6. ふたたび、花園生花店

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「りんどうの花言葉って、何だと思います?」 「えっ、何だろう……過ぎゆく夏、とかですか?」  全然知らないけれど、今の時期に咲く青い花ということで、イメージを口にしてみた。と、なつみはニコリとして、 「いい線いってます」 「でも、違うんですね?」 「うーん、そうですね。よかったら、帰ってから調べてみてください。あ、それ、袋に入れますね」  なつみはそう言うと、奥からビニールの手提げ袋を持ってきて、りんどうの鉢植えを入れ、両手で持ち手を広げ、「はい」と手渡してくれた。そして、 「またのご来店、お待ちしています」  いつもそうしてくれるように、両手を揃え、丁寧にお辞儀をしたが、今夜はそれだけでなく、胸元で手を振ってくれた。  幸樹も、つられて思わず手を振り返した。  美月との別れの悲しい気持ちが、ふんわりとした綿毛に包まれて消えていくような気がした。 「帰ったら調べてみてください」と言われたが、それまで待てなくて、帰宅の電車の中でスマホ検索してみた。すると、 『勝利』『正義』『誠実』  いろいろ出てきたが、最後に書かれている言葉に、幸樹の目が釘付けになった。 『あなたの悲しみに寄り添う』 (まさか……)  そんな思いの一方で、なつみのやさしい微笑が幸樹の頭の中に広がっていた。
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