1. 花園生花店

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「あ、はい……」  答えた幸樹の胸が鼓動を打つ。 「ヒマワリ、いいですよね。いかにも夏、っていう感じで」  そんな幸樹の心の動きに気づかないかのように、なつみは、誇らしげな一輪を眩しげに見上げる。  幸樹も一緒にヒマワリを見上げ、 「そうですね。こんなに暑いのに、強く立って咲いて」 「そう。暑さになんかに負けないぞ、って胸を張ってるみたいで」 「はい。おかげで元気が出てきましたよ」 「それはよかったです」  なつみはそう言って、まるでペットにするように、ヒマワリの茎をちょっと撫でて見せた。 「じゃ、ホント、今日はごちそうさまでした。麦茶まで」  幸樹がそう言って立ち去ろうとすると、なつみが、 「いえいえ。また、疲れたらいつでも寄って下さい」  やさしい笑みを向ける。それにまた、癒される。 「ありがとうございます。いつも見るだけなのに……」 「いえいえ。そんなことないですよ。いつぞやは、すずらん、ご購入いただいてますし。それに、見てもらえるだけで、お花たちはきっと喜んでるわ」  西日を受けて眩しそうななつみが、そう言って愛しげな眼差しを花たちに向ける。  なるほど、そう言われれば、そう見えてくるから不思議だ。 「じゃあ、また寄らせていただきます」  幸樹が言うと、なつみは両手を揃え、丁寧にお辞儀をした。  気づくと、心の中の重しが、どこかへ消え去っていた。
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