6. ふたたび、花園生花店

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6. ふたたび、花園生花店

(こんな気持ちで行くなんてダメだ……)  初めそう思った。しかし、今夜だけは、もう強がるのはやめよう、そう考え直した。  癒しを求める心に、素直に従うことにした。  いつもとは反対の、駅側から花園生花店の近くまで来ると、ちょうどなつみが外に出てきて、何か作業を始めた。  7時少し前。 (あっ、そうか……)  もう閉店時間だった。ならば仕方がない、と、向きを変えようとした時、なつみがふと顔をこちらに向けた。 (あっ!)  というように、口が開く。続いて、あの安らぎの微笑を浮かべ、小さく会釈をしてくれた。  導かれるように、彼女に近づく。 「お疲れさまでした。今日は遅いんですね」  なつみが、やんわりとした口調で迎えてくれた。そのことにホッとしながら、 「もう閉店の時間ですよね?」 「はい。お花たちも、夜はしっかり眠らせてあげないと。この街は夜も明るすぎますから」  なつみはそう言って、目の前の3車線の国道を行き交うたくさんの車に目を向ける。 「確かに、そうですね」 「日本人は、忙しすぎですよ」 「……ホント、そうですよね」  並んで車のテールライトを見送りながら、幸樹の頭には、多忙な美月のことが浮かんでいた。と、 「何かありました?」  なつみが、やさしい口調のまま訊いてきた。
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