やっと一人で立てる

1/1
前へ
/75ページ
次へ

やっと一人で立てる

 シアは30分程度、リレリックに魔力を注いでいた。リレリックは、一瞬魔法を吸収するだけでは魔法を覚えられないが繰り返し吸収したり長い時間吸収させれば覚えるらしい。 「これで多分魔力を記憶させられたと思うよ。聖剣の力は無理みたいだけど」  シアは座っているレクロマの右手にリレリックを握らせた。 「どう? 動く?」 「うん……動くよ……」  手を握ったり、足を動かしたりできる。 「シア……」 「ん? どうしたの?」  レクロマは立ちきりもしないうちにシアに飛びつくように膝立ちで抱きついた。 「ずっと……ずっとこうしたかった」  シアの温もり、匂い、鼓動をいつも以上に感じる気がする。  シアは柔らかく、温かく微笑みながらレクロマの背中をさすった。 「もぉ……泣かないの。やっと同時に動けるようになったのに」 「いつもシアばっかりが俺を抱きしめて、俺からは抱きしめられない。それがもどかしくて苦しかった。でも、これからは自分の力でシアを抱きしめられる」 「私もずっともどかしかった……戦うのはいつもレクロマで、私は頭に話しかけることしかできなかった」 「俺が弱すぎるから?」 「違うよ……分かってるくせに。意地悪……。戦う時、いつもレクロマが傷ついてるのを感じるだけで……どれだけ、一緒に戦えたらって思っていたか」  シアはふふっと意地悪く笑う。 「まぁ、レクロマが弱いからっていうのも間違ってはいないかもね。レクロマは自分で動けないって悩んですぐに泣いちゃうから、自分だけでも動けるって自負があれば多少は気を強く持てるようになるかもね」 「意地悪はシアの方でしょ」  レクロマがシアの腹をつつくと、シアは児童と戯れる母親のように優しく笑う。 「そうだね」  こうして触れることもできなかった。でも、これからは触ることができるんだ。 「移動も戦闘も何もかもシアに頼りきりで、俺がシアのためにできることは全然なかった。でも、シアにおんぶに抱っこは嫌なんだよ。俺だってシアのためにできることはやりたい」  シアはレクロマの頭を抱きしめた。 「その気持ちだけで、もう足りてるよ。ありがとう」  シアはレクロマの脇を持ち上げて立たせると、村の外に足を向けた。 「練習してみようよ。私もフェアローを使う練習したいし」  レクロマもシアについて行った。レクロマは、シアの歩く速度に合わせるために少し早歩きで歩いている。 「シアと並んで歩けるなんて……」 「そんなに感動しなくていいよ。これからは当たり前になるんだから」  今まではそんな当たり前もできなかったから……今は何もかもが新鮮だ…… ====================  リレリックはシアに比べて小ぶりだが、しっかりと重さはある。振ってみても違和感はあまり無い。 「良いね、リレリック。使いやすい」  でも、何か一つ気になるところがある。 「ん? どうしたの、レクロマ」 「このリレリック、何かありそうなんだけど何があるのか分からないんだよ」 「あぁそれ、もしかして物体操作の魔法じゃない? リレイさんは物体操作魔法が得意そうだったし何度も使っていれば記憶しててもおかしくない」  そうか……リレイの魔法か……  物体操作を意識してリレリックに魔力を込めると、砂粒が浮き上がり、リレリックを横に振ると砂たちはレクロマの指示に従うように流れていった。 「俺も、リレイの力を使えるんだ」  リレイみたいに矢を背負うか。  シアはワンピースの裾をたくし上げ、フェアローを宙に浮かせた。シアは指輪を愛おしそうに撫でながらフェアローを操っている。 「気に入ってくれたんだね、それ」 「レクロマがサプライズしてくれようとした物だよ? 気に入らないはずがないよね」  そんな風に真っ直ぐ言われると、どこか小っ恥ずかしい。 ====================  レクロマとシアは練習として手合わせを始めた。  シアはフェアローを介して魔法を繰り出してきて、俺は魔法でそれを防ぎながらリレリックで攻撃できる位置まで走る。だが、やはりシアの魔法は強烈だ。手加減されていても吹っ飛ばされてしまう。 「やっぱり強いな、シアは。俺が必死で3年間努力していてもシアに並べない」 「レクロマも、リレリックでも十分に動けてるよ。ちょっと悔しいね、私の特権だと思ってたんだけど……」 「でも、すごい不安だよ……シアが近くにいないなんて。シアを近くで感じられていないと、一瞬シアが視界から外れただけで心臓を握りつぶされたみたいに不安に押しつぶされそうになる」 「早く慣れないとだね」 「慣れなきゃいけないの……?」 「レクロマがいいなら構わないよ。わがままだね……」  それってつまりずっと一緒にいてくれるってことか。  シアは呆れたようにレクロマに優しく微笑みかける。だが、シアの中にも不安があるのを感じる。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加