じはんき、じはんき。

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じはんき、じはんき。

 これは、私がまだ小学生だった頃の話。  私が通っていた小学校には、いわゆる林間学校っていうやつがあった。小学校五年生は林間学校で、六年生は修学旅行。私は六年生の修学旅行より、五年生の林間学校の方がずっとキツかったし、緊張した覚えがある。  それもそうだろう。小学生が、親がいない環境で施設にお泊りをする。多くの子供達にとっては初めての経験で、私もその例にもれなかったのだから。  忘れ物をしたらどうしよう。  きちんと荷物をチェックしたつもりなのに、いざ到着して荷物を開けたらみつからないものがあったらどうしよう。  うっかり櫛やハブラシがなくなってしまったらどうしよう。  朝起きられなかったら、スケジュールを間違えて置いていかれてしまったら、などなどなどなど。  それにくわえて、山登りというイベントである。楽しみな気持ちもあったけれど、それ以上に私は不安で仕方なかった。なんといっても、持久走の授業でいつも最下位になるほど私は体力がなかったのだから。  加えて、五年生のクラスには、ものすごく仲良しの友達がいなかった。四年生まで仲が良かった友達とはみんな別々のクラスになってしまい、この林間学校の班も頼み込んで女の子たちのグループに入れて貰ったのである。 「私、山登りできる自信ない……。みんなの足を引っ張っちゃいそう」  唯一幸いなのは。そのグループのリーダーが、雪奈(ゆきな)ちゃんというしっかりものの女の子だったということだ。私がぽつりと呟いたのを拾って、豪快に背中を叩いてくれたのである。 「大丈夫だって(あき)ちゃん。山登りなんて、あたしだって経験ないぜ?他のみんなだって、ほとんどやったことないって言ってるし。みんな素人なんだから、怖いことなんかなんもないよ!」 「そうかなあ?」 「そうそう。それに、班長のあたしがちゃんとみんなのこと見てるから!絶対置いてったりしないから、心配すんな。な?」  男の子みたいなショートカットで、足が速くて元気いっぱいで、クラスの中心人物だった雪奈ちゃん。彼女が大丈夫、と言ってくれるとなんだか本当に平気な気がしてしまう。 「……うん、ありがとう雪奈ちゃん。私、頑張るね」 「おう」  彼女と一緒なら、きっと大丈夫だろう。この時はそう思っていた。
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