復讐の剣舞のために

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復讐の剣舞のために

「ペトラの父親、オリディアの夫は酷い男だった。日常的にペトラとオリディアに暴力を振るって、二人はいつも怯えていて支え合っていた。だが、7年前、ペトラは突然いなくなった。今思えば、この時にペトラの記憶がなくなったんだろう。オリディアはペトラが酷い扱いを受けて、いなくなったのは自分の至らなさのせいだと自分を責めていた」  私が生まれた日か。全く酷い話だ……父親が家族に暴力を振るうなんて。 「ペトラがいなくなって、旦那の暴力は一層増した。そんな時、私がオリディアと出会って、旦那を役人に引き渡してなんとか二人を離婚させることができた。それから私とオリディアが結婚してテリスが生まれた。やっと、オリディアが求めていたささやかな幸せを与えることができたんだ」  ダリオは、思い出すことすら苦しいのか、大きく息を吐いた。 「幸せになった今でも、オリディアはペトラに罪悪感を抱いていて、復讐しに来るんじゃないかって怯えることがある」 「私にそんなつもりはない。私にとってペトラは他人です」 「分かってる。オリディアに関わるも関わらないも好きにしてもらって構わない」 「じゃあ、なるべく関わりたくない。ペトラと混同されるのは迷惑なんですよ」 「そうか……分かった」  エリネが席を立って部屋を出て行こうとすると、テリスがエリネの側に近づいてきた。テリスは俯いて手をいじっている。 「あの……あのね……ごめんなさい……」  テリスはオリディアに諭(さと)されたのか謝ってきた。 「おねえちゃん、ぼくのおねえちゃんなんだよね。ぼく、きょうだいがほしかったんだ」  テリスは屈託のない笑みを浮かべてくる。可愛らしいものだ。  私は、姉弟なんて考えたことなかった。 「そうなの、ありがとう」  エリネが頭を撫でてやると、テリスは嬉しそうに微笑む。 「それじゃあ、帰ります」 「あぁ……話を聞いてくれてありがとう、オリディアも少しは気が楽になると思うよ」 ====================  再び帰路に就きながら、ダリオに言われたことを考えていた。  私はペトラなんかじゃない……私の父はお父様だけ……ペトラは家族の愛も知らずに死んだ。不憫な子……  でも私は違う……お父様に愛してもらった。きっと今も見てくれてる。私がお父様を忘れない限り、お父様は私のそばにいる。  私はペトラとは違う……  お父様がいなくなって天涯孤独のなったと思ってたけど……急に母親だっていう人が来て、弟までできた。  これって嬉しいことなのかな……よく分からないや。 ====================  翌朝、騎士団の訓練場に行くと、サトゥールが剣術の練習をしている。  すごい技術。でも、どこか鬼気迫るところがある。 「おはようございます、テルモさん」  エリネが話しかけると、サトゥールは剣を鞘に収めて振り返ってきた。 「おはよう、あ……えーっと」 「エリネ・ヘイムって言います。昨日はありがとうございました」 「エリネちゃ……さん」  サトゥールは「ちゃん」と言おうとして馴れ馴れしすぎると感じたのか、「さん」に言い直している。 「俺は何もしてないよ」 「いえ、テルモさんのおかげで心が楽になりました」 「そっか……それなら、良かった」 「すごい剣技ですね」 「あぁ……ありがとう。絶対倒さなきゃいけない相手がいるから……もっと強さを磨かなければいけない……」 「私にもいます……倒さなければならない相手が……。お父様の仇……」 「お父様ってもしかして、ヴァルト・ヘイム騎士団長?」 「はい、私の父です。反乱軍のレクロマ・セルースに討たれました」  その瞬間、サトゥールの顔が、鬼を宿しているかのように歪んだ。 「レクロマ・セルース……イレギュラー……」  エリネはサトゥールの肩に手を置くが、小刻みに震えているのを感じる。 「大丈夫ですか?」 「大丈……夫……だよ。大丈夫……」  サトゥールは怒りを抑え、なんともないと自分に言い聞かせようとしている。 「俺の……左腕を斬ったのも、そいつなんだ。俺の一番の敵だ」  エリネはどうしていいのかも分からず、目を泳がしながらサトゥールの右手を取った。 「私も一緒に……私も一緒に戦います」 「君だけだよ、俺の味方だって言ってくれるのは……騎士団の仲間も誰もがたった一人から逃げ帰った腰抜けだって言ってくる……陛下のためと命を張って戦って、負けて帰れば謹慎処分。一緒に戦ったベルノス小隊長も騎士団を辞めることになってしまった」  ベルノス小隊長って……お父様が中隊長だった時の部下だった万年小隊長か。 「今こんなに苦しむくらいなら、あの時殺された方が良かった」  エリネはサトゥールの手を強く掴んで、目をしっかり見た。 「私はお父様に生きていて欲しかった。忘れなければ生きているって言われてもやっぱりそばにいてくれないのは淋しい。それなのに……死んだ方が良かったなんて言うな。生きてる方が良いに決まってる」  サトゥールはハッとして俯いた。 「ありがとう、かっこいいね……エリネさん……」 「私は、自分だけで生きていかなきゃいけなくなったから」  サトゥールはエリネの瞳の中にレクロマへの怒りを見た。 「一緒に、戦おう。一緒に……レクロマ・セルースを殺そう」  サトゥールはエリネの手を強く握り、サトゥールはそれを握り返した。 「えぇ、もちろん」
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