5. 別れ

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5. 別れ

『会って話がしたい』  珍しく、美月からLINEでそう言ってきた。  会社の帰り、美月が指定してきた駅前の喫茶店に行くと、彼女はもう来ていて、奥の2人がけの席から手を振った。  席に着きながら幸樹が訊く。 「こんなに早く、仕事、大丈夫なの?」 「うん。大丈夫。この後、ちょうど近くの営業先に行く用があるから」  美月はそう言って、ちょっと疲れた笑顔を向けてから、 「アイスコーヒーでいい?」 「おっ」 「すいません、アイスコーヒー2つで」  パパッと注文を済ませた。  疲れていても、パキパキした感じは変わっていない。 「どう?仕事は」  おしぼりで手を拭きながら、美月が訊いてきた。 「大変。美月が去年言ってたことがわかるよ」 「だよね。新人は特にね。右も左もわかんないし、覚えることだらけで」 「そうそう。だからって、待ってはくれないし」 「わかる。それに今は人手不足だから、雑用も全部やんなきゃだし、キツイね」  と、少し日焼けした顔を顰めながら、 「まぁ、石の上にも3年だと思って頑張ってるよ。古い言い方だけどさ」  と苦笑してみせた。そこに、 「お待たせいたしました。アイスコーヒーお2つでございます」  黒の蝶ネクタイの中年の男性店員が、縦長のグラスをテーブルに置く。  セットし終えるのを、黙って見つめる。 「ごゆっくりどうぞ」  店員が去るのを待って、お互いに、ストローでひと口すすったところで、美月が改まった顔で、 「話、なんだけど」  グラスを見詰めたまま言った。
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