蟷螂の斧

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蟷螂の斧

「アングレティシアも来たか。1人ずつ処理していこうかと思ったが、一気に除去できると考えれば、まぁいいだろ」  こいつはシアを人扱いしてくれるのか。だが……  レクロマがリレリックを振り上げるとレクロマは浮き上がり、氷柱たちは物体操作の魔法で、今までのただ飛んでいくだけとは違う複雑な挙動を始めた。 「リレリックを我が物顔で使うなんて……憎たらしいな」  ゼルビアは周囲の重力を高め、氷柱を地面に叩き落とした。    ゼルビアが手のひらを上に向けて軽く空を指さすと、魔力は一瞬で天に登っていき雲は黒く染まった。 「シア、避けろ」  シアとレクロマが後ろに避けると、目の前には底の見えない巨大な穴が現れた。 「君たちの墓にしてやる」  ここでも俺の墓か……。でも、入るならリレイが掘ってくれた墓だな。 「そこの山の斜面が見えるか」  ゼルビアは木が1本も生えていない美しい緑の山をあごでしゃくった。均等な距離感で白い石が生えている。 「反乱軍が殺した者たちの墓だ。あの右手に見える墓は君たちが殺した者たちのものだ。多くの民のために命を散らした。いや、殺された。君にね」  ゼルビアは見下したように眼球だけをレクロマに向けた。 「皆優秀で、セルナスト王国のために生きてくれた者たちだった。村の人のためっていう大義名分を掲げて自分だけのために人を殺す君とは違う」 「黙れ! お前が殺したせいだろうが!」  シアは後ろから優しくレクロマの耳に両手を当てた。 「もう聞かなくていいよ。何を言われても復讐する気は収まらないでしょ」  レクロマは目をつぶり、左手でシアの手を撫でた。 「ありがとう。落ち着いた」  レクロマが両手でリレリックを構えるとシアは手を離し、フェアローを操り始めた。  ゼルビアに向けたリレリックに魔力を込めるとレクロマの体は一瞬の閃光を放ち、次の瞬間には電雷となってゼルビアに向かっていた。 「死ね! ゼルビア・スレディオ! セレニオ村の仇だ」  レクロマは電雷から姿を現し、空中で回転しながらゼルビアを斬りつけた。はずだった…… 「え……?」 「武器を持たず、魔法しか使わないから懐に入れば勝てると思ったのか?」  ゼルビアはいつのまにかレクロマの背後に移動していた。 「甘い!」  ゼルビアは手をレクロマに近づけて魔法を放とうとした。その瞬間、青白い炎がゼルビアを覆い、吹き飛んだ。 「ぐあっ……」 「私もあなたを殺そうとしてること、忘れないでね」  シアはニヤリと微笑み、指輪を撫でた。  「果てしない魔法だ。魔法で防がなかったら骨も残らなかったな」 「レクロマがあなたたちを殺すためのお膳立てをするのが私の役目。それに、私からレクロマを一瞬でも引き離そうとしたあなたは私にとっても敵」  ゼルビアは結界魔法を消し、再び立ち上がった。   「なぜ君はレクロマ・セルースにそこまで尽くせる……。セレニオ村の者でもないのに」  シアは浮かび上がり、指を重ねて手を合わせた。 「あなたは生きていますか?」 「は? ……当たり前だろ」 「それはなぜですか?」 「なぜって……」 「それはあなたの生を認めてくれる存在がいるからでしょう? 私にはいますよ」  ゼルビアが話題を打ち消すように正面で腕を軽く振ると、周囲の地面から何十もの尖った巌が飛び出して浮き上がった。 「物体操作の魔法をリレイに教えたのが誰か、君たちに教えてやろう」  ゼルビアが操る巌は滑らかに、かつ高速に動きながら2人を惑わせてきた。 「私がこの岩をなんとかするからレクロマはゼルビアを討つことだけを考えて」 「分かった」  シアはフェアローから現れた熾炎の柱で巌を溶かしていた。  レクロマは翼を出して飛び上がり、伸ばした左手を握りしめた。すると、ゼルビアの周りの空気中の水分は小さくパチパチッと音を立てながら、氷の形を作り上げていった。形作られた氷のトゲはしなやかな硬さを持ち、ゼルビアに向けて伸びていく。しかし、氷のトゲはすぐにレクロマの思う通りには動かなくなり、今度はレクロマに向かってきた。 「リレイの力を借りただけのそんな魔法、簡単に制御を奪える」  レクロマの正面に向かってきた瞬間、レクロマはリレリックで円を描いて氷のトゲを切り落とした。 「食らえ!」  そのままゼルビアに向けてリレリックを振り上げると、竜巻と共に踊り出した氷の刃がゼルビアを巻き込んでゼルビアの体を切り裂いた。 「これがなんだ」  流されながら、ゼルビアは両手を振り広げた。すると、竜巻は根本(ねもと)から凍り始め、動きを止めた。 「すごいな。でも、これくらい強いやつじゃないと復讐に価値がなくなってしまう」
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