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いつの間にか、山道を歩いているのは私達五人だけになっている。他の登山者とすれ違う気配もない。
――ひょっとして、道、間違えた?うそ……。
段々と嫌な予感がしてくる。ごくり、とねばった唾を飲みこみ、水筒を開けた。2リットルいっぱいに水を入れてきたはずなのに、随分残り少なくなってしまっている。水を飲みながら、危機感を感じてしまった。果たして、次の水道がある場所まで水が足りてくれるだろうか。
「あ」
不意に、少女の一人が声を上げた。
「自販機ある!」
「ええ!?」
顔を上げた私は、思わず固まったしまった。坂道の途中に、ぽつんと古びた自販機が置かれているのである。一体こんな道で、誰が飲み物を買うというのだろう。というか、電源はどこから取っているのか。
――うそ。さっきまでアレ、あった?
私が“喉が渇いた”と言った途端自販機が出現した。そんな気がしてならなかった。
「やったー!喉乾いてたんだ。買う買う」
「うちもー」
五人のうち、二人の少女が自販機に飛びついてしまう。
「あ、ちょっと!」
私と雪奈ちゃんが慌ててそれを追いかけた。何かがおかしい。確かに、売っているお茶やジュースは、コンビニなんかでも見かける普通のラインナップだ。おーいお茶、ポカリ、アクエリ、ファンタ、CCレモン。子供達が普通に飲む、好きそうなお茶やジュースばかり。
しかも安い。当時の価格でも、500ミリペットボトルが50円で自販機で売ってるなんてことはまずなかったはずだ。そしてこの価格なら、小学生たちが持たされたお小遣いでも十分買うことができる。本音を言うなら、私も一本買ってしまいたいところだったのだが。
「やめときなよ、二人とも!」
雪奈ちゃんが、いつになく険しい声で叫んだ。
「なんか変だよこの自販機!飲まない方がいいって!」
「えええ、なんで?」
「だって喉乾いた。もう無理、耐えられない」
「だから、駄目だってば!」
いくら彼女が言っても二人はまったく聞かず、ジュースを購入してしまった。どうしよう、と私は固まってしまう。二人がすぐに蓋を開け、喉を鳴らして飲んでいるのをみると自分も飲みたくなってしまう。
「……だめ」
しかし、私が迷っているうちに、雪奈ちゃんは私の手を引っ張って歩き始めてしまった。
「駄目だからね。みんな、もう駄目だから。早く行くよ」
「あ、ちょ、雪奈ちゃん?」
「行くよ!」
いつになく強い口調、きつい物言い。これは何かある、と思ったら私も逆らうことはできなかった。
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