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木枯らしが吹き、世間がクリスマスムードに入る頃にもなると、カナの世界はほとんど聡で染まっていた。
東京の冬は案外東北よりも寒い気がする。
初年度はそう思っていたのに、近頃どこか上の空のカナには、春の陽気とそれほど変わらないのではないかと言いたくなるくらいには、いつも温かな気持ちで満たされていた。
しかし、欲と言うのはどんな方面にも出て来るもの。
もっと近づきたい。
もっと一緒にいたい。
ただ夜の数時間、カフェでお喋りをするだけなんてもう足りない。
去年は“ぼっちクリスマス”と言う言葉を下らないと思っていた。恋人の有無で何かが変わるとは思っていなかったし、わざわざクリスマスに恋人がいないのが虚しいからと理由で、ほとんど一夜限りのような相手を探すのを馬鹿らしいと思っていたから。
でも、今年は違う。
もし、サンタクロースがいるのなら。
私に、聡さんとクリスマスを一緒に過ごす権利を与えて欲しい。
「……でね、その、カナさんと一緒に行けたらなって」
歯切れの悪い台詞は、きっと彼も言うのに勇気が必要だったのだろう。
思わずカナは「え?」と聞き返した。
クリスマスまであと一週間という頃だった。
「もし嫌でなければ、クリスマスの、夜のイルミネーション・アクアリウムに……」
「えっと、それって品川のですか?」
「そう。きっと混むし、カナさんそういう人混み好きじゃないかもしれないけど、去年凄く評判が良くて綺麗だって聞いて……か、カナさんと一緒に見たら、もっと素敵なんじゃないかって……」
自分の顔の筋肉が、満面の笑みを取ろうとしているのが分かった。
返事は「はい」以外になかった。
十二月二十五日、待ち合わせの午後六時。
カナは時間より三十分早く到着していた。
ブラウンのコートの下は、ダークグリーンの膝丈のニットワンピ。
オフショルダーで、肩回りにファーがついているのが少しドレッシーな雰囲気だ。
小さなビジュー付きの黒いパンストの足に、黒いショートブーツ。
以前は軽蔑していた服装も、今は何の抵抗もない。
「ごめん、待ったかな?」
その言葉に、肩で緩く巻いた髪を揺らして顔を上げた。
ダークブラウンのチェスターコートに、白いニット。細身の黒いチノパン。
ニットのレイヤードがオリーブグリーンだったのが、今日のカナのコーデと合っていて、彼女は聡を見るなり笑顔を浮かべお決まりの台詞を言った。
「ううん。今来たばかり」
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