うことができるの」  そんなすごい能力があったのか。これがリレイの努力の結晶か。 「そこで提案なんだけど、私の魔力を吸収させれば、リレリックを握ってる間は私を握っていなくても動けるようになるんじゃないかって思う。やってみない? やってみないことには分からないけど、これで動けるなら、一緒に戦えるよ。サプライズにしようかと思ったけど、リレリックはレクロマの物だから勝手にはできないからね」 「お願い、やってみて。でも、触っても平気なの? 腕に突き刺さった時には動けなくなってたけど……」 「大丈夫、体の表面で触れるぶんには問題無いみたい。じゃあ、少し借りるね」  シアはリレリックを引き抜き、柄と刃先を掴んで魔力を流してリレリックに吸収させた。
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