1. 花園生花店

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1. 花園生花店

 社会人になって4カ月になる幸樹(こうき)には、最近、仕事に疲れた帰りに、立ち寄る花屋がある。  駅までのビジネス街の歩道沿いにある、『花園生花店』。  こぢんまりとしたお店だったが、やさしい花ぞろえが、いい癒しの空間なのだ。  その日も幸樹は、店先から空を見上げるように咲く一輪差しのヒマワリを見つめていた。  そこに、いつもは奥で花の世話をしている、女性の店員が近づいてきて、 「よろしければ、どうぞ」  と、紙コップを差し出した。  麦茶のようだった。 「今日はひときわ蒸し暑いですからね」  と、女性店員は微笑を向ける。 「あぁ……ありがとうございます」 「ごゆっくり、見ていってくださいね」  彼女はそう言うと、また奥に引っ込み、切り花の仕込みを続けた。  小さなお店には、同年代に見える彼女がいつも一人でいた。  『花園』という名前らしかった。  胸に付けられた小さなネームプレートにそう書かれていたから。  清楚な雰囲気の彼女には、初めからいいイメージを持っていた。  ちょうど、強烈な喉の渇きを覚えていた幸樹は、『ゴクッ』と、麦茶を一気に飲み干した。  火照った体に爽快感が走る。  奥にいるなつみに視線を向けると、彼女は、穏やかな表情で、手元の花の世話をしている。 「ごちそうさまでした」  彼女に向けて紙コップを掲げると、顔を上げたなつみが、 「あ、いえいえ」  と奥から出てきて、 「じゃ、それ、いただきます」  空になった紙コップを受け取り、 「ヒマワリ、好きですか?」  素直な長い髪の中の色白の頬に、微笑を浮かべた。
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