桃栗三年

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桃栗三年

 レクロマは椅子に座っている。シアは洗濯をしていた。すると、家の中に歪みが現れた。 「シア!」  レクロマがシアを呼ぶと、シアは急いで飛んできて、レクロマにリレリックを持たせた。  歪みは次第に現実味を帯びていき、やがて1人の男が踏み出してきた。リレイの着ていたものに似たスーツを着た、黒い長髪の男だ。 「君たちがレクロマ・セルースと……アングレティシアか。1人では動けないと聞いていたが……」  男はシアと、レクロマが持つリレリックに視線を移した。 「レクロマ、気を付けて。この男、ものすごい魔力量だよ」 「君がそれを言うのか。もっと強い魔力を有していると言うのに。上空を飛んでいてもここにいるのが一瞬で分かった」 「強い魔力、それにこのスーツ。それじゃあ、こいつが……」 「あぁ、私がゼルビア・スレディオだ。君たち、セルナスト王国に住みつくギンバエを取り除きに来た」  レクロマはリレリックを強く握りしめた。 「やっと見つけたよ、セレニオ村のみんなの仇……」  レクロマは笑みにも似た憎しみの表情を向けていた。 「この村はリレイの故郷だからな……やるなら外に出ようか」 「お前たちが壊したくせに! セレニオ村も! 幸せな日常も!」 「()()()()の幸せな日常を守るためだ。こんなちっぽけな貧しい村何個かを守るために王国がどれほど苦労してきたか分かるか? そこにつけ込まれて国が滅ぼされて何千倍もの国民が死んでいったら?」 「だからって殺すことはなかっただろ! みんなお前たちのせいで死んだんだよ。だから今度は俺がお前とヴァレリアを殺す」 「王国の負担であることも理解せず、切り捨てたら今までの恩も忘れて反乱を起こして……。呆れるよ。それなのに、陛下と私が悪いって文句ばかり……苦しいところは人に任せて幸福ばかりを享受する、そんな貴様たちが正義かとでも言うのか……」 「俺が正義かどうかは分からない。でも、俺にとってお前は悪だ」 「これからセルナスト王国に反旗を翻して何になる。反乱が上手くいったとしてその先に何が残る」 「お前たちがあんなことをしなければ、リレイだって死なずに済んだ!」  ゼルビアは知りたくなかった真実を苦しそうに頭に手を触れ、受け止めた。 「論点をわざとずらしているのか、教養が足りなくてずれてしまうのか……。リレイもやはり死んでしまっていたのか。やっと渡せる時が来たと思ったのに……」  ゼルビアはポケットから取り出した赤く輝く逆三角形のバッジを取り出し、指の腹で軽く拭った。 「君が持っているその剣、リレリックだろ。リレイが陛下に賜った剣だ。君のような死に損ないが持っていていい物ではない。返してもらう」 「リレイの最後にもらった大切な物だ。渡すわけがないだろ」 「私としては、君がリレリックを奪うためにリレイを殺したと思ってるんだがな……。君を殺す理由が増えただけだ」  ゼルビアがレクロマに向けて軽く手を振ると、レクロマとゼルビアの周りだけ空間が歪み始めた。 「それじゃ、行こうか。2人だけでな」  歪みは次第に2人を包み込んでいった。  シアは急いで駆けてきて、右手を差し出してきた。 「レクロマ! 待って! 私の手を握って!」  シアはレクロマの手を握ったが、その瞬間レクロマとゼルビアは消えていった。 「くそ……レクロマ、どこいったの……」  シアは目をつぶりながら左手薬指の指輪を撫でながら、魔力を集中させて周囲の魔力を探っていた。 「見つけた」  見覚えのあるレクロマの魔力の隣に遥かに深い魔力を感じる。 「私のレクロマを奪って……殺してやる」  シアは拳を思い切り握りしめ、魔力を感じた方へ空間を飛び越えていった。 ====================  レクロマは緑に囲まれた山あいの場所にゼルビアと向かい合って立っていた。  レクロマはリレリックを水平に持ち上げ、その周りには十数もの巨大な氷柱を浮かばせた。氷柱たちは円状に並び、ゆっくりと回っている。  シアがいなくても……。決めただろ、必要以上にシアを復讐に巻き込まないって。目の前に()()ゼルビアがいる。俺の敵が……。覚悟を決めろ。 「アングレティシアがいなくて不安か? 剣先が震えているぞ」  そう言われて、熱くなっていた全身の血が一気に落ち着いていくのを感じた。 「ふぅ……俺だけでも戦えるってことを、シアに見せつける」  その時、レクロマの左肩に手が触れた。 「それじゃあ、隣で見せてもらうね」  レクロマは振り向くこともなく、自分の肩に置かれたシアの手に左手を重ね、軽く撫でた。 「ありがとう、シア」  シアはゆっくりと手を引き、ドレスのスカートをたくしあげてフェアローを浮かせた。
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