菓子パン最高

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菓子パン最高

「お二人さん、今の見てましたよ。かっこよかったです。出来立てのパンはどうですか? あったかくてふわふわですよ。お二人なら2割引でいいです」  人懐っこそうな男が早口で話しかけてきた。 「パン、良いね。レクロマはどう? パンは好き?」 「好きだよ、昔もよく食べてた」 「じゃあ決まり、二人お願いね」 「わっかりました。どうぞこちらへ」  男は跳ねるようにパン屋に向かって駆けて行った。  少し歩くとシンプルな看板の付いたパン屋があった。看板にはカッコウが止まっている。前は儲かっていたのか、大きめの店構えだ。 「どうぞどうぞ、入ってください」  外装に似合わず、中はゆったりとした空間が広がっていた。左側にはたくさんのパンが並んでいて、右側にはイートインスペースがある。パンのふんわりとした香りが鼻の奥を刺激した。 「美味しそうだね、シア」 「えぇ、すごく美味しそう」  パン屋の男は店の奥の一つだけ離れた席に連れて行った。 「そちらの椅子に座ってお待ちください」  シアは俺を椅子に降ろした。そして、もう一つの椅子を俺の右隣に持ってきて座った。座って正面に見える窓からは広々とした草原が見える。 「とてもいいところね」 「うん、すごくいいところだね」  シアはメニューを開いて見せてくれた。どれも美味しそう。 「良かった、持ち直してくれたね。黄色に戻ったよ」 「うん、パンがとても美味しそうだからね」 「ご注文、お聞きします」  パン屋の男が話しかけてきた。 「ねぇシア、たくさん食べてもいい?」 「良いよ。好きなだけ食べて」 「良いの!? じゃあクリームパン二つとあんぱん一つ、メロンパン一つ、クロワッサン二つ、フレンチトースト三つ」 「……じゃあ私はカレーパンとピザトーストを一つずつ」 「20分ほどお時間よろしいですか?」 「えぇもちろん」 ====================  しばらくすると出来立てのパンのふんわりとした匂いが漂ってきた。大きなトレーに乗ったたくさんのパンがテーブルに置かれた。 「うわぁ美味しそうだな」 「何から食べたい?」 「クロワッサン」  焼きたてのクロワッサンはバターの濃い匂いで鼻をくすぐる。俺が口を開けると、シアがクロワッサンを小さくちぎって口の中に入れる。外側はザクザクして中はフワフワなのにもっちりしている。 「すごい美味しい。ザクザクでフワフワでもっちり!」 「ふふっ……語彙力がなくなるほど美味しかったの?」 「シアも食べてみなよ。びっくりするよ」  シアがクロワッサンの欠片を口に運ぶと急に表情が変わった。 「美味っしい。こんなパン食べたことない」  パン屋の男はシアが頼んだパンを運んできていた。 「そうでしょう。焼きたてのクロワッサンは特に食感が良くて美味しいんですよ。うちのパンは焼きたてでなくても特に美味しいんですがね」  男は自慢げに笑った。 「次はフレンチトーストが食べたい」 「はいはい」  シアはフレンチトーストをちぎり、メープルシロップをたっぷりかけた。皿のフレンチトーストがあった部分にはしっとりとした卵液が染み出している。鼻に近づけると、甘くて温かみのある香ばしい匂いが食欲をそそる。口に入れて一口噛むと、くたくたになるほど染み込んだ卵液が溢れ出し、バニラの香りとメープルシロップの甘みがさらに美味しさを引き立てる。 「美味しい。もっと……もっと食べさせて」 「はい」  ぱくっ……口に入れられたフレンチトーストの欠片は一瞬にして腹の中に消えてしまう。 「はい」  あむっ…… 「はい」  もふっ…… ====================  あぁ……いつの間にか俺が頼んだパンが全て終わってしまった。シアに食べてもらう分も無くなってしまった。 「ごめん、シア。シアの分に渡そうと思ってた分も食べちゃったよ」 「言ったでしょ。私にとって食事は娯楽。レクロマの幸せそうな感情と表情を見るのは食べるよりもよっぽど娯楽なの。黄色の感情を通り越して白い感情すらも発してたよ」 「白ってどんな感情なの?」 「無感情、意識しない感情、疑わない感情。つまりは深層的な感情だけになっているときに白色に見えるの」  そうなのか。俺ってそんなに甘いパンが好きだったんだな。母さんもよくパンを焼いてくれていたしな。
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