3. すずらん

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「あの、これ、送ることってできますか?」 「すずらん、ですか?」 「はい」 「大丈夫ですよ。メッセージカードも一緒にお付けしますか?」 「あ、それじゃあ」 「では、いくつかご用意しますので、お好きなのを選んでください」  そこで幸樹は、美月のイメージに近いライトグリーンのカードに、 『誕生日おめでとう。美月の24歳が、ますます輝きますように』  と添えた。 「直接お渡しではなく、お送りする形でよろしかったですか?」  なつみが確認するのに、 「はい。それでお願いします。サプライズにしたいので」  そうは言ったが、本当は今年も結局、美月の都合がつかなくて会えないから。 「かしこまりました。では、こちらにお届けご希望日時と、お届け先、そして、お客様のご住所、お名前、連絡の取れるお電話番号をご記入お願いします」  と、宅配便の伝票とボールペンを用意してくれた。 (手慣れていながら、ゆったりとやさしくて、まるで妖精のような人)  なつみの仕事ぶりに、幸樹はそんなことを感じながら、伝票の上でペンを走らせた。 「では、5月1日の、夜19時~21時の間でよろしいですね?」 「はい。よろしくお願いします」 「かしこまりました。それで、サプライズなのに大変恐縮なんですけど……」  伝票を受け取りながら、なつみが申し訳なさそうな顔になり、 「すずらんは、長持ちしないお花なので、できれば1回で受け取っていただきたいんですね。なので、そのようにだけでもお伝えいただければありがたいのですが……」  控え目だけれど、伝えるべきことはしっかり伝えようとしてくれている。 「わかりました。うまく伝えておきます」 「ありがとうございます」  そして、店を出たところで幸樹が、 「では、よろしくお願いします」  と頭を下げると、なつみが「はい、かしこまりました」と言ってから、ニコリとして、 「幸せの再来、です」 「え?」 「すずらんの花言葉です」 「……そうなんですか?」 「はい。素敵な贈り物ですね。彼女さん、喜びますよ」  なつみはそう言うと、両手を揃え、「では」と丁寧に頭を下げ、店の中に消えていった。  もちろん、幸樹にはそんな花言葉の知識などなかったけれど……。
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