2. 美月とのこと

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 お互い、ドキドキしながら自分のを開く。 「末吉……」  幸樹が呟く。  目の前の美月が、口をへの字にして幸樹を見る。 「え?美月は?」  明らかに良くはなさ気な表情の彼女は、 「私も」  はい、というふうに、おみくじを向けて見せてから、 「でも、末吉ってことは、これから運が上がるってことだから」  気を取り直すように言った。  それから、お互いのおみくじを交換して、書いてあることを読んだ。  仕事運は、二人とも悪くなかった。奢らずに、地道に努力を続ければ吉……そんな内容。  一番気になっていた恋愛運は……。 「道ならぬ恋に注意……だって」  幸樹が読み上げたのは、美月の引いたおみくじ。  その顔に不安が浮かんでいたのか、 「大丈夫だよ。仕事でいっぱいいっぱいで、幸樹と会う時間もないのに、道ならぬ恋なんて入り込む余地ないから」  真面目な口調で答えた。それがかえって美月らしくないなと思いながら、 「だよね。俺の恋愛運は……」 「障害多し、だって」 「あぁ、まんまだね」 「じゃ、括りつけて帰ろっか」  二人で傍の木の枝に結んだ。  お正月らしく、おみくじだらけの枝が、雪が積もったようにたわわになっている。 「いつ帰るの?」  家路に就きながら、美月に訊いた。 「明日の午後。4日から仕事だから」 「じゃあ、明日帰る前に会える?」 「ごめん。明日は年始回りなんだ」 「……そっか。じゃあ仕方ないね」  去年何度も繰り返したような会話だなぁと思いながら、元日の美月との初詣は終わった。  それ以降はまた、たまに電話で少し話すだけの生活に戻った。  そして、春が来て、幸樹も都内の会社に就職。  そうなれば、時間は加速度的に過ぎていく。  あっという間に、美月の誕生日が近づいてきた。
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