4. 美月へのプレゼント

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4. 美月へのプレゼント

 美月には、その後すぐにLINEをした。  5月1日の夜7時過ぎて間もなく。美月から電話がきた。 「幸樹、ありがとう!」 「おう!びっくりした?」 「うん」 「よっしゃ!」 「そういうことだったのね。一昨日のLINE。なんでそんなこと言うんだろうって思ったけど……」  そう。忙しくて帰れないから、という美月に、じゃあ逆に、9時までは絶対会社にいてほしいとだけLINEしておいたのだ。 「ごめん。変なこと言って」 「ううん……嬉しいよ。会えなくてごめんね」 「だから、その分もっと輝いてって」 「うん。わかった。幸樹も……」 「……ん?」 「頑張って。新人研修」 「ありがと」 「……じゃ」 「あっ、待って」 「……何?」 「……いや、ごめん、何でもない」 「なに、変な人……あ、ごめん。課長が呼んでるから、これで」 「わかった。じゃ」  それで電話は終わった。 (花言葉、知ってる?)  最後にそう聞こうと思ったけれど……。  これでいいんだ、そう言い聞かせた。  それから幸樹は、研修、そして配属先での仕事に打ち込んだ。  先輩や上司は、言葉は丁寧だったが、求めてくるものは高くて、目の前の課題をこなすのに精一杯だった。  自然、美月との連絡も間遠になっていく。  週1,2回のLINEか電話。それも短いもの。  それでも、つながりは続いているものと思っていた。  職場が残業をしない方針なので、定時に上がれるのはありがたかったが、その分、濃密な毎日。帰る頃には、心身ともにクタクタになる。  花園生花店は、そんな幸樹を癒してくれる存在だ。 「喜んでくれました?」  7月になったばかりの頃、久しぶりに足を止めて、店頭に咲く花を見ていると、奥から出てきたなつみが声をかけてきた。 「……あぁ」  言葉を交わすのは、美月にすずらんを送って以来だったが、なつみが何のことを訊いているのかはすぐに分かった。 「ありがとうございました。おかげで、メッチャ喜んでくれました」 「よかったですね。じゃあ、お返しが楽しみですね」  なつみまで嬉しそうに言う。 「お返し、ですか?」 「お誕生日ですよ。いつなんですか?」  控え目なのに、心のツボを掴むような会話をしてくる。なつみはそんな人だった。 「9月です。9月10日」 「じゃあ、2ヶ月後……楽しみですね」  なつみはそれだけ言って、独特のやさしい笑みを浮かべ、奥へ戻っていった。  なつみにそう言われると、心がポッと温かくなる。 (期待してみようかな)  お互いの忙しさに、無いだろうと思っていたのだが、そんな気分が生まれてきていた。  だけど、8月も終わろうとしていたある日の夜、その期待は打ち消されることになる。
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