2. 美月とのこと

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2. 美月とのこと

 実際、幸樹は疲れていた。  スタートしたばかりの社会人生活に、というのもあるが、一番は、大学時代から付き合っていた美月との関係が、うまくいかなくなっていたこと。  彼女は、大学で1学年先輩だった。  お互い、地方から出て来て一人暮らし。  サークルで出会ったのだが、出身高校まで一緒だと分かり、会話が弾んだのがきっかけ。  どちらかと言えば、人見知りで大人しい幸樹。姉ご肌の美月は、そんな幸樹のよき相談役でもあった。  初めての東京暮らしの幸樹にとって、頼りになる存在の彼女と、気づいたら付き合っていた。  順調だった二人の関係に、変化が訪れたのは、美月が卒業してから。  都内の会社に就職後も、彼女は同じアパートで一人暮らしを続けていた。  だから、初めのうちは、お互いのアパートを行き来した。  美月はよく、会社ってこんなところだよ、みたいな話をしてくれた。  来年就職となる幸樹も、彼女の話は興味深かった。  ところが、美月の新人研修が終えた7月から、彼女と会う機会が徐々に減っていく。  営業部に配属となった彼女は、仕事に慣れるので精一杯なようだった。  帰宅も深夜。  休日も、仕事のための自己研鑚をするか、疲れ果てて寝ているかだった。  自ずと、デートの機会もなくなる。 「ごめんね。ちょっと疲れてるんだ……」  たまの約束もキャンセルされる。 「しょうがないよ。社会人一年目だから」  自分が年下とは言え、小さい男だと思われたくなくて、電話越しに余裕があるふうを装った。 「ホントごめん。来月の幸樹の誕生日には、埋め合わせするから」 「俺は大丈夫だよ。それより、営業の仕事、充実しているみたいで、良かったじゃん」 「……」 「俺のことは気にしないで、仕事、頑張って」 「……幸樹、ごめん」 「だからいいって」  言葉では平気を装っても、会えないイライラは伝わっていたと思う。  でも、美月はそれ以上、何も言わなかった。  結局、9月の幸樹の誕生日の約束もキャンセルになった。 「取引先が、急に今夜じゃないとって言ってきて」 「それじゃあしょうがないよね」 「ホントごめん」 「いいよ。今が大事な時期だろ?美月にとって」 「……ありがとう」  精一杯の強がりに、美月は申し訳なさげに言った。
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