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守りたいから
エリネはヴァレリアに呼ばれて書斎の前に来ていた。
「私がお祖父様に会うなんて……お父様が死ぬ原因を作った私が……」
エリネは3回ノックして、返事が返ってくるのを待ってから中に入った。
書斎に入ると、ヴァレリアが抱きしめてきた。ヴァレリアは目に涙を浮かべていた。
「ごめん、エリネちゃん。しばらくこうしていさせてくれ」
書斎の壁には、お父様の騎士団長就任の時に描かれた肖像画がかかっている。勇ましさの中に、私だけが分かる優しさを感じる。
ヴァレリアは5分間程度エリネを抱きしめた後エリネを離した。そして、エリネの顔を見て、もう一度抱きしめた。
「ヴァルトが殺されてしまった。リレイちゃんもずっと帰ってこない。セレニオ村の跡地に様子を見に行かせた者も帰って来ない……」
そんな……リレイさんも……
「ヴァルトもリレイちゃんも死んでしまった……私の子供たちが……2人も……」
ヴァレリアの声は震えている。
「エリネちゃんはいなくならないで……」
「はい、私はお祖父様を守るために……いなくなったりしません」
ヴァレリアはエリネを離して、少し嫌な顔をした。
「もう……そんなことしなくていいんだよ。私を守るなんて、そんなこと考えなくていい。エリネちゃんには幸せになってもらいたい。だから、自分のが幸せになることだけ考えてくれればいいんだよ」
エリネはヴァレリアをしっかり見据えて言い返す。
「だめです。私はお父様の意志を継ぐと決めました。お父様はお祖父様のためにと生きていました。私もお祖父様を守るためにこの命を捧げます」
「そんなことはさせない。その時は、拘束してでも保護させてもらう。私より先に死んでしまった馬鹿息子が最後に守った私の孫だ。血は繋がっていないとしてもとても立派で大切な孫だ。絶対に死なせない」
ヴァレリアは自分の強い意志を示すように、自分に言い聞かせるように、言う。
「ありがとうございます……陛下……」
でも、お父様の意志を継いで、陛下は絶対に守る。絶対に傷付けさせたりはしない。
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エリネは、ヴァレリアの他愛のない話を聞きながら、書斎に留まっていた。
外から何やら叫び声が聞こえる気がする。
「……この声、なんでしょうか……」
エリネが声についての話題を出すと、ヴァレリアは厳しい顔つきになった。
「きっと……訓練に力を入れている者がいるんだ……気にすることはないよ……」
何かを隠しているのは感じる。
窓の方に近づこうとすると、ヴァレリアは無理矢理話をして意識を話に引き戻そうとしてくる。
「エッ、エリネちゃん、その鎧……新調したんだね。────」
エリネが半ば強引に窓の外を覗くと、遠くの方に騎士団が大勢整列しているのが見える。
「何あれ……あんな集合、私聞いてない……」
ヴァレリアはエリネの腕を握っている。
「頼む……行かないでくれ」
「何なんですか? あれ」
ヴァレリアは言いたくなさそうにしているが、エリネの強い押しに根負けし、話し始めた。
「実は……また隣のファレーン王国が攻めて来たんだ」
「またですか……」
エリネは呆れたように鼻で笑う。
ファレーン王国は、セルナスト王国との間に何十年も昔から慢性的な戦争状態にある国だ。
「それなら……別にいつもみたいに追い返せばいいんじゃ……」
「ヴァルトがいれば……何も心配はなかった。でも、今は統率も取りきれていない……押し返せるかどうかも分からない。そんな中にエリネちゃんを参加させるわけにはいかない」
エリネは掴まれた腕を払った。
「押し返せるかどうかも分からないから、参加しなくちゃいけないんじゃないんですか! 私はお父様の意志を継いでお祖父様を守るために生きているんです。……行ってきます」
エリネは急いで書斎から出て行こうとした。
「エリネちゃん……」
ヴァレリアは背を向けたエリネの右手を取った。
「止めないでください」
「絶対に怪我しないで帰ってくるって誓ってくれ。そうでないと、行かせられない」
「大丈夫です、陛下。私にはお父様が付いていますので……怪我しないで帰ってきます」
ヴァレリアが渋々エリネの手を離すと、エリネは少し頭を下げて走って出て行った。
書斎のドアがパタンと閉じると、ヴァレリアには、後悔が募っていった。
「馬鹿だな……私は。拘束してでも保護するって言ったのにな……」
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