言えないままで

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 いい歳だからとアパートで人前式をした時、やっと気持ちが落ち着きました。仲がいい2人だから一緒になって読んでいるだろうと思い打ち明けます。  何を打ち明けるのか、きっと答えはよくあることで。 “私は、倉橋勇夫さんがずっと好きでした”  その文章を読んだとき、なぜか共感していた。落ち着きがあって誰にでも優しい夫を好まない人なんているのだろうかと。 「大丈夫ですか。淳子さん」  ほら、今もあたしの心情を気にして声をかけてくれる人だもの。 「大丈夫。勇夫さん、照らしてください」 *  言えないままでいたほうがよかったのかもしれません。けど、勇夫さんには淳子さんがいてくれる。そう思い聞かせるのにずいぶん時間がかかりました。  私は勇夫さんに恋をしていました。叶わぬ恋です。同性を好きになるなんて許されなかった時代から、打ち明けるまで50年もかかりました。  私は倉橋の一番の友達でいたままの内田晴樹(うちだはるき)です。やっと想いを届けたころ、私はどうあるべきかを考えました。  結果として、友達のままでいられたらという結論に至りました。淳子さん、不快に不安にさせてごめんなさい。
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