定年後に届いた贈り物

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定年後に届いた贈り物

 同窓会の案内と共にポストに入れられていたのは茶色い四角形の封筒だった。 「一番の友達?」  あたしは裏面の宛名を見て首を傾げると、サンダルをパタパタと鳴らしながら駆け足で夫の元へと向かった。夫の不貞を疑いたくはない。  けれど、夫が定年を迎えてすぐに届いた茶色い四角形の封筒が気がかりで、さらに一番の友達なんて記載されているから、気にならないわけがない。 「あなたの一番の友達って」  女性かしらと聞きたくて言葉を飲み込む。60歳で今さら嫉妬なんてと思われる。  あたしたちは晩婚で40代で知り合って2人暮らし。子供もいない。 (熟年離婚なんて嫌だわ)  そんな気持ちで夫の倉橋勇夫(くらはしいさお)を見つめてしまう。 「淳子(じゅんこ)さんが気にしているようなことはないですよ」  夫はいつもあたしの心の内を見透かしたように、優しく安心する言葉をくれる人。 「あたしも見てもいいかしら?」  やましいことがないのなら、知りたい夫の一番の友達を。
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