2. 美月とのこと

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 7月以来、ゆっくり会えたのは正月ぐらい。  まだ大学生の幸樹は長い冬休みだったが、美月の帰省は、2泊3日の強行軍。  それでも、時間をやり繰りしてくれた彼女と、元日に地元の神社へ2人で初詣に行った。  その時だけは、お互いに大学生だった頃に戻ったような時間だった。  ベンチに座って、露店で買ったたこ焼きを二人で食べながら、美月が 「あー、仕事に戻りたくない!」 「じゃあ、俺と同じ会社に入り直せばいいじゃん」 「ホント、それができたらね」  美月はそう言って、ふーっとため息をつく。 「仕事、キツイの?」 「そりゃあね。先輩たちが開拓してきた大事な顧客ばかりだし。気を使うよ。それに、新規開拓もしなきゃだし」 「そんなに1年目からいろいろ?」 「まぁ、そこまでやんなくてもって思うけど。仙道さんがプレッシャーかけてくるからさ」 「……仙道さん?」 「あ、私の教育担当の先輩ね」  美月は笑って、残りのたこ焼きをたいらげた。  疲れた顔でキツいようなことを言っているけど、充実しているような笑顔に、幸樹には見えた。  それがちょっと羨ましくもあり、同時に、遥か先へ行ってしまったような寂しさも感じた。 「ま、幸樹もわかるよ、もうじき」  彼女はそう言うと、さっと立ち上がり、 「ねえ、おみくじ引こうよ」  早歩きでおみくじ売場に行った。
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