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ここからは憶測だ。
カナは実家なら確実に凍っていそうな池の水面を見つめたまま考える。
恐らく、あのカフェ・ノーブルブルーで初めて彼と会った時から、何かしらの彼の計画に嵌められていたのだろう。
何が楽しくて、お金と時間をかけてまでそんなことをしたのか理解は出来ないが、その計画は処女を狙ったもので、誰かと賭けのゲームをしていたのだ。
それから自分は彼と夢のような時間を過ごしたが、それは全て彼の計画だった。
さぞおかしかっただろう。
最後のあのメッセージは、気の緩みだったのか誤爆したに違いない。
もう確かめられる手段はなく、傷が残ったのはカナだけだ。
ブーツの隙間から冷たい水が入る。
何がいけなかったのだろう。
そもそもの出会い?
聡は一度も自分を好きだと思うようなことはなかったのだろうか。
それともカナが勇気を出して好きと伝えたら、事態は好転したのだろうか。
つまり、本気になったか。
哀しみも何もかも、この池に沈んでしまえ――
――僅かに雪がこびりつく街が、いつの間にか夕焼けに染まっていた。どうしようもなく体が冷たい。
足も手も体も、なんなら体の中も、氷のようだ。
自分はいつの間にここに移動していたのだろう。カナは赤い水面を見上げた。
やっぱり、伝えなかったことがいけないのだろう。
ゲーム目的だったとは言え、彼の優しさと知性が全部嘘な訳ない。
好きと伝え愛を告白すれば、カナは今頃彼と暖かい部屋で本の話をしていたはずだ。
そして恋愛小説のように、濃厚に愛し合うのだ。
こんな冷たい場所にいてはいけない。
想いだけでも彼に届けなければ。
自分の愛と痛みを、少しでも知ってもらわねば。
カナはゆっくりと池から這い上がる。
ああ、夕日ではなかったのか。あの赤は警察と消防のランプだったのだ。
何やら報道まで来ているが自分には関係ない。
私は今から聡に愛を届けに行くのだから。
『警察に動きがあったようです。今池の底から何かが引き上げられました。行方不明の女子大生と思われます。捜索願いが出されてから八日目の今日――』
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