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居候先発見
「甘いものを食べ過ぎてちょっと飽きてきちゃったよ」
「わかってる。あなたが甘党だとしてもあれだけ甘いものを食べてたら流石に飽きちゃう。だからカレーパンとピザトーストを頼んだの」
シアはカレーパンをちぎって俺の口元に近づける。口の周りに充満した甘い匂いにカレーパンのスパイシーな香りが割り込んで来る。甘いパンとは違う食欲が湧き出る。
「口開けて」
さくっ……。あ……うまい。なんなんだこのパン。パンにカレーを入れただけなのに、身体全体を埋め尽くすような幸福感。
「もっと食べさせて」
「はい」
あむ……一口目と変わらない美味しさ。俺が動けたとしたらのたうち回っていたかもしれない。
「ピザトーストも食べさせて」
トーストの上には溶けたチーズが金色に焼けていて、トマトソースが鮮やかな赤色を放っている。ピーマンとサラミのスライスが彩りを添えている。
シアがピザトーストをちぎる様子を見るだけで既に美味しい。持ち上げるととろっとしたチーズが糸を引く。
サクッ……一口噛むと、サクサクのトーストの食感とチーズのクリーミーさが口の中で絶妙に溶け合う。トマトソースの甘酸っぱさが後を引き、ピーマンのシャキシャキ感がアクセントになって、サラミの旨味が全体を引き締めている。
あぁ、久しぶりの満腹だ。すごい美味しかった。また来たい。
「レクロマ、これからどうしたい? 早速復讐に向かうか、少しゆっくりするか」
「まだ自分で動くことに慣れてないからたくさん練習したい。それに、金を稼いでシアに返さないといけないし」
「わかった。しばらくはさっきの森で練習しようか。この村で宿屋を探さなくちゃね」
「それなら、私の家に来ませんか? 私も妻も仕事が忙しく、子供の面倒も見てやれないのです。一緒に遊んでくれる人がいれば、子供も喜んでくれると思います。毎日私たちのパン食べていただければいつまででもどうぞ」
「良いんですか? 俺、動けないので迷惑かけてしまいますよ」
「構いませんよ」
男は嫌そうな顔もせず、スッパリと答える。
「ありがとうございます……えぇと。あっ……私の名前はレクロマ・セルースです。こちらはシアです」
「私の名前はレディン・デレオースと申します。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。レディンさん」
「今日はもう閉店することするので、こちらへ来てください」
レディンはレジの奥の、厨房へのドアとは違うドアを開けて手招きをした。
「パパー、だっこ」
中へ入ると5歳くらいの男の子が走って来てレディンさんに抱きついた。レディンさんは男の子を持ち上げる。
「息子のセリオだ。よろしく頼むよ」
「あれだれ?」
セリオはレクロマたちを指差した。シアは軽くしゃがんでセリオに目線を合わせる。
「初めまして。私のことはシアって呼んでね」
「俺はレクロマ。動けないけど、よろしくね」
「シアちゃん、レッくん」
レッくん……か。リレイも俺をそう呼んでたな。
セリオは俺たちを掴もうとするように手を伸ばした。そしてシアはセリオの手を軽く握ってやる。
「よろしくね」
厨房のドアから女性が入って来た。さっきまで厨房の中で働いているのが見えていた人だ。
「こんにちは、レディンの妻のエレナです」
「事情は聞こえていました。どうぞいつまででも居てもらって構いませんよ。部屋は十分に空いてますから」
「ありがとうございます」
「ねぇねぇ、ふたりはふうふなの?」
セリオは純真な目で俺たちを見つめて言った。
「えっ……違うよ。今日初めて会ったばかりだし」
レディンさんは少し大袈裟に驚いてみせる。
「そうなんですか? てっきりご姉弟なのかと思ってましたよ。別の部屋を用意した方が良いですかね?」
「いえ、同室でお願いします。それでいいいよね、レクロマ?」
「うん、その方がいいよ」
「壁はあまり厚くないので気をつけてくださいね」
エレナさんはニンマリ笑いかけてくる。シアはエレナさんに不敵に笑い返す。
「大丈夫ですよ」
「今日はもうお休みになりますか」
「そうですね、今日は色々あったので休みたいです。お世話になります」
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